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第266話 真相⑥(海都)
「並木、川田の所に行ってくれ」
「はい。解りました」
並木に急ぐように言い、後部座席で和樹君を腕に抱き隣には武史君が心配そうに見守っていた。
暫く車を走らせ、沈黙の車内で俺は今更だが武史君に並木を紹介した。
「武史君。運転してるのは、私の秘書をしてる並木だ並木、和樹君の親友の武史君だ」
「並木です。宜しくお願いします」
「保田武史です。こちらこそ宜しくお願いします。すみません、ご迷惑をお掛けします」
きちんと挨拶する武史君をバックミラー越しに見て、並木は好感を持ったようだ。
「来る時に雨が強かったから道は空いてたんですが、やはり距離があった為に少し時間掛かってしまいました。申し訳ございません。社長は急げ.急げと仰って、これでも結構飛ばして来たんですけどね」
「朝倉さんの会社からだと遠いですからね。すみません」
「私の懇意にしてる医者の所なら融通が効くし、高校の時の同級生なんだ。個人病院だし入院設備もあるからね。川田の所なら安心できる」
辛そうな息遣いの和樹君を見て話す。
「すみません。俺1人だと何にも出来なかった」
「そんな事はないよ。応急処置はしてくれた。ありがとう、武史君。武史君が和樹君の親友で良かった」
申し訳無さそうに自分の事を不甲斐ないと思ってる武史君を労った。
車中では、ゼェゼェ…と和樹君の荒い息遣いと時折譫言で「……拓真」と呼ぶ声がした。
そんなに彼が好きなのか?
こんな目に遭ってもなのか?
和樹君の一途な想いが俺には悔しかった。
責めてギュッと抱きしめてやる事しか出来なかった。
並木が飛ばしてくれたお陰と道が空いてた事もあり、思ったより早く川田の病院に着いた。
予め電話してたお陰で直ぐに処置室に連れて行かれ、俺と武史君と並木は廊下で待って居た。
暫くすると川田が渋い顔をして廊下に出てきた。
「川田、どうだった?」
「もう少しで肺炎になり掛かっていた。かなり熱が出てるから解熱剤を投与した。それと衰弱も酷い。点滴を打って処置してる。2~3日は熱が下がったり出たりするし点滴して安静にする事だ。熱の所為で意識も混濁すると思う。念の為、4~5日は入院した方が良いだろう」
「そうか、すまない。助かった」
「意識は無いと思うが、会うか?」
「ああ、会わせてくれ」
川田に連れられ3人で処置室に入った。
処置室のベットに寝かされ、額には冷えピタと顔を赤くし息が荒く細い腕には点滴の管が刺さっていた。
ベットに近づき武史君と一緒に和樹君の顔を覗く。
「……和樹」
「和樹君、早く良くなってくれ」
並木は扉の所で川田と待っていた。
辛そうな顔を見てる事しか出来ず、暫く経って川田が「そろそろ良いか?病室に移動させる」と言われ、名残惜しいが処置室を出る事にした。
「今日はもう遅い。明日、もう一度入院手続きして貰うからな」
「解った。明日、昼頃に会社抜け出すから、その時に」
「朝倉達が居ても良くなる訳じゃないから、今日はもう帰れ」
「ああ、宜しく頼む。何か、急変したら何時でも良いから連絡くれ」
「解った」
そう言って川田はまた処置室に入って行った。
無言で処置室を見てると、並木が「今日は出来る事はしました。後は、先生にお任せしましょう」と言われ納得した。
「並木、遅くまで付き合わせて悪かった。もう帰って良い。私達はタクシーで帰るから」
「解りました。明日、いつもの時間にお迎えに上がります。武史君もお疲れ様。じゃあ、明日」
俺と武史君に一礼して、その場を先に発った。
並木の後ろ姿を見送り、武史君にこれからの事を提案した。
「武史君。良かったら、私の所に泊まらないか?明日は大学?電話では詳細は聞かなかったから、何でこうなったのか詳しく聞きたい。それと、和樹君の今後の事も話し合いたいんだが」
武史君も俺と話したかったのかもしれない。
直ぐに「大学は殆ど行かなくって良いので。バイトが昼からあるだけです」と了承してくれた。
武史君と連れ立って病院を出て、呼んだタクシーで俺のマンションに向かった。
タクシーの中は2人共無言だった。
武史君は和樹君のリュックを胸に抱いて、和樹君の回復を祈ってたように見えた。
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