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第229話 慰めてあげたい(海都)

仕事を終え、自分のマンションに着いたのは22時過ぎていた。 「社長、明日も8時にお迎えに参ります」 「ああ、宜しく頼む」 そう言って、秘書の並木の運転する公用車を降りた。 マンションのエントランスを抜けエレベーターで部屋に向かう。 遅くなった、今日は和樹君に電話できないか? バイトかも知れないし、Lineだけしても良いか? そんな事を考えながら、自分の部屋の階でエレベーターを降りた。 ん、部屋の前に誰か居る? 近づくと、小さな体を丸めて体育座りで膝に顔をつけ俯く姿があった。 「和樹君?」 俺が声を掛けると、顔を上げ泣き出しそうな顔で居た 「どうした?何か、あったのか?」 駆け寄ると立ち上がり、俺に抱き着き泣いていた。 「朝倉さん! …た.拓真が…拓真が……」 そう言ってシクシク…泣き始めた。 ずっと我慢してたんだろう。 俺の顔を見た途端に涙をポロポロ…流し、泣き出す姿に愛しさが込み上げてきた。 愛しさ?いや庇護欲だろう。 自分の感情に戸惑いつつ 「取り敢えず中に入って、それから話しを聞くから。部屋に入りなさい」 和樹君の小さな細い肩を抱き部屋に入れた。 ソファに座らせ、ス-ツの上着を脱ぎネクタイを解きソファの背に掛けた。 「何か飲み物を持ってくるから、待ってなさい」 まだ泣き続ける和樹君から離れキッチンに行きコ-ヒ-を入れ、和樹君には体調も考え温めた牛乳を出した。 「これでも飲みなさい」 俺もコ-ヒ-片手に、和樹君の隣に座り泣顔を覗き込む 「どうした?何があった?ゆっくりで良いから話してみなさい」 それから視線はテ-ブルの1点を見つめポツリポツリ…と話し始めた。 時折、声を震わせ涙声に鳴りながら話す姿が痛々しい 大まかな内容が解り、和樹君は何も悪く無い、彼氏の方が一方的に悪いと、俺は思いそう言って慰めようとした矢先に和樹君からまた話してきた。 顔を覆い震えた声で話す。 「俺…俺…最低なんだ。拓真に疑惑を持ってて……この間も……拓真の…薄かったのを確認したり……今日だって……寝室で枕の匂い嗅いだり……ゴミ箱まで確認して証拠を探して。ショックが大きいのは解っても…ダメだって思ってるのに……それでも拓真には何も言えず……もし言って別れる事になるなら俺が我慢すれば良いって……でも、その裏で浮気の証拠を探して、俺……小聡明(あざと)いんだ」 浮気する彼が悪いのに自分を責めて……何て、優しいんだろう。 まだ、大学生なのに……。 「和樹君。そんなに自分を責めるもんじゃないよ。話しの内容から言っても和樹君は悪い事はして無い。彼氏の方が一方的に悪いと思う」 顔を覆いながら首を横に振り 「でも…でも…俺は陰でそんな事をして」 覆ってる手首を掴み顔を見合わせた。 「和樹君は彼氏の事を本気で好きなんだね。本気の相手が浮気してるかも?って思ったら、確かめたくなるのは当たり前の事だよ。その後の行動で、その人の人間性が解る。浮気されて逆上するタイプや和樹君のように自分が知らない振りで我慢するタイプと人それぞれだ。和樹君は優し過ぎだ!」 「だって、拓真は元々女の子にモテるし、男の俺と付き合ってくれてるだけでも充分だと……」 「そんな負い目を感じなくても良いんだよ。彼も和樹君が好きじゃなきゃ付き合わなかっただろうし、そこはお互い様なんだよ」 「じゃあ、何で浮気するの?俺だけじゃ満足してないって事?それとも好きっていつも言うのも嘘なの?」 「さあ?なぜ浮気するのか?は、彼氏の気持ちだから他の人には解らないよ。どんな理由があるかは本人しか解らない」 「俺…俺…どうしたら良いか解らない。拓真の事好きだけど……どんどん自分が最低な人間になっていく……でも、好きなんだ」 涙をポロポロ…流し話す姿が、可愛そうで見てられない。 「……和樹君も浮気したらどう?」 俺の言葉に驚き首を横に振った。 「出来ないよ。自分がやられて嫌な事はできない!」 こんなに愛されてる彼氏が羨ましい。 この子の愛情深さが愛おしい。 自然にそう思っていた。 「そうか。でも、これからも和樹君だけが犠牲になって、言いたい事も言えずに耐えていくの?和樹君を慰める相手も必要なんだと思う。私が慰めてあげようか?全て、忘れさせてあげるよ」 なぜ、そう言ったのか? 思うより、先に言葉に出ていた。 驚いた顔で、それでも目を逸らし顔も逸らし話す。 「朝倉さんに、そんな役目お願いできない。朝倉さんには、こうして話を聞いて貰ってるだけでも充分なのに……」 逸らした顔の頬に手を当て見つめ合う。 「和樹君、辛いんだろ?少し楽になりなさい。私の事なら心配しなくて良い。私には今は恋人は居ない! だが、そう言う相手は何人か居る。お互い都合が良い時に会う大人の付き合いだ。私なら和樹君とそうなったとしても、今までと変わらないと断言出来るよ。和樹君が今日だけって言うならそうするし、そのまま続ける事も和樹君の自由だよ」 大人の振りして話すが、和樹君を抱いて一時(いっとき)でも、彼の事を忘れさせてあげたかった。 「俺…俺…もう頑張れないかも……朝倉さん…卑怯だけど…利用してるのかも…だけど…今日だけ…今日だけで良いから…ごめ……」 そう言ってポロポロ…泣く顔で、俺の胸に抱きついたいや縋ってきた。

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