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第233話 戸惑い(海都)

少し遅れて駐車場に着くと、並木が既に車の外で待っていた。 「済まん。遅れた」 「遅れたじゃありませんよ!」 「悪かった」 「早く乗って下さい! ……あれ?……この子は…」 並木はあの時の子だと気付いたようだが、和樹君はあの時意識が無かったから並木の事は解らない。 俺の背後から横に並び挨拶した。 「あの…初めまして。明石和樹です」 「初めまして。秘書の並木です」 和樹君に合わせ挨拶した並木は流石は秘書だと思った 「並木、駅に回ってから会社行ってくれ」 「はい。解りました」 和樹君を伴い後部座席に座り、並木の運転で駅に向かう。 クイクイッと袖口を引っ張られ、何だ?と思い顔を寄せると、俺の耳元で内緒話しを始めた。 「朝倉さんの嘘つき。全然、怖そうじゃないじゃん。優しそうだよ?」 俺も応えるように、今度は俺が和樹君の耳元で話す。 「見た目に騙されるな。あ~見えてめちゃくちゃ怖い!」 顔を見合わせ、並木に気付かれないように小さく笑った。 駅のロ-タリ-に着き和樹君が車から降りる。 「ありがとうございました」 「和樹君。また連絡するから、和樹も気にせずに連絡して欲しい。いいね?」 「はい」 笑顔を見せドアを閉め、駅へと歩き始めた後ろ姿を眺めていた。 ぎくしゃくしなくって良かった。 起きた時にはどうなるのか?とドキドキしてたが、これからも会う約束が出来た事にホッとした。 あの小さな細い体で、俺の…を受け入れてくれたのか?と考えると、愛しさが込み上げてくる。 和樹君が駅の階段に登って見えなくなったのを確認して向き直った。 ジト~っと、バックミラ-越しで見る並木と目が合った 「何だ?」 「いいえ、車出して良いですか?」 「ああ、出発してくれ」 それからチラチラ…とバックミラ-越しに見る並木が気になり口を開いた。 「何だ?何か言いたい事があるんだろ?」 大体の事は予想はつく。 「では、話させて頂きます。あの子は以前に車の前に倒れて来た子ですよね?」 「そうだ」 多くは語らない事にした。 「社長の性生活はプライベートの事ですから、今まで特に強くは言いませんでしたけど…。まさか高校生に手を出すなんて! 犯罪ですよ?解ってますか?節操が無いのにも困りますよ!」 「……あ~見えて大学生だ。20歳(ハタチ)過ぎだ」 「はあ~?あの子が?見えない。ま、社長の事を信じましょ! それで社長は本気なんですか?」 今度はこっちが驚く番だった。 「なぜ?そう思う?」 バックミラ-からチラッと見られ 「なぜ?って。あの子が駅に入って行くまで、愛しそうな顔で見てましたよ」 並木の指摘にドキッとした。 まさに、和樹君の後ろ姿を見て愛おしいと思っていたからだ。 「……そんなつもりは無い」 「それに社長はそう言う方が何人かいらっしゃいますが、誰1人として部屋に入れた事が無いじゃないですか?いつもホテルですよね?」 良く知ってるな。 「まあな」 「本気なんですか?」 同じ質問をする並木にはそう見えるのだろうか? 「はっ! なぜそう思う」 本当に不思議だった。 「社長、お解りになって無いのかも知れませんが、ここ最近ご機嫌って言うか楽しそうです。それに暇が有れば、携帯をチェックしてるじゃないですか?だからてっきり本気のお相手が出来たのかと安心してましたが……」 自分では解らなかったが……。 「いや、あの子とは、そう言う風には思って無い」  「へえ~、そうは見えませんでしたけど?」 「どう言う事だ?」 「後部座席に2人で座って、耳元で話してイチャイチャしてるように見えましたよ。お互い顔を見合わせて笑っちゃって~」 「そう言うつもりは無かったが…」 まさか、並木の悪口を言ってたとは言えない。 「ふ~ん。ま、良いですけどね。ただ、良い加減に誰かと真剣にお付き合いして下さい。結婚しろとは言いませんが、もう落ち着いても宜しいと思いますよ」 「………」 それに関しては、何も言えなかった。  「社長のセックスフレンドが何人居るのかは知りませんけど、それだけの関係って虚しくならないですか?後は、偶に摘み食いもしてますよね?仕事は出来る方なのに性生活がだらしないなんて、社員に示しが出来ませんよ。本当に、あなたって人はxxx xxx xxx」 並木の小言が続いたが、耳が痛い事ばかり言われ聞き流した。 確かに、食事をしてホテルに行くと言うパターンだが相手も始めからそのつもりだし、誰1人として別に文句を言われた事が無い。 摘み食いは飲みに行った時に、誘われてタイプだったりそう言う気になった時だけだ。 セックスフレンドも何人か居るし、わざわざ探す必要もない。 恋愛のゴタゴタ…で、時間を無駄にしたく無いのと、そう言う恋愛事で精神面の疲労するぐらいなら、仕事で疲労した方がマシだ。 もう、あんな想いは懲り懲りだ。 その為のお互い割り切った付き合いのセックスフレンドが1番楽だと思っていた。 若い頃と違って、俺には恋愛事で費やす熱い気持ちはもう沸き起こってこないだろうと、だから和樹君の一途で健気な恋が羨ましく応援したいだけだ。 どんなに辛くとも、相手を一途に想う和樹君の健気な想いが成就するまで……。 そう思うと、一瞬だけ胸の奥がズキっとした。 和樹君の愚痴を聞いてあげたり悲しい時には側にいてやりたい。 愛しい。 ハッとした。  思いに耽っていて、思わぬ事を思っていた。 愛しい……いや違う、そんな筈がある訳がない! 守ってあげたいだけだ! まだ、小言を話す並木に空返事し、自分の考えに戸惑いつつ自分に言い訳していた。

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