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第223話 不思議な関係?(海都)

プライベートで使ってる車に乗せ、20分程走らせた場所にある小料理屋に向かった。 車中では緊張してるのか?キョロキョロ車の中を見たり外の景色を見たりと忙しそうだった。 「どこに行くんですか?」 「ああ、こじんまりとした店だから気楽にしなさい」 「……はい」 「帰りは遅くならないが、送って行くから安心しなさい」 「そこまでご迷惑掛けられません。電車で帰ります」 「帰り道で、また倒れたらどうするんだ?」 「………すみません。お願いします」 素直な子だと思った。 そうこうしてる内に、目当ての店に近づいて来た。 近くのパ-キングに車を停め歩く。 ガラガラガラ…… 「いらっしゃい」 直ぐに、俺の顔を見て女将に和やかに挨拶された。 「今日はお1人じゃないんですね。あらあら、可愛らしい子を連れて」 俺とこの子じゃ歳も違うし友達では無いのは丸分かりだ、精々、親戚の子辺りが妥当だろう。 「親戚の子なんですよ。たまたま遊びに来たので。女将、今日は車なので食事だけで。私には適当に、この子には体に優しい物を出して下さい。少し体調が良く無いので」 「あらあら、風邪でも引いちゃったのかしら?解りましたよ」 気の良い女将は直ぐに料理し始めた。 カウンターの前には、大皿でお惣菜が10種類近く乗っていた。 煮物.煮魚.玉子焼き.漬物.和物など焼物家庭的で美味しそうだ。 冷めて味が入る物は大皿で焼魚や揚げ物などは、熱々をその場で料理してくれる。 小料理屋は初めてなのか?目の前の大皿をキョロキョロ…と興味深そうに見ていた。 「何か、食べたい物でもあるか?言えば、取り分けてくれる」 目の前の美味しそうな料理を前に、少しでも食欲が出てきたのか? それなら、連れて来た甲斐があるもんだが。 「どれも美味しそうです。……体調が悪く無ければたくさん食べるんですけど……余り食欲無いから残したら悪いなぁ~って」 「1つでも少量でも取り分けてくれるから、安心しなさい」 「それなら……南瓜の煮物を1つと……玉子焼き1つで」 それだけ?と思ったが、昨日点滴してからお粥も半分も食べて無い体には無理は言えない。 「女将、南瓜の煮物1つと玉子焼き1つお願いします」 「はい.はい。朝倉さんは煮魚と椎茸の肉詰めの定食で良いかしら?隣の子には、あっさりうどんで?」 「美味そうです。それでお願いします。うどんで良いか?」 「はい。少なめでお願いします」 「解りましたよ。はい、南瓜と玉子焼き」 「ありがとうございます」 女将からカウンター越しに手渡され自分の前に置き、箸で小さく南瓜の煮物を切り取り口に入れた。 「うわぁ~、甘~い。凄く美味しいです」 「ありがとう~ね。余り砂糖とかは使って無いのよ、南瓜本来の甘さでこってりしてないでしょう?もう少し食べられるなら言ってね」 「ありがとうございます」 玉子焼きにも口をつけ「美味しい~♪美味しい~♪」と笑顔が出ていた。 俺の前には定食が出てきて俺も箸を付けた。 う~この煮魚いつ食べても美味い。 心の中で絶賛していた。 和樹君の前にもうどんが出され、1~2本を箸ですくい口に入れていた。 汁も出汁を効かせ、あっさりとした色合いだ。 流石に気配りが出来てると、女将に感心した。 それから食べながらポツリポツリ…話し掛けた。 「バイトは長いのか?」「大学では何かサ-クルに入ってるのか?」「大学の専攻は?」「就職先は決まったのか?」 俺からの質問に答えるが、いつもその中には彼氏の話しがついてくる。 その位長い事一緒の時を過ごしてるんだなっと思った 「就職先は拓真が ‘俺の近くに就職しろよ‘って言ってくれたから近場に決めました。それって卒業しても、ずっと付き合っていきたいって事でしょ?凄く嬉しかった~。今は、その言葉を信じるだけ」 その時の事を思い出したのか?凄く嬉しそうに笑って居た。 一途なんだな?と、今時珍しいと感動すらしてしまう 裏切られても耐えて別れない位だ、本当に好きなんだろう。 「専攻が情報系なら就職先はIT?」 「そうです。大企業も受けましたけど落ちました。でも、俺には中小企業の方が合ってると思ってたんで。皆んなで力合わせたり、1つの仕事を最後まで自分でやり遂げたいし」 「へえ~感心な心構えだな。実は、私もIT企業を経営してるんだ。君の言う所の中小企業だから、少人数だがやる気のある者ばかりだ」 「主にどんな仕事が多いんですか?」 「IT系の事なら何でも……。そうだなぁ~。社員の得意分野を生かす事が1番だと思ってる。3チ-ムに分かれてエンジニアチ-ム、パソコンチ-ム、スマホチ-ムでそれぞれ3~4人でな。エンジニアは修理やネットワ-クの設計.構築.保守.運営など。パソコンは映像.企業のHP.など、スマホはゲ-ム.アプリ開発などかな。私と秘書は営業だ。こちらの開発したものを企業に売込み、逆に企業からも仕事を貰う」 「凄い面白そうですね。自分の得意な分野を生かせるなんて羨ましい」 「今はスマホチ-ムが忙しいからな。実は、新卒を採用しようと思ったが、なかなか情熱のある子が居なくて今年はやめた。仕事は徐々に覚えれば良いが気持ちの問題だな。これって言う子が居なかった。忙しいのに~って怒られたが、長く考えれば今年無理に採用しなくとも来年に期待すれば良いし」 「社長なのに怒られるんですか?」 「人数も少ないから社員との距離が近いし、何でも話せる雰囲気にはしてるつもりだ」 「社員さんも居心地が良さそうですね」 「良いかどうかは解らないが、言いたい放題言ってくれる」 そう話すと笑って聞いていた。 同じITと言う事で話しが盛り上がり打ち解けた。 帰る頃には、お互い笑って冗談まで言えるようになった。 久し振りに、学生時代に戻った気がする。 女将にお礼を言い支払いを済ませ、和樹君を送って行く事にした。 「ここで良いです。もう目の前がアパートなので」 「そうか。一応、車の前で倒れたから何かあってもいけない、連絡先だけ交換してくれるかな?」 「……はい」 スマホで電話番号とLINE交換をし、俺の名刺も1枚渡した。 アパートの前で降ろし、何度もお礼を言いアパートに入って行く後ろ姿を見送り車を走らせた。 1度ならずも2度も会うとは、不思議な出会いだが。 幼さとハッとするような大人びた顔を見せ、それで健気な感じの彼が放っておけない気がする。 また、食事を取らずに倒れても……。 また、明日に一応連絡してみよう。 年齢も違う新しい友達?いや、弟?いや、親戚の子か 歳の離れた知合いが出来た事が、何だか心がウキウキとした。 この時には、学生に戻ったような気がしてるからだと思っていた。

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