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第269話 (拓真)
武史に追い出される様に部屋を出て、外から武史の部屋を見上げて居た。
「和樹…和樹……ごめん」
何度謝っても和樹には伝わらない。
あんなに衰弱し辛そうな和樹を目の当たりにし……自分のやった事を後悔ばかりした。
暫く見上げて、停めてある近くのコンビニに歩き出した。
雨はもう殆ど降って無かった。
あんなに酷かった雨が……。
車に乗り込み運転席で頭を抱えた。
本当にバカだ!
武史に言われ、今なら武史の言った事が解る。
なぜ、あの時に……就活.卒論.バイト……全て俺の為だったのに……今更、気付いても遅い…か。
何で?男と寝たんだ!
幾ら初めは和樹と勘違いしたから…と言え……その後も……。
確かに武史の言う通り…言い訳だ。
最低限のルールだろ!
新しい事に面白がって興味深々で……バカだ!
莉久に酷い事を言われ、どんなにショックだったんだろう。
ごめん.ごめん……和樹。
あんなに衰弱して……。
そこでハッと気が付いた。
何で?武史に言われたからって、オメオメ…と部屋を出て来たんだ!
和樹の意識が朦朧としてたって何だって、ずっと側に居れば良かった!
今更、気が付いて戻っても、武史はもう部屋の中には入れてくれないだろう。
怒りに満ち溢れてたからな。
殴られないだけ良かったのか?いや殴られた方が幾らかマシだったかもな。
暫く悶々と自分のバカさ加減を反省してたが、ここに居ても仕方無いと自分のアパートに帰った。
部屋に入っても何もせず、ただ床の一点を見つめ涙を流した。
和樹はこんなもんじゃないくらい辛かったんだ!
俺には涙を流す資格が無い!
そう思うが、後から後から涙が頬を伝う。
いつの間にか寝てたらしい。
俺が目を覚ました時には、もう10時近かった。
「あのまま寝ちまったんだ」
着の身着のまま昨日の格好でそのまま部屋を出た。
昨日の土砂降りの雨が嘘の様に太陽が眩しかった。
近くのコインパーキングに置いた車に乗り、武史の部屋を目指した。
また昨日と同じコンビニの駐車場に車を置き、武史のアパートに歩く。
和樹、少しは熱が下がってるだろうか?
話せるだろうか?
もし話せるなら、何度も謝って和樹が許してくれるまで謝ろう。
そう決め、武史の部屋の前に着いた。
一呼吸しチャイムを鳴らした。
ピンポン♪♪~…ピンポン♪♪~……
「はい」
武史が玄関のドアを開け顔を覗かせた。
「武史」
「拓真……」
「和樹は?熱は下がったか?意識は?」
「………」
「何で?何も言わない! 何か合ったのか?」
「……和樹はここには居ない。昨日、あれから病院に運んだ」
「本当か?本当は居るんだろ?中に入らせてくれ!」
武史を押し退け靴を脱ぎズカズカ…部屋の中に入るが昨日、和樹が寝てたベットには居なかった。
キッチン.トイレ.浴室.クロ-ゼットと部屋中を探したが、どこにも和樹の姿は無かった。
背後で俺の行動を黙って見てた武史に詰め寄った。
「病院はどこだ?」
「……暫く入院だ。肺炎になり掛かって衰弱が酷いって、安静が必要だって言われた」
「入院?そんなに……。武史、どこの病院だ! 頼む! 教えてくれ!」
武史は首を横に振った。
「ダメだ! お前には教えられない! こんな事になった原因であるお前に会って和樹がどうなるか?解らない! 心も傷ついてるが、先に体の回復を優先する事にした」
「そんな……頼む! 武史。側に居たいんだ! 頼むよ!」
頑なに首を横に振る武史の決意は固そうだが、俺も諦め切れない!
「頼む! 教えてくれ! 和樹の側に居たい! 許してくれなくっても謝りたい! 責めて……頼むから側に居たい!」
俺の悲痛の叫びも武史には通じ無かった。
「拓真、今更だ! 和樹の為を思うなら、今はそっとしてやってくれ! 和樹が落ち着くまで」
武史の言葉が俺の心を突き刺した。
俺には何もしてやれる事が無いのか?
側にも居る事もできないのか?
謝る事も許されないのか?
「俺も今からバイトに出掛ける。ここに居ない事は解っただろ?もう帰ってくれ!」
確かに、武史は出掛ける様子だった。
俺は目の前が暗くなりフラフラ……と、武史の部屋を出た。
和樹が居ない?
どこの病院?
側に居たいが……その権利も無いのか?
コンビニに置いた車を走らせ、自分の部屋に戻った。
俺は部屋に入っても何もする気が起きず、ずっと和樹の事を考え後悔ばかりして居た。
その日から何度も武史の部屋に行き、病院の場所と会わせてくれる様に頼むが、武史は何も話さない。
それでも、めげすに俺は何度も部屋を訪れたが、武史も頑なに拒否した。
和樹のスマホに電話しても繋がらないし、Lineの既読もつかない。
何度電話しても繋がらないし、何通Lineしても既読にならない。
俺は焦っていた。
そのうち年末になり武史の部屋に行くが、何度チャイムを鳴らしても出て来なかった。
たぶん、実家に帰ったんだろう。
そこでハッと気が付いた。
和樹も実家に帰ってるかも知れない!
けど、実家の場所までは解らなかった。
大学が始まったら事務室に行き、和樹の実家の電話番号と住所を聞こうと思った。
武史に聞いても教えてはくれないだろうから。
少し希望が見えた気がした。
こっちに居ても仕方ないと、俺も実家に帰る事にした。
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