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第220話 これも縁(海都)

「接待も疲れる」 「そう言わずに、社長。接待も仕事のうちです」 「まあ、それで仕事が上手くいくならな」 「感触は良かったと思います。あちらも結構乗り気のようですから」 「ん、いつもの道とは違うようだが?」 「いつもの道は工事中で、少しだけ遠回りですが…」 キィキィキィ-…… 急ブレ-キで、体が前のめりになるのを辛うじて回避した。 「どうした?並木」 「ふう~。急にフラっと飛び出して来ました」 「引いたのか?」 「いいえ。直前で、咄嗟にブレ-キ掛けましたので、当たって無いと…」 冷静に話し、直ぐに運転席から外に出て確認する並木を見送った。 取り敢えずは、胸を撫で下ろした。 並木だけじゃ対処に困るかも知れないと外に出た。 車の前に回り確認してる並木に聞く。 「どうだ?」 「どこも当たって無いようですが…。呼吸はしてますが、意識が無いようです。救急車呼びますか?」 「ちょっと待て」 倒れてる人の状態を自分でも確認した。 あっちこっち見たが血も出て無いし、車の方にもぶつかった形跡は無い。 「こちらに過失は無さそうだな。でも、このまま放って置く事は出来ない。私の知合いの医者に診てもらおう。後部座席に乗せるぞ!」 「はい」 体を持ち上げると……。 「……軽い」 軽々と持ち上げ後部座席に乗せ、知合いの医者に診せる為に車を走らせた。 「川田、済まんな。こんな時間に」 「で、患者は?」 「ああ、車の前に倒れ込んで来た。ぶつかって無いとは思うが意識が無い」 俺の腕の中で意識が無い子を見せた。 「解った。取り敢えず、そこに寝かせろ。後は待合室で待っててくれ」 「宜しく頼む」 そぉっと診療室のベットに寝かせ廊下に出た。 「社長、どうでしたか?」 廊下で待機してた並木が心配そうに声を掛けて来た。 「取り敢えず、診てくれるそうだ。廊下で待ってろと言われた」 「そうですか」 個人病院で医師をやってる友人の川田のお陰で助かった。 夜遅くにも関わらずに応対してくれた川田に感謝した 廊下の待合室の椅子に座りながら、どこかで会ったような気がすると考えて居た。 人と会う機会が多い俺は比較的人の顔の覚えが良い方だ。 どこかで会ってると思うが……。 15分程で廊下に出て来た医師の川田が口を開いた。 「今、点滴してる。1時程で帰れるがどうする?家族か誰かに連絡取れるか?」 「俺のマンションに今日は連れて帰る。一応、心配だからな。で、症状は?」 「ああ、それ何だが……。車との接触は無いようだ。症状は寝不足と栄養失調だな」 車との接触が無いと聞いて安心したが、その後の川田の言葉に驚いた。 「はっ?今の時代に栄養失調?」 「ああ。たぶん、ここ数日きちんと食事摂って無かったんだろう。今、点滴してるが飽くまで応急処置だ」 「会えるか?」 「入っても良いがまだ意識は無い。いや、寝てるのかも知れないが」 「それでも良い」 「解った」 俺は診療室に入る前に、並木に指示を出した。 「並木は帰って良い。また月曜日の朝に迎えに来てくれ」 「でも、社長。帰りは?」 「ああ、タクシーを呼ぶから良い。疲れただろ?ゆっくり休め」 「解りました。それでは月曜日に」 並木が頭を下げ去って行くのを確認して、診療室に入った。 ベットの側にパイプ椅子を置き座り顔を覗き込む。 「少しは、顔色が良くなったか?」 目を閉じベットに寝ている顔を見て、それから細い腕に点滴の針が刺さり痛々しい。 「それにしても細い腕だ。顔も子供みたいだな」 自分の口から出た言葉にハッとした。 子供みたい? あっ! そうだ! 確か、2ヶ月位前に ‘R’moneの階段で……あの時の子か? そうか、道理でどこかで会った気がしてたんだが……仕事で会うには若いとは思ってたが…… 人の顔の覚えが良い俺でも忘れてたな。 あの時は大学生だ言ってたが……栄養失調なんて……この時代にあり得ないだろう? 苦学生なのか? 本人から聞いてみないと解らないが……こんな小さな細い体で……と思うと、放っておけなくなる。 1度ならずも2度も思わぬ形で出会ったんだ。 これも何かの縁かも知れない。 少し血色が良くなってきた顔を見てそう思った。

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