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第232話一夜限り③(海都)
ピピピピ…ピピピピ…
セットした目覚まし時計が鳴り、もう少しだけと止め柔らかい体を抱きしめていた。
「ん……」
いつもとは違う感覚に目が覚めた。
俺の腕の中でスヤスヤ…と幼い寝顔があった。
「……和樹君」
そうだ、朝方まで和樹君を抱いていたんだった。
時計を見ると、もう起きる時間だったが、もう少しだけ……このままで居たかった。
「2時間程は眠れたか」
スヤスヤ…と幼さが残る寝顔と昨日の夜の色っぽい顔とは別人のように思われた。
「少しでも辛い事を忘れてくれたかな?それとも……後悔されたら、こっちが辛いな」
起きた時の和樹君の反応が怖かった。
俺は……この子の事を見守ってやりたい。
これからも変わらず、愚痴を聞きセックス無しでも良いから、慰めてやり励ましていきたい。
この子の一途な想いが成就するまで。
そんな事を考えてると和樹君が身動ぎした。
「…ん…あったか~い」
俺に抱き着く姿が可愛いらしい。
だが、直ぐにハッとした顔を見せ体を離した。
残念! もう少しだけ見て居たかった。
「朝倉さん!」
「おはよう。よく眠れたかい?」
「……はい」
「そう、良かった。体は何とも無い?一応、和樹君が寝た後に掻き出してタオルで体は拭いたけど。さっぱりしたかったらシャワー浴びなさい」
「すみませんでした。……自分の部屋に帰ってからシャワ-浴びます」
「そうか。体は大丈夫かい?」
「……たぶん」
言葉少ない和樹君に躊躇ってしまう。
「……あのぉ~」
和樹君の話す内容を聞く前に、俺から言葉を発した。
「マズい! ゆっくりし過ぎた。私はシャワ-を浴びてくるから、和樹君は冷蔵庫にある物何でも使って良いから。牛乳でもヨ-グルトでも好きな物を食べなさい。ちょっと失礼する」
そう言って、全裸で寝室を出てシャワ-を浴びに行った。
ザァ-ザァ-…ザァ-…
熱いシャワ-を浴び、この後の事を考えて居た。
和樹君、後悔してるのかなぁ?
そうだったら、俺はショックだが……。
今後も和樹君の事は見守っていきたいと思っていたばかりだ。
さて、どう話そうか?
取り敢えず、時間が無いのは本当だ。
ベットで思いに耽っていたからな。
和樹君、帰って無いだろうか?
もし…そうなら後悔して拒絶の意味?
急に心配になり、直ぐに浴室を出た。
腰にタオルだけ巻き、リビングに逸る気持ちで向かった。
どうか居てくれ!
リビングに行くと、着替えてソファに座って待ってる和樹君の姿が見えて胸を撫で下ろした。
良かった~。
「和樹君、冷蔵庫の中のは好きに使って良いって言った筈だが?」
「今は、何も要りませんから」
「済まない。ちょっと着替えてくるから待っててくれ」
「あっ……はい」
寝室に向かいクロ-ゼットの中から下着を身につけス-ツに着替え、リビングに向かった。
リビングに置いた俺の携帯が鳴った。
「ああ、後10分で出る。待っててくれ」
秘書の並木からの電話を切り、和樹君と話す。
「秘書が下の駐車場で待ってる。駅まで乗って行きなさい」
戸惑いを見せた顔をした。
「大丈夫です。ここから駅には近いですから歩いて行きます。お仕事に向かうのに、ご迷惑掛けられません」
本当に言葉通りだろうか?
もう俺とは会いたくない?
「会社に向かう途中で、ちょっと寄れば良い話だ。気にしなくって良い、いや駅まで責めて送らせて欲しい」
少し考えたようだが微笑み話す。
「そこまで言ってくれるなら……ご迷惑じゃなければお願いします」
「そうか、じゃあ出ようか?」
「はい」
鞄を持ちリビングを2人で出た。
玄関で靴を履く和樹君の背後から声を掛けた。
「和樹君、これからも会ってくれるかい?連絡しても良いだろうか?」
どう返事が返ってくるのか?ドキドキ…した。
靴を履き終え、背後に立ってる俺に向き直り
「朝倉さんが良ければ、俺は大丈夫です」
その言葉にホッとした。
「和樹君とあぁ~なって、後悔してもう会わないと言われたら、どうしようかと考えてた」
正直な気持ちを話した。
「朝倉さん。俺、さっき朝倉さんがシャワー浴びてる時に考えてました。俺が自分で決めた事です、後悔してません。それに……あの時だけって……。俺、朝倉さんに甘えて愚痴言ったり話し聞いて貰って随分救われてます。誰かに寄り掛かったら、もう1人では耐えられない.頑張れない! だから、もう少しだけこのままでも良いですか?」
守ってあげたい!
思わず、和樹君の体を抱きしめた。
細く小さな体は、俺の腕の中にすっぽり納まる。
「ありがとう。君が私を必要無くなるまででも良い。私はまた今日からお地蔵さんか壁になる。だから、いつでも連絡してきてくれ。話しを聞いて欲しい時は、ここにいつでも来ても良い」
「えっ、でも……朝倉さんの」
セックスフレンドの事を気にしてるのか?
抱きしめた体を離し、肩に両手を置き和樹君の目線に合わせて屈み目を見つめ話す。
「ここには誰も入れた事が無い! 秘書の並木は別だが。誰にも住んでる場所は教えて無い! だから、そんな事は気にしなくって良い」
「それなら今までと変わらないって事でお願いします」
笑顔を見せた和樹君に俺も微笑んだ。
「私の方こそ宜しくな。和樹君と会えるのは学生に戻った気分になれる」
「朝倉さん、そこまで歳いって無いでしょ?大袈裟~」
「学生だった頃はもう何年も前だ。あっ、マズい! 秘書を待たせてる。怒ると怖いからな。急ごう」
俺も直ぐにビジネスシュ-ズを履き部屋を出て、2人でエレべ-タ-に乗り駐車場に向かった。
「秘書の方って、そんなに怖いんですか?」
「ああ、対外的には一応社長として立ててくれるが……内輪では付き合いも長い事もあり、窘(たしな)められたり小言を言われたり叱られる。どっちが社長か解らん!」
「怖そう~」
「本当に、怖いぞ」
笑いながら話し、以前の関係に戻ったようだった。
やはり泣き顔より笑ってる顔の方が良い!
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