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第256話 複雑な気持ち(海都)
「いらっしゃいませ~」
「和樹君」
「あっ、朝倉さん。会うのって1週間振り?」
「そうだね。カウンターで良いかな?」
「すいません。席も案内しないで、お喋りしちゃってカウンターどうぞ」
カウンターに案内され席に座る。
「ご注文は?」
「そうだなぁ~、煮魚定食とサラダで」
「はい。畏まりました」
キッチンに注文を伝え次々と来るお客様の対応し、小さな体で忙しく働いてる姿を盗み見た。
元気そうだな。
電話やLineは週に何度かしていたが、俺も年末が近くなると打合せや会議やら接待で、今週は会う事がなかなか出来なかった。
今日は打合せで遅くなったが、明日から週末だ。
和樹君に会いたいと思いバイト先に来てしまった。
そろそろ上がりだろうか?
それなら少し待って貰ってアパートまで送りたい。
ラストまでなら、ゆっくり食事して時間を見て車で待ってても良い。
そんな事を考えてると和樹君が注文した料理を持って来た。
「お待ちどうさま。煮魚定食とサラダです」
「ありがとう。和樹君、上がりの時間は?」
「今日はラストまでです」
「そう、なら帰り送って行くよ。いつもの駐車場で待ってる」
「良いんですか?」
「ああ、明日は休みだしね。和樹君とも久し振りに少し話したいしね」
「ご迷惑じゃ無ければ……俺も朝倉さんと久し振りに話したいし」
「じゃあ、決まりだ。私の事は気にしないで良いからね。ゆっくり食べて適当な時間になったら店を出るよ車で待ってるね」
「はい。ごゆっくり」
俺の側を離れ、他の客の対応をしに行った。
これでゆっくり話しができる。
和樹君と少しの時間でも過ごせると思うと心が躍り出す。
それから俺は和樹君の働いてる様子を見ながら、行儀が悪いがスマホを弄りながら時間掛けて食事をした。
何か、仕事に繋がる物でも無いか?
最近の流行アプリなどを見たりニュースを見たりすると、時間も結構過ぎる。
1時間程で食事を終え、会計の時に和樹君に「車で待ってる」と念を押し店を出た。
近くの駐車場に停めてある車に乗込み、運転席のシートをずらし体を休めた。
さっき見た和樹君は前より顔色も良さそうだった。
電話やLineでも最近は彼氏とも上手くいってると話してたからな。
精神的に安定してるんだろう。
複雑な気持ちだが、和樹君が幸せになる事が1番だ。
いや、綺麗事を言ってるが……出来れば、俺が幸せにしたい!
そして、あの一途な想いが俺に向いてくれれば……と、心の奥底では思ってる癖に。
和樹君に俺の気持ちを伝えないのは、逃げ道でも何でも良い和樹君の側に居て見守りたい! 支えたい!
俺も卑怯だ。
ずっとこのままでは居られないとは思ってる。
たぶん、和樹君が就職して仕事を始めたら、こうもいかないだろう。
俺とは疎遠になり彼氏の側に……。
それが和樹君の幸せなら.望みなら……。
責めて、それまではどんな形でも側に居させて欲しい
和樹君が来たら何でも無い顔でニコニコと話しを聞こう。
和樹君が話し易いように。
ネガティヴな心を切り替える為に、少しだけ目を閉じた。
コンッ.コン。
助手席の窓ガラスを叩く音で目を覚ました。
和樹君が外から覗き込んでいた。
考え事をして、いつの間にか寝てたようだ。
助手席のドアを開け招き入れた。
運転席のシートを元に戻し、バイト終わりを労った。
「お疲れ様」
「朝倉さん、疲れてたんじゃないですか?」
「いや、考え事してた。少しだけドライブしてから部屋に送るよ」
「はい」
車のエンジンを掛け駐車場を出た。
特に当てもなく車を走らせた。
「最近は、ご飯食べてるの?」
「前より食べられるようになりました」
やはり彼氏の影響が大きいのか。
「そう。今日、久し振りに和樹君と会ったけど、顔色も良さそうだし良い傾向だ。無理しないで少しずつ体調みて食べるようにね」
「はい」
「クリスマスも彼氏と過ごせるみたいで良かったね」
電話で聞いてた話しを持ち出した。
「うん。毎年、クリスマスにはドイツ村に行ってイルミネーション見るのが恒例なんだ。今年は覚えてないかも……って思っていたけど。拓真、ちゃんと覚えて居てくれたんだ。叔父さんに借りて車で行くって。その代わり明日と明後日は叔父さんの会社でバイトだって。車借りるし、バイト代出るから良いって言ってたけど。今日の夕方から実家に帰ってる」
クリスマスを彼氏と過ごせる事を嬉しそうに話す和樹君。
そうか、良かったな。
顔には出さないが、彼氏との話しを聞くのは辛いな。
「良かったね。やはり彼氏も一緒に過ごしたかったんだよ」
「うん♪ この間も、本当はどこかに出掛けるみたいだったけど、たぶん飲みに誘われたか?合コンの誘いだったかも。でもね、俺が夕方から行くねってLineしたらキャンセルしてくれたんだ。俺もなるべく拓真と会う時間持つように心掛けたら、拓真もそうしてくれるんだ。俺……就活やら卒論を優先してた。もっと上手く立ち回って拓真と過ごす時間を持つべきだった。今になって反省してる。そしたら浮気何かしなかったかも……」
浮気した彼氏を責めずに、自分を責める和樹君は優し過ぎる。
彼氏が絶対的に悪いのに。
こんな和樹君の苦悩や優しさを解らずに居る彼氏に腹が立つが、和樹君の前では出さない。
「それは仕方無い事だよ。就活は大変だよ。一生の仕事の事だし安易には決められない。卒論にしてもそうだよ。和樹君が悪い訳じゃ無いよ」
「そうかも知れないけど……俺が両立出来ないから」
「そう自分を責めるもんじゃないよ。そう言う時を乗り越えて、今は上手くいってるんだろ?」
「うん♪ 俺も気持ちを切り替えて、これからの事を考えていこうと思ってる」
「そうか。頑張れ」
「うん」
「そうだ、クリスマスは彼氏と過ごすだろうけど、その後いつでも良いから、また武史君と3人で食事しよう。前に話しただろ?寂しいクリスマスを過ごす私とも遅ればせながらクリスマスをしようって」
「そうだった。武史とも都合良い時を聞いてみますね」
「頼むね」
1時間程のドライブも終わり、和樹君のアパートの前に着いた。
「明日もバイト先に食事に行っても良いかな?その後、また送って行くよ」
「良いですけど……」
「どうせ食事しなきゃいけないんだから、それなら和樹君の所でと思ってね。だめかな?迷惑?」
慌てて手を横に振り話す和樹君だ。
「違うんです! 俺、明日もロングだから、また今日みたいに待たせる事になると思って」
迷惑じゃないとホッとした。
「そんな事か~。それなら合わせて遅い時間に来るよ。年末も近くなって打合せやら会議やらでオジさんとばかり顔を突き合わせてるからね。和樹君みたいに若い子と気分を変えて話ししたいんだ」
適当な話しを持ち出したが、誤魔化せただろうか?
「朝倉さんが良ければ。俺も朝倉さんと話ししたいし……朝倉さんと居ると落ち着くって言うか.和むって言うか……たぶん頼りにしてるんですね」
そう言って貰えて嬉しかった。
「じゃあ、明日も行くね」
「はい、待ってます。今日は送って貰ってありがとうございます。おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
和樹君が部屋に向かって行く姿を見送り車を出した。
俺は和樹君が今日から日曜日までバイトだと聞いていたが、彼氏が居ないと解り明日も明後日も和樹君のバイト先に行き帰りは送ると言って1時間程のドライブを楽しんだ。
彼氏が居ない隙に和樹君と少しの時間でも過ごしたかった。
それくらいのクリスマスプレゼントは貰ってもサンタも許してくれるだろう。
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