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第248話 愛おしい① (海都)
武史君との食事を終え、気持ち的に高揚してた事もあり、頭をク-ルダウンさせる為にと仕事をしに会社に戻った。
誰も居ないオフィスは集中でき、気が付いたら遅い時間になって居た。
マンションの駐車場に車を置きエレベーターに乗り「11時過ぎか~」と、階表示版を見ながら独り言を言ってた。
武史君との食事は大人気無く緊張したな。
武史君に俺の気持ちを解って貰う為に.協力を得る為に必死だったと、時間を置き冷静になった今になって思った。
そんな事を考えてると、エレベーターのドアが開き部屋へとゆっくり歩き始めた。
ん、誰か居る?
ここに来る人は秘書の並木か……和樹君?
足早に部屋を目指した。
部屋の扉に体を預け、体育座りで顔を伏せてる和樹君の小さな体があった。
前にも見た光景だ。
あの時も浮気の証拠を見つけて……辛くてここに来たんだよな。
また?
昨日、武史君と3人での食事会の時には、楽しそうに笑ってたのに……。
「和樹君」
俺の声を聞いて上げた顔には涙が頬を伝ってた。
声も出さずに1人で泣いてたのか。
電話でもLineでも寄越せば仕事を止めて直ぐに帰って来たのに……と思ったが、でも俺を頼って来てくれた事が嬉しかった。
「……朝倉さ…ごめん……俺」
「部屋で聞くから入ろう」
和樹君を立たせて体を支え玄関ドアを開け、リビングのソファに座らせた。
ス-ツの上着を脱ぎ、ソファに掛けキッチンに向かいコ-ヒ-とココアを用意し、和樹君の元に持って行きココアを和樹君に渡した。
「さあ、ココアだよ、温まるから飲みなさい。あんな寒い所で……風邪でも引いたらどうするだ。ゆっくり飲みなさい」
前にコ-ヒ-を入れた時に砂糖とミルクをたくさん入れたのを見て、ココアの方が好きだと言う和樹君の為に買って置いた。
使う時は無いかもと思いながらも……部屋に用意して置いて良かった。
俺も気持ちを落ち着かせる為に、コ-ヒ-に口をつけた。
ココアを両手で持ち涙を溜め一点を見ている。
「和樹君、1口でも良いから飲みなさい。少しは温まるからね」
ゆっくり口元に持っていき1口だけでも飲んだ事にホッとした。
「どうした?何かあった?」
「…………」
言いたく無いのか?
でも、聞いて欲しいんだろう。
「私はお地蔵さんだよ?何を聞いても人には言わないし、嫌ならアドバイスもしない。黙って聞くだけにする」
ギュッとカップと握り締めて口を開いた。
「俺…今日…拓真と会った」
「それで?ゆっくりで良いからね」
「……昨日…行くことLineして……既読にならなく…って…今日の朝にもLineして……待てない……我慢できなかっ……お昼過ぎに拓真の部屋に……ヒック…ヒック…」
握り締めてたココアを取りテ-ブルに置き、泣き始めた和樹君の背中を撫でた。
「連絡が無かったから、彼の部屋に行ったんだね。それで?」
「うぅ…ヒック…ドアが開いてて…また?…でも玄関に靴は、拓真のしか無かった……うぅ…ホッとした…部屋に拓真が居ないから…寝てると思って…やっぱり寝てた」
「それで?」
「…うぅ…拓真…パンツ履いてたけど…裸だった……前の日に…飲みに行ったって…ヒックヒック…だから、Lineも見ないで寝ちゃったのか?と思った…うぅっ……うぅ…拓真がシャワー浴びてる時に…」
「どうしたの?」
「俺…また…情け無い事した」
「何したの?」
「……また……ゴミ箱見た」
「それで?」
「朝倉さ~ん。俺…ダメだって頭で解ってるけど…どうしても、確認して拓真を信じたかった」
そう言って俺に抱き着いてきた小さな体を抱きしめ背中を撫で続けた。
「疑心暗鬼だったんだね。信じたい気持ちとまた裏切られたかもって」
頭を何度も縦に振りギュッと俺にしがみつく。
「……ゴミ箱の中にストッキングが……ヒックヒック…丸めて捨てられてた……奥にはゴムも…うぅ」
「そうか。ショックだったね。1度ならずも2度も」
口調は優しく宥める様に話してたが、腹の中では煮え繰り返り怒りが湧いていた。
「……俺…俺…その後バイト行くまで……知らない振り…上手く出来たか?……拓真に気付かれない様に……」
「そうか。彼の前では気付かない振りして過ごしたんだね。辛い時間だったね。和樹君、良く頑張った」
「バイト行って……1人になりたく無いから」
「私の所に来たんだね。ありがと、和樹君が辛い時に頼ってくれて嬉しいよ」
俺の胸に顔を埋め泣いてる顔を見せない様にしてるんだろう。
健気な和樹君が愛おしい。
「和樹君、辛い?何もかも忘れたい?」
「自分のしてる事も醜いし情けなくって嫌だ」
この後に及んでも彼を責めずに、自分を責める和樹君は優しすぎる。
「……私が忘れさせてあげようか?」
慰めてあげたいと言う気持ちから、つい言ってしまった。
和樹君が何て返事をするのか?
聞くのが怖い。
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