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第249話 愛おしい②(海都)

俺の胸に埋めてた顔を上げ、俺をジッと見つめてた。 数秒の時間が長く感じた。 和樹君はゆっくり首を横に振り口を開いた。 「ありがとう、朝倉さん。……でも、俺……もう拓真を裏切れ無い……朝倉さんに頼って来ておいて……ごめんなさい」 和樹君の一途な想いが伝わる。 その想いが私に向けられたら……無い事は解ってる。 「和樹君が気にする事は無いよ。この間約束したからね。……辛かったら、そうしてあげる事も出来るって事だよ。和樹君の気持ち次第だから気にしないで……もう言わないから、これからも頼って来て欲しい。いいね?」 言ってしまった事は戻らない。 和樹君がそれなら会わないと、言われるのが怖かったから先手を打った。 頭を縦に振った事にホッとした。 「朝倉さんに甘えて頼っていいの?俺…俺…1人じゃ……無理……拓真の事好きだけど……」 「辛いなら別れる事は……考え無い?どう考えても彼の方が悪いと思うけど。それか全部ぶちまけちゃえば?」 顔を手で覆い頭を横に振り泣き出した。 「別れる事も考えた事あった……うう…でも好きだから。拓真の事解ってあげられるの俺だけだから……元々女の子にモテる拓真が男の俺を選んでくれた……拓真から別れるって言われ無い限り、俺からは言わない。好きなんだもん」 和樹君ばかりが辛い想いして、それでも好きだと言う和樹君の気持ちを優先しよう。 「そうか。和樹君がそれで良いなら後悔しない様にね辛い時にはいつでも頼って」 俺にまた抱き着き話す。 「就活辺りから少しずつ……疑心暗鬼だったのが…浮気が解って……俺…他の女の子抱いた拓真に抱かれたく無かった。それで……卒論もあったけど…それを理由に他も色々理由つけて、わざとバイトも入れて忙しくしてた。卒論提出してから…時間もできて、このままじゃいけないと拓真との時間を増やそうと思ってた……拓真も最近は優しかったし2人で過ごすのも楽しかったのに……何で?」 前向きに考えてたのか。 「そうか。それでも彼が好きなんだね」 「うん.うん……俺…朝倉さんに話して少し楽になった。クリスマスには拓真と楽しく過ごしたい。今までの事忘れて、拓真と向き合う様にするから、今日だけ朝倉さんの胸で泣いて良い?」 隣に居た和樹君を俺の膝の上に移動させ強く抱きしめた。 「こんな私の胸で良ければ幾らでも貸すよ。好きなだけ泣きなさい。明日から頑張れる様に」 こんな慰めの方が和樹君には良いのだろう。 「ありがと。朝倉さんの腕の中……あったかい…安心する」 そう言って相当我慢してたんだろう。 声を出して泣き出した。 抱きしめて小さな背中を黙ってずっと撫でていた。 暫く泣いてたと思ったら静かになった。 腕の中の和樹君の顔を上から覗き込む。 「泣き疲れて、寝落ちしたか」 泣き腫らした目元と涙の跡が残る頬。 どうしても彼が良いのか? こんなになるまで酷い事をする彼をどうして一途に想ってられるのか? 私なら和樹君に辛い想いはさせない! こんな泣き顔より隣で笑ってて欲しい。 愛おしさで暫くそのまま抱きしめていたが、寝室に運びベットに寝かせた。 ふわふわの布団だ~、大きいベット~と喜んでた和樹君を思い出し、このベットでゆっくり何も考えずに寝て欲しいと寝室を出た。 それから俺はシャワーを浴びて部屋着に着替え、客間に寝るか?迷ったが、毛布を取りに行きリビングのソファに寝た。 和樹君がいつ起きても解るように。 和樹君の泣き顔が頭から離れず眠れない。 1度も見た事が無いが、和樹君の彼氏に怒りが湧く。 どんなにカッコ良く女の子にモテるとしても、付き合ってる人に対して最低限の礼儀があるだろう。 浮気をするなら、完璧にバレない様にするべきだ! まだ、学生だからそこまで気が回らないのか? 和樹君からは別れないと言うなら、彼氏の方から別れを言って欲しいもんだ! 和樹君の幸せを考えれば、一緒に居た方が良いのか?別れた方が良いのか?……こればっかりは本人しか解らない。 どうかあの子にこれ以上辛い想いはさせないで欲しい 色々考え出したら眠れず朝を迎えた。 仕事に行かなければならず和樹君を起こし、遠慮する和樹君を説き伏せ、迎えに来た並木の車に一緒に乗り駅まで送った。 会釈をし駅に向かう小さな後ろ姿を後部座席から見送っり、向き直るとバックミラーからジト~っと、俺を見てた並木と目が合ったが、並木も何も言わずに「出発しますよ」とだけ言い会社に向かった。 並木も会うのは3度めだし、俺が部屋に人を入れない事を知ってるから何か事情があると、薄々解ってるのだろう。 並木とは古い付き合いだが、まだ話す訳にはいかない 和樹君が幸せになったのを見届けたら、話そうと思っていた。

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