236 / 379

第237話 (海都)

和樹君のバイト先を出て、近くのコンビニでスポ-ツドリンクとコ-ヒ-を買い、駐車場の車の中で和樹君のバイト終わりを待って居た。 「そろそろ上がりか?」 久し振りに見た和樹君は、また少し痩せて居たように思った。 常連さんやらと和やかに話し笑顔を見せて働く姿は偉いな~と、食事をしながら目で追って居た。 小さな細い体でちょこまかと動き忙しそうに働いてたが、俺はいつ倒れるんじゃないかと心配になる程だった。 和樹君が来る方向を今か.今かと見ながら待っているがなかなか現れない。 「何かトラブルか?」 和樹君の性格から考えても来ないって言う事は無いと考えているが、時間が経つに連れ少しばかり心配になってきた。 和樹君との事があった翌日に、仕事でトラブルが起きた事と私用とが重なり忙しく連絡出来ずに居たからだ 連絡出来ずに居る俺をどう思ってるか?それも不安要素でもあった。 来てくれよ、いや和樹君は必ず来る。 そう考えてた所に人影が見え、だんだんと駐車場に近づいて来る。 「和樹君。やはり来てくれた」 和樹君の姿だと解り、ホッと胸を撫で下ろした。 やっと話せる。 車の側に立ち、窓越しに顔を見せた。 車の窓を開け 「バイトお疲れ様。さあ、乗って」 「あの…良いんですか?」 「良いも何も、私から送って行くって話したんだよ?さあ、乗って」 「じゃあ……すみません」 助手席のドアを開け、乗り込んできた和樹君にスポーツドリンクを手渡す。 「お疲れ様。忙しそうだったね、喉乾かない?それ飲みなさい」 「はい。いただきます」 キャップを開けコクコク…と飲む姿に、やはり喉が乾いていたのか。 「食事は?賄い?」 「あっ……はい」 この返事じゃ賄いも食べて無いか?残したんだろう。 スポーツドリンクにして良かった。 少しは栄養補給になるだろう。 「そうか、少しだけ話しても良いかな?」 「……はい」 「久し振りだね、和樹君と話すの」 「……朝倉さん……もう連絡するつもり無かったんじゃ……どうして?……会いに来たの?」 なぜ、そう思うのか?不思議だったが、実際に連絡出来ずに居た理由を話す事にした。 「そんな事は無い。なぜ、そう思ったの?」 「……あの日の事を…時間経つに連れて後悔したんじゃ……それなら、このままフェードアウトしてくれても良かったのに……じゃないとまた俺…」 泣きはしなかったが、ペットボトルを握り締め俯く。 「フェードアウトって?和樹君は私と会いたくは無かったの?」 首を横に振り意思表示した。 あ~良かった。 「なら、どうして?」 根気強く、和樹君の真意を聞き出そうとした。 「だって……また会ったり連絡したりすると……あの日から連絡無くなって……俺…今まで、朝倉さんに頼って甘えてたって気が付いた……そして朝倉さんからの連絡を待ってた……でも、やっと踏ん切りがつきそうだったのに……また会ったり連絡したりすると……俺…また朝倉さんに頼って甘える……もう1人じゃ耐えられなくなる。だったら…このまま…と思ってた」 この何日間で、そんな事を考えていたのか? でも和樹君の ‘連絡待ってた‘ って、言葉が嬉しかった 和樹君の中でどんな位置付けか?は、解らないが……愚痴を聞いてくれる人でも甘えさせてくれる人でも何でも良い、和樹君の中に俺の存在がある事が嬉しかった。 「そうか、ごめんね。そんな不安な気持ちにさせてたとは…本当にごめん」 俺が謝ると和樹君は俯いた顔を上げ、車に乗ってから初めて俺の顔を正面から見た。 「朝倉さんは何も悪く無い。初めから、俺が朝倉さんに頼って甘えて優しさを利用してたんだから」 自分を責める和樹君の頭を撫でて話す。 「そんな事は無いよ。私も和樹君と会う事も話す事も嬉しいんだ。それと連絡出来ずに居たのは、仕事でトラブルが起きてね、その対処で忙しくなって連絡出来なかった。Lineだけでもすれば良かったね。私の落ち度だ、ごめんね」 「……そうだったの。ごめんなさい、俺が勝手に色々考えちゃって。やっぱ甘えて嫌になったのか?とか、子供の相手はしてられないとか……あの日の事を後悔してるとか……ごめんなさい」 「あの日の事は後悔して無いよ。それに話したよね?和樹君と今後も連絡したり会ったりしたいって、今まで通りお地蔵さんでも壁にでもなるから1人で抱え込まないで悩みを話してほしい。それを甘えてるとか和樹君が自分を責める事じゃないよ。私がそうして欲しいって言ってるし、頼りにされて甘えられる事が嬉しいんだからね」 「……ありがとう朝倉さん。……俺…今まで誰にも言えずに頑張ってたのに……朝倉さんに話しを聞いて貰って気持ち的に楽になってたから…もう1人じゃ頑張れないかも……って」 「この間も言ったけど、和樹君が私を必要としなくなるまで見守らせて欲しい」 「ありがとう」 溜まっていた涙が溢れ、手で拭く和樹君が愛しく思う 「泣き止んだかな?」 「…はい」 「なら、送るね」 「お願いします」 車を走らせ、誤解が解けホッとし話題を変えた。 「卒論の方はどう?順調?」 「はい、もう殆ど終わってます。後は、もう1度見直して今週末には教授に提出する予定です。何とか間に合います」 「そう、なら卒論提出し終わったら食事にでも行かない?」 「良いですけど…仕事の方は大丈夫ですか?」 「トラブルは解決したから、今日、和樹君に会いに来たんだよ。もう大丈夫。バイトもあるだろうから和樹君の予定が良い日を連絡して欲しい」 「解りました。卒論提出して、バイトシフト確認して連絡します」 「待ってるよ。それ以外でも何でも良いから連絡して良いからね。Lineでも電話でも。会議や接待とか打合せとかで、直ぐには連絡出来ない時もあるけど、折返し連絡は必ずするから」 「はい」 和樹君と会う約束を取り付け連絡し合う事も確認し、和樹君のアパート前まで送った。

ともだちにシェアしよう!