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第262話 真相②(武史)

「ヤバッ。この雨!」 こんな時に限って、バイトで残業を頼まれた。 別に帰っても1人だし残業するのは構わないけど……この土砂降りの雨の中を帰るのが面倒だな。 残業しなきゃ小降りのうちに帰れたかもな。 最寄りの駅から傘を刺すが、足元は走るから濡れてしまう。 足元が悪い中を走ってアパートにやっと着いた。 ん、何だ? 俺の部屋のドアの前に、白い物体が見えた。 訝(いぶか)しく思いながら近寄る。 いつも和樹が着てる白いダッフルコ-トだった。 なぜ?こんな土砂降りの雨の中俺の所に来たのか? 何かあったのか? フ-ドを被り、顔を伏せてる和樹に声を掛けた。 「和樹?」 俺の声に反応し、顔を上げた顔は青白かった。 「…たけ…し………おかえ…り」 カタカタと震え、カチカチと歯が鳴り.か細い消えてしまいそうな声が返ってきた。 ただ事じゃないと思い、和樹の側に寄り膝をつき体を抱えて立ち上がり、部屋のドアを開け玄関で白いダッフルコ-トを脱がせた。 「……スマホが…」 雨で水を吸収したコ-トは重く、そのポケットを探りスマホを出し和樹のリュックに無造作に入れた。 「ちょっと、待ってろ!」 何があったか?話しを聞きたいのは山々だったが、ともかく和樹の冷え切ってる体をどうにかする事にした 浴室からバスタオルを持ち和樹の体に掛け浴室に連れて行った。 ガタガタ…ブルブル…カチカチ…と寒そうに冷え切ってる体。 脱衣所で「濡れてるから、全部脱げ」そう言って浴室に入り、熱めのお湯をシャワーにし出した。 風呂沸かすのに時間掛かると思い、取り敢えず熱いシャワーを浴びせる事にした。 脱衣所に戻ると、まだ濡れたままの服を着ていた。 「どうした?脱げないのか?」 「……寒い……体が……言う事きか…ない」 手足がブルブル…震えていた。 俺は和樹の服に手を掛け上も下も脱がす事にした。 濡れた服は重く脱がせ難いが何とか脱がし、和樹を出し放しにしてた熱いシャワーの下に座らせ体に浴びせる。 和樹は体を小さくし体育座りをし熱めのシャワーを浴びてるのを確認して、その間に俺のスウェットを用意しエアコンを入れ電気ストーブを点け部屋を暖めた。 玄関に脱ぎ捨てたコ-トを取りに行くと、玄関にはリュックと手荷物が2つあった。 1つは大きめでビニールが被さってたが、プレゼントのラッピングがチラッと隙間から見えた。 もう1つの袋はワインとケ-キの箱が見えた。 そんな物を持って俺の所に?この土砂降りの雨の中来るって事は、何かあったのは明白だった。 リュックはそのまま玄関に置き、取り敢えず大きめの袋はベット脇の隅に置き、ワインとケ-キは冷蔵庫に入れた。 濡れたコ-トと服や下着は全部、洗濯機の中に突っ込んだ。 10分程経った頃に、和樹に声を掛けた。 「和樹、温まったか?」 「……うん」 シャワーを止め、バスタオルで体を包み脱衣所に連れて来て俺のスウェットを着せた。 和樹には大きいから裾と袖は捲り、電気ストーブの前に連れてきて座らせ、レンジで温めた牛乳を渡した。 少しは顔に赤みが出てきたか? 両手でマグカップを持ちフ-.フ-…息を吹き掛け少しずつ口に入れ飲んだ。 「熱いから気を付けろよ。ゆっくり飲め」 和樹が首を縦に振りまた飲んだのを確認して、俺はドライヤ-で髪を乾かした。 本当は、直ぐにでも何があったか聞きたい! 和樹の事を考え、体が温まり心が落ち着く時間を敢えて作った。 短い髪は直ぐに乾きドライヤ-を片付け、置いてあったプランケットを肩に掛けてやり隣に座った。 「少しは、暖かくなったか?」 「……うん。ありがと」 ガタガタ震えてた体も治りカチカチと鳴ってた歯も大丈夫そうだ、消えそうな声だったが言葉も声も普通に出てるし、充分とは言え無いだろうが取り敢えずは大丈夫か? 俺もホッとした。 和樹に何があったか?聞いて良いだろうか? 聞いて言いたく無いなら、無理に聞き出すのは止めようと決め口を開いた。 「和樹……この土砂降りの雨の中……歩いて来たのか?朝倉さんには連絡した?」 「うん。服、濡れちゃってたからタクシーに徐車拒否されたから電車も無理かなって。……朝倉さんと……武史にも電話したけど……2人共…連絡取れなかった」 「えっ、俺にも?ちょっと待ってろ」 俺は直ぐに鞄からスマホを取りだし確認すると充電が切れてた。 直ぐに充電して、和樹の元に戻った。 「和樹、ごめん。充電切れてた」 「そっか。朝倉さんは年末近いから打合せや会議が多いって言ってたから……電源切ってたのかもね」 和樹に申し訳無さとこんな時に……自分に不甲斐なさを感じた。 俺が辛かった時に、側に居て助けてくれた和樹に……俺は何もしてやれない。 責めて話しだけでも…。 「和樹、聞いて良いか?何があったか?」 和樹の肩がピクッと動く。 聞かれたく無いのか? 聞きたいが無理には……悩んでると和樹がゆっくり口を開いた。 「俺……拓真と明日と明後日一緒にクリスマス過ごす……その為に拓真……叔父さんの所に車借りに行って……俺は今日、プレゼントを買って、そのまま拓真のアパートに……部屋で待ってて驚かせようと……そんな事考えなきゃ良かった……そんな事しなきゃ……知らなかくて良かったのに……知らないで済んだのに……」 話をしながらポロポロ……涙を流す和樹が痛々しい。 拓真の事で…。 何があったんだ? こんな辛い目に、どうして和樹が合わなきゃいけないんだ?  怒りが込み上げてくるが、表情には出さずに俺は黙って和樹の話を聞く事にした。

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