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第258話 知らなかった真実(和樹)

「あの~、拓真に用事ですか?拓真なら、夜じゃないと帰らないと思いますけど」 俺をチラッと見て、部屋のドアに寄り掛かっていた体を離し、俺と対面する形になった。 俺とそんなに背丈が変わらないけど、ちょっとだけ高いかも。 男にしては、可愛いらしい顔でちょっと勝気な感じがする印象だった。 大学では会った事無いけど……拓真の友達かな? 俺を上から下までジロジロ見て、値踏みする様な嫌な笑顔を見せた。 初対面でこんな態度って、何か嫌な感じがする人だ。 俺がそう思って黙ってると、相手が嫌な笑みを漏らし口を開いた。 「ねえ。もしかして、あんたが和樹?」 何で、俺の名前を知ってるのか? やはり、俺が知らないだけで大学の人なのか? でも……いきなり和樹って呼び捨てにされたのも、あんたって呼ばれたのも嫌な感じだった。 「そうですけど……俺の事を知ってるんですか?もしかして大学で?」 また、俺を上から下まで見てクスクスクス……嫌な笑いを漏らす。 何か、本当に感じ悪い! 「俺は知らないよ。へえ~、あんたが和樹ねぇ~」 まただ。 何かを含んだ言い方に、嫌な気分になる。 さっきから何なんだよ~。 俺の事は知らないけど、名前は知ってる?って、どう言う事? 訳が解らない! 黙ってると、また話し始めた。 「大した事無いじゃん!」 腹が立ってきた! 「あの、さっきから失礼な事ばっかり言ってますけど……誰ですか?拓真の友達?」 俺には面識も無いし、こんな言われ方される覚えも無い! 「ふ~ん、知らないんだ?」 「何を?」 クスクスクス……また、嫌な笑い方をする! 「拓真の友達?そうだねぇ~、友達って言えば友達かな?色んな意味でね」 クスクスクス……バカにしたような嫌な笑いをして、含みを持たせた言い方をさっきからずっとしてる。 友達で……色んな意味で? …………暫く考えてハッとした……けど……まさか…だよね? 「やっと解った?初めは、僕の事をあんたと感違いしたみたいだけどね。でも、僕って解っててもヤル事はヤッテたし。あんた知らないみたいだから、教えてあげるよ!」 右手に持ったプレゼントの袋とワインとケ-キの入った袋の取手をギュッと握った。 この人の話す事がまだ信じられずに居た、ううん、信じたく無かった! 「拓真、浮気してるよ! 女とだけと思ってるかも知れないけど、僕の他にも何人かとセックスしてるよ。でも僕以外は1度っきりなんじゃないかなぁ~。拓真も僕の気を引こうと、わざと他の子に手を出すんだよね~」 嘘.嘘.嘘………拓真が男と? 俺以外にも……何人もと……。 信じたく無い! この人、嘘ついてるんだ! そう思いたいけど……目の前が真っ暗になり、頭がクラクラした。 「……嘘」 「嘘じゃないよ! 僕と何度もシテるしね。拓真ってカッコいいじゃん。僕も気に入ってるんだよねぇ~。それに……クスクスクス……拓真とのセックスの相性もバッチリだし。もう、あんたは用済みだよ?拓真もいつ言おうかって、でも、可哀想だからって悩んでるみたい。だから、あんたから身を引いてくれない?」 拓真……俺と別れたい? でも……クリスマス一緒に過ごすって。 最後のクリスマスだから、楽しくしようとしてる? 何も言えずにいる俺に追い討ちを掛けるように話し続ける。 「拓真ってモテるじゃん。女の子だけか?と思ったけど、男もイケるから最初は驚いたけどね。セックスも上手いし何度も逝かされて、もう凄~く絶倫なんだもん拓真の腰遣いも最高だし、僕とのセックスも最高って言ってくれxxx xxx xxx」 もう聞いて居られ無かった! その場を立ち去って、階段を駆け下りた。 遠くから「拓真に会わなくっていいの~」って、声がして笑ってたけど、無視して拓真のアパートから走って行った。 そのまま全速力で走り、近くの公園のベンチに腰を下ろした。 「はぁはぁはぁ……拓真…はぁはぁ」 手に持ってた荷物をベンチに置き、頭を抱えた。 嘘だよね? あの人が言った事……今まで……女の子と浮気してたのは知ってた。 浮気? 本当に、女の子だけだったのか? 俺が見たり証拠品は全て女の子だった……けど… あの人が言うように、俺が知らないだけだったのかも 俺が浮気は女の子だけ……と思い込んでた? そう考えると、Lineの既読が無い時.スマホの電源が入って無い時……連絡取れない時が時々あった。 それって……。 あの人が話す事を全て信じた訳じゃないけど……思い当たる節がある。 慌ててダッフルコ-トのポケットから、スマホを取り出し拓真に電話しようと思った。 震える手で操作して、電話を掛けようとするけど……最後のボタンを押せない。 もし掛けて……電話で、バレたなら別れようって言われたら……どうしよう。 暫く拓真の名前表示画面を見て……止めた。 まだ、聞きたく無い! 別れるって言葉も真実も! 溢れてきた涙で、画面の拓真の文字が滲んで見えた。 俺が涙を流すのに合わせたかのように、朝から雲行きが怪しかった空から雨がポツポツ……落ち始めた。 雨も気にせずに、公園のベンチで座ったまま動けなかった。 どうすれば良い? 何を信じれば良い? 何が悪かったのか? 頭が痛い! 助けて! 誰か! その時に朝倉さんの顔が浮かんだ。 いつも愚痴を聞いてくれて、頼りになって励ましてくれる朝倉さんに助けを求めるように電話を掛けた。 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪ なかなか繋がらない電話。 「お掛けになった電話番号は電源が切xxx xxx xxx xxx」 アナウンスの途中で切った。 まだ、仕事中だよね。 打合せや会議が多いって言ってた。 ……朝倉さん。 暫くスマホの真っ暗な画面を涙を流しながら黙って見て居た。 それから武史に電話した。 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪ 「お掛けになった電話xxx xxx」 電話を切った。 武史にも繋がらない……バイト中か。 誰かに助けて欲しかった。 1人で居たく無かった。 誰かに、本当の事を教えて欲しかった。 頼りにしてた朝倉さんも武史とも繋がらず……この世に、たった1人になった気がした。 もう、俺には誰も居ないのかも……。 そう思うと涙がどんどん流れてきた。 顔を覆い、そのまま暫くジッとしていた。 俺の気持ちと同様に、雨もどんどん酷くなった。 それも気にせず、誰も居ない公園のベンチに座って居た。

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