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第216話 好奇心(拓真)
「暇だなぁ~。飲みに行くかな?」
スマホを見ながら女を呼び出すのは止めて、部屋でゴロゴロしてた体を起こし、外に出て酒でも飲むか悩んだ。
「金あったけ?」
飲みに行くにも金が無いと行けない。
無ければATMに行かないと……財布の中身を確認した。
「やっぱ金下ろさないとマズイな。……ん、何だ、これ?」
財布の中に見慣れないブル-の名刺が奥にあった。
取り出して見るとBOYS-BAR honeybee?
その店の名を見て思い出した。
あっ、そう言えば、あの時にあいつが置いていった名刺か?
暫く眺めて財布に戻し着替え始めた。
別に、あいつに会いに行く訳じゃない。
どんな店か興味が湧いただけだった。
大学の奴らも居ないし誰も知る人が居ないし、暇潰しに丁度飲みに行くのに良いと言う考えもあった。
「ここら辺だよな?」
あいつに会った街とブル-の名刺を頼りに店を探して居た。
「あっ、あった。解りずれぇ~」
雑居ビルの2Fに、名刺と同じブル-の看板にBOYS-BAR honey beeとあった。
ご丁寧に蜜蜂も描いてあった。
「ちょっとドキドキすんなぁ~。でも、あいつが居る位なら怖い系の人の店じゃねぇ~だろうし。試しに行ってみるか?」
いつもは大学生って事で居酒屋が多い俺だが、未知の世界に好奇心でワクワク…し、緊張でドキドキ…していた。
緊張しながらドアを開けると、大きめなアメリカンポップな曲が流れていた。
店の中に入りキョロキョロ…見回すと、普通のバーぽかった事にホッとした。
カウンター席のスツ-ルに座りメニューを見る。
まあ、値段も高くねぇ~な。
マッチョ風の顎髭のマスターから声を掛けられた。
「初めて見るね?何、飲む?」
「友人に教えて貰って初めて来た。ビ-ル頼む」
「ビ-ルね。OK」
見た目より軽いマスターに拍子抜けした。
カウンターから店の中を見回す。
カウンターの他にテ-ブル席もあり、男ばっかりだ。
サラリーマンなのかス-ツ着てる奴.今風のチャラい奴.マッチョな奴と色々だが、普通に見えるがこの店に居るって事は皆んなゲイなんだと、男ばかりの店の中で改めてそう思った。
店の中にあいつが居ないか?探したが居なかった。
知り合いが居れば心強いと思う反面、居なかった事にホッともした。
「はい、ビ-ルよ」
顎髭のマッチョのマスターの声で振り返った。
「あっ、ありがとう」
ビ-ルとナッツが置かれ、ビ-ルを持ちゴクゴク…飲んだ。
物珍しく店を見てると、数分後に声を掛けられた。
「1人?一緒に飲む?」
サラリーマン風の人が手に酒を持ち俺の横に立って居た。
「いや、1人で飲みたいから」
「そう、残念」
あっさりとその場を離れて行った。
もっと、しつこくされると身構えて居たから拍子抜けした。
マスターが「断るなら、待ち合わせしてるとかって言った方が良いわよ。偶に、しつこい人居るからね。まあ、その気になったら飲むのもありよ」助言をしてくれウインクして立ち去った。
そっか~。
飲むだけじゃなく、そう言う相手を探す場でもあるんだな。
ここがそう言う場だと改めて体験した。
気を付けないと食われるかもな。
暫く時間を空け、また声を掛けられた。
「一緒に飲まない?」
今度は男にしては綺麗系だったが……。
タイプじゃ無いと思った。
マスターに言われた通りに「待ち合わせしてるから」と断った。
残念そうにしながらも、あっさりとその場を立ち去った。
へえ~、俺って女だけじゃなく男にもモテるんだ。
基本的に男に興味が無い俺だけど……綺麗だったなぁ~。
でも、俺のタイプは小さくって可愛い系だなっと考えてたら、和樹そのものだと思った。
女は綺麗な方が良いが……。
こんな店に来ても和樹の影を追い求めてる自分に笑える。
その位好きなんだと改めて思ったが、この店に来てる事自体矛盾して居るのも可笑しい。
マスターにソルティ-ドックを頼み、次から次へと声を掛けてくる人を断って1時間程で店を出て来た。
帰りの電車の中で面白かったと思っていた。
今日はどんな店かどんな人が居るのか見に来ただけだったから長居はせず出て来た。
店の中は薄暗いが変な人も居なさそうだし、流れてる曲も明るい感じで雰囲気は良かった。
断ってもしつこく無いし……遊ぶには丁度良いかも。
あっちこっちでカップルが出来たのか?
キスしてたりしたのは驚いたが、そう言う店だし。
ま、見てるだけなら面白い。
和樹には言えないが、俺は新たな遊び場を見つけた。
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