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第270話 守りたい①(海都)

「和樹君、疲れただろ?ベットに横になろうか?」 「………」 和樹君を抱き抱えベットに寝かせた。 「久し振りに、外に出たからね。少し、休むと良い。私は隣の部屋に居るからね」 「…………」 寝室を出てリビングのソファに座った。 入院してから、やはり2~3日は川田が言った通り熱が出たり下がったりを繰り返して居た。 仕事帰りに、和樹君の所に行くが眠ってる事が多かった。 武史君もバイト帰りに来てくれて鉢合わせになる事も度々だった。 武史君から彼が何度も部屋に来て、和樹君の病院を教えてくれと言われてるが教えて無い!と言って居た。 武史君も言ってたが ‘今更、後悔しても遅い。和樹の側に居る資格は無い’ 俺も同感だった。 和樹君の苦悩をずっと見てきた俺には彼を許す事が出来ないが……和樹君が決める事だ。 熱も下がり意識もはっきりとしてるはずだが、和樹君は病院食のお粥やヨ-グルトなどには手を付けず相変わらず点滴をしていた。 川田からも「熱は下がってるし意識もあるが、食事を受け付け無いのは精神的なものだろうが、食べないと体の回復が遅くなる。今は点滴でどうにかなってるが……退院したら今の状態だと困る事になるぞ。少しでも食べるように、朝倉からも話してくれ」と和樹君の体を心配して居た。 何度も食事をするように話すが、一口だけ口をつけて直ぐにスプーンを置いてしまう。 明るく笑ってる和樹君の面影はどこにも無かった。 覇気も無く心ここに有らずって感じで、どこか遠くを見てる感じだ。 武史君も凄く心配してたが……。 その状態でも俺の休みに入った事で、今日、病院を退院して来た所だ。 さて、どうするか? 心は本人しかどうにもならないが、体だけでも回復させないと……取り敢えず、何でも良いから食べて欲しい。 余りにも静かで物音もしない。 気になり寝室を覗くと、和樹君はやはり久し振りの外出で疲れたのか?寝ていた。 良かった~。 そのままそぉっと寝室のドアを閉めた。 俺もその内ウトウトし、そのままソファで居眠りしてしまった。 ♪♪♪♪~♪♪♪♪~ スマホの電話で起きた。 画面には並木の名前があった、仕方無く電話に出る事にした。 「並木?仕事は今日から休みのはずだが?」 折角の休みだと言うのに……。 「何だ?急用か?」 「社長。今日、和樹君が退院しますよね?」 「ああ、昼過ぎに私の部屋に連れて来た。今は寝室で休んでる」 「無事に退院したんですね、良かったです」 わざわざ心配で電話くれたのか? 並木も俺の代わりに、昼休みや仕事帰りに一緒に病院に見舞いに行ってたからな。 情も湧くか? 「気にしてくれたのか?わざわざ済まない」 「それもありますけど……社長、和樹君の部屋着とか下着など用意しました?後、レトルトのお粥や果物とか、何か食べられそうな物や飲み物は?」 和樹君を無事に連れて来る事と退院手続きの事しか考えて無かった。 並木に言われ初めて必要な事だと思った……迂闊だった。 「済まない。用意して無かった。今から、買いに行く」 「そんな事だと思いました。私が買って行きますから、和樹君が起きてたら食べ物だけ何が食べたいか?聞いて貰えますか?」 並木に言われ、そのままスマホを持ち寝室を覗くと、和樹君はベットヘットに体を預け座りボーとして居た 「和樹君、起きてたのか?並木が今から来るが、何か食べたい物でもあるか?って、買って来るらしい」 俺の声は聞こえてるようだが、声を発せず頭を横に振る。 そう言えば入院してから、和樹君の声を聞いて無いと思った。 「和樹君、何も食べないのはいけないよ。少しでも良いから口にしてくれ、頼む!」 和樹君の側で必死に話す俺を見て、弱々しく声を発した。 「………みかん…の…缶詰」 蚊の鳴くような弱々しかったが、久し振りに和樹君の声を聞いた。 その場で嬉しくなり電話の並木に話す。 「みかんの缶詰が食べたいようだ、頼む!」 「解りました。缶詰なら、みかんと桃も多めに買って行きましょう。あと、社長の夕飯も買って行きますね」 流石は出来た秘書だ! 痒い所まで手が届くと感心と感謝した。 「ああ、悪いな。並木の分も買って来てくれ」 「解りました。じゃあ、後程」 並木との電話を切ると、俺の事をジッと見ていた。 「どうした?何か気になる?」 「………俺の……スマホ」 「和樹君のスマホね。たぶんリュックの中かな?ちょっと待って」 部屋の隅に置いてた和樹君のリュックの中を物色し、スマホを見つけた。 「あったよ」 和樹君に手渡しすると、大事そうに手に取り電源を入れたが何の反応もしなかった。 真っ暗な画面をジッと見つめ、その内ポロポロ…涙を流した。 「どうした?充電が無いのか?」 頭を横に振り涙を流す。 「……壊れ…ちゃった……もう…電話鳴らない」 彼からの電話を待ってたのか? 壊れた? 彼の事を持ち出すのは、精神的にどうかと迷う。 「……鳴らない……必要無い…俺と……一緒」 ギュッとスマホを握り締めポロポロ…涙を流す。 入院して以来、初めて感情を露わにした。 こんな時だが、ずっと人形みたいだった和樹君が感情を表した事に少しホッとした。 和樹君の細い両肩に手を掛け、和樹君の顔を見つめ真剣に話す。 「和樹君! 和樹君は必要無い人間じゃ無いよ! 少なくとも、私や武史君.並木だって必要としてるし心配なんだ。少しずつで良いから、自分の体を労って欲しい! 頼むから!」 俺の必死な想いに和樹君の目から、またポロポロ…涙を流し、俺に縋り付く痩せた体を抱きしめた。 ずっと我慢してたのか? 和樹君は暫く泣き続けたが、その内静かになり泣き疲れて寝てしまった。 泣くのも、この衰弱した体では体力使うんだろう。 そぉっと、ベットに寝かせ静かに寝室を出た。 それから俺は武史君にも電話を入れ、無事に退院した事.みかんの缶詰の事.感情を表した事を話した。 武史君も少しでも良い兆しに喜んでいた。 また、連絡すると言って電話を切った。 武史君とは、退院したら俺の部屋に連れて来て1月いっぱいは顔を出さないと言う取り決めをした。 なぜなら、衰弱してる和樹君の精神状態を考え、暫く彼氏に関わる人とは少し距離を置く事に2人で決めた、いや武史君の方から提案された。 武史君も気になるだろうし側に居たいとは思うが、これも和樹君の事を考えての事だと自分で納得してる様だ。 その代わり、私の方から武史君にはマメに連絡する事を申し出た。 和樹君は1人じゃ無い! 今は考えられないかも知れないが、もっと周りを見て感じて欲しい。 それには時間が必要なんだろう。

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