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第221話 優しさ(和樹)

ふかふかの軽い布団が凄く心地良かった。 久し振りに良く寝た~。 あ~気持ち良い~。 こんな布団で、朝を迎えられるなんて幸せ~♪ うつらうつらしてた頭でそう考えてた。 あれ~、家の布団って、こんなに軽かったっけ? ハッとして目を開けた。 見慣れない部屋と、大きなベットに寝て居る自分。 えっと……ここどこ? まだ、夢ん中? そう思ってたら、ドアが開いた。 「起きたのか?」 そう言って話し掛けてきた人に、見覚えが無かった。 整った顔で男らしく素敵な大人の男性で、少しボーッと見惚れてた。 「どうだ?気分は?」 慌ててベットから出ようとすると、まだ体が怠い。 「そのままで良い」 「すみません」 枕を背にし、ベットの上で座った。 「あの~……俺、どうして……ここに?」 体はまだ怠いが良く寝た所為か?頭がすっきりしてた 「ああ。昨日の晩に、私の車の前で倒れた。一瞬、引いたのか?と思ってヒヤヒヤした。どうして、あんな遅い時間に居たんだ?子供は寝てる時間だぞ」 子供?良く間違われるけどムッとした。 「俺、子供じゃないし、これでも大学生だから。その時はバイト帰り! ……ただ、朝から目眩はしてたから……すみません。ご迷惑掛けました」 俺の不注意で事故を起こしたと、ヒヤヒヤさせてしまった事と事情が解りお詫びした。  「バイト帰りか?ふ~ん、そうか。取り敢えず、お粥作ったから少しでも食べなさい。今、持ってくる」 そう言って出て行った。 倒れちゃったんだ。 ここ最近、食欲も無く卒論も頑張ってたからなぁ~。 バイト先でも店長や他のバイトの子にも ‘顔色悪いよ’ ‘ちゃんと食べてる?’  ‘無理しない方が良い’とか、言われてたのを思い出した。 自分では無理してないし、ちょっと忙しい位とは思ってたけど……体は悲鳴を上げてたのかも。 これからは気を付けないと……。 そう反省してると、ドアが開いてス-プ皿に湯気が立ってるお粥を持って来てくれ、お盆ごと俺の前に置かれた。 「熱いから気を付けなさい」 「ありがとうございます」 熱々のお粥をフ-.フ-と、何度もし口に入れた。 塩気が丁度良く美味しかった。 「美味しいです」 「ゆっくり食べられるだけで良いから食べなさい。昨日、友人の医者に診て貰った所、寝不足と栄養失調らしい。バイトしてるとは言ったが、食べられない程の苦学生なのか?今時、珍しいが」 フ-.フ-してた口で話した。 「えっと、苦学生ではありません。親からも仕送りして貰ってますしバイトもしてます。ちょっと卒論とか……色々あって、ここ最近食欲が無かった…すみません」 「そうか。忙しいのは解るが、自分の体は自分が労ってあげないとな。倒れる位だから、相当無理してだんだろう」 何も知らない全く関り合いも無い俺の事を、他人のこの人は心配してくれた。 それだけなのに……心も弱ってたんだ。 作ってくれたお粥を見つめてると、目の前が滲んできた。 泣いちゃダメだと思いつつ、他人の優しさに触れ涙が出てきた。 慌てたように駆け寄り声を掛けてくれた。 「ど.どうした?大丈夫か?」 心配そうに俺の顔を覗き込む目を見て、俺は誰にも言えず我慢してた事をポツリ.ポツリ…と、なぜか?自分でも解らないけど話し出した。 たぶん、俺とは違う世界の人で、もう会う事も無いと……誰かに聞いて欲しかった。 「……俺…1年前位から…付き合ってる人が居て……その人…男の人なんだけど……ずっと好きで…でも、女の子に凄くモテるし、男なんか興味無いって解ってるから……何度も諦めよう……でも…奇跡が起きて……その人と付き合う事になって…凄~く嬉しくって楽しくって……幸せだった」 いきなり変な事を話し始めた俺の話しを、何も言わずに黙って聞いてくれた。 「それで?」 「その人は凄く誤解されるタイプだけど……優しさが解り難いだけで……」 拓真の事を考えたら、涙がどんどん溢れてきた。 自分でも、相当我慢してたんだと改めて思った。 それから俺はその人に託され、ゆっくりと支離滅裂だけど今日までの事を話した。 大学4年生になり就活ですれ違いが多くなった事.浮気してると感じた事.実際に現場を見た事.就活終わって今度は卒論やバイトでまたすれ違いになってる事.暫く治ったと思ってた浮気を感じてる事……。 「そうか。辛かったな」 短い言葉を発して、俺の頭を撫でてくれる手に優しさを感じた。 俺はまたまた涙が溢れた。 暫く、俺が泣き止むまで、ずっと頭を撫でてくれた手に安心した。 「すみません。こんな事を聞かされても困りますよね」 「気にするな。辛い時には吐き出さないと。体に表れるまで我慢する事は無いんだ。誰か聞いてくれる人は居なかったのか?」 武史の顔が浮かんだけど……。 「親友の武史は俺達が付き合ってる事を知ってる唯一の人です。でも、武史は俺の気持ちを優先してくれるけど……付き合う事は良く思って無いみたいで……相手が悪いって思ってるみたいで……余り相談出来ないし愚痴なんか言ったら……別れろって言われるに決まってる……武史は本当に俺の事を親友として、大切に思ってくれてるの解るから」 「良い親友を持ってるな。ほら、手が動いてない。もう、冷めてる筈だ、もっと食べなさい」 「……はい」 相手が大人だからなのか? この人が話し易い雰囲気を作ってくれたから? 今まで我慢してた不満や不安を話せた事で、心が軽くなった気がした。 お粥を半分程食べてまた眠くなり、いつの間にかふかふかの布団とベットで寝てしまった。

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