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第271話 守りたい②(海都)

それから1時間程で並木が現れた。 リビングに通し、ソファに座り買って来た物を並べた 部屋着用にスウェットが2組とパ-カ-とカ-ゴパンツ.下着が3.靴下3、スポーツドリンク5本.お粥のレトルト5.みかん缶詰3.桃缶2と、俺と並木の焼肉弁当とサラダを並んだ。 「早かったな?」 「デパートに居ましたからね」 「済まない。全然頭に無かった、助かった」 「そんな事だと思いました。お金は社長に請求しますから」 「解ってる」 「ところで和樹君は?今、どうしてます?」 「寝てると思う」 「ちょっと失礼します」 俺の寝室に向かいドアを少し開け様子を見て戻って来た。 「寝てました。起きたら、みかんの缶詰とスポーツドリンクを飲ませましょう」 「頼む」 心強い並木に、俺は全てを話す事に決めた。 和樹君との出会いから入院する事になった経緯までを簡単にだが話した。 それで改めて俺の和樹君への気持ちも話した。 神妙な面持ちの並木が全てを聞き終え口を開いた。 「そんな事があったんですか?何か、切ないですね。和樹君の一途な想いや一生懸命さが裏目に出てますね彼の方にも、何か言い分はあるんでしょうけど……裏切りはいけませんね。あの小さな体で……辛かったでしょうね」 「私もその一途な想いと健気さが好きになった」 「告白はしないのですか?」 「武史君にも話したが、和樹君の気持ちを尊重しようと思う。取り敢えず、体の回復を優先にし精神的に安定したら、和樹君もどうするべきか答えを出すだろうその答えがどうであろうと、時期を見て気持ちは話すつもりだが、今はそっとしておきたい」 「社長も純愛してるじゃないですか?」 「こんな気持ちになったのも随分久し振りだ」 「離婚なさってから、不純な性生活でしたからね。和樹君のお陰ですね。私としては感謝しないと」 「それを言われると言い返せ無いが……並木、和樹君の事を頼む。並木が居ると強い味方になる」 「解りました。私も少しは関わってしまいましたからね。和樹君の本当の笑顔が見たいです」 「ありがとう」 本当に、並木は秘書としても優秀だが人間としても良い奴だと改めて思った。 「和樹君が目を覚さない内に、食事済ませましょう」 「そうだな」 買って来た弁当を温めて話しながら食事にした。 正月休みの間は俺が側に居るから良いが、会社が始まったらどうするか?並木と相談した。 暫くは昼休みに俺か並木かどっちかが様子見に来る事で決まった。 並木には申し訳無いが、俺的には助かる。 この正月休みで、どれだけ回復するかだな。 ゴトッと寝室から物音が聞こえた。 「起きたみたいだな」 並木と2人で寝室に向かうと、和樹君は丁度体を起こそうとしてた。 直ぐに手を貸しベットに座らせた。 「少し、お腹に何か入れなさい。並木がみかんの缶詰を買って来たから、それを食べるか?」 頭を横に振り要らないと意思表示する。 どうしようか悩む俺だった。 それを見た並木が和樹君に声を掛けた。 「和樹君。自分の体が可哀想じゃ無いの?気持ち的には何も食べたく無いかも知れないけど、体の方は欲してると思うよ。自分の体を自分で労わらなきゃ誰が労るの?少しずつでも良いから食べなさい!」 そんなに強く言わなくともと俺は思ったが、和樹君には響いたようだ。 俯き少し経ってから弱々しく声を発した。 「ごめん…なさい。……俺…少し…だけ貰い…ます」 「無理しなくて良いんだよ」 俺が和樹君に話すと並木が俺を叱る。 「社長がそんなんだからダメなんです。和樹君が少しでも食べようとしてるんですから。一口でも2口でも食べれば、体の方はもっと欲しくなるはずです。今から用意しますから」 不安そうな顔を見せる和樹君に俺は戯(おど)けて笑顔で話す。 「怒られちゃったな。並木にはいつも怒られるんだ。これじゃあ、どっちが社長か解んねぇ~な」 俺がわざと明るく話すと強張っていた顔から、ほんの少しだけクスッと笑った気がした。 一瞬だけだったが……笑った顔をもっと見たい。 開けっ放しのドアから、並木が小皿にみかんの缶詰を10粒程とスポーツドリンクを手に持って来た。 「誰に怒られたって言ってるんです?怒られるような事をするのは誰です?」 和樹君に小皿とスプーンを手渡し、スポーツドリンクをサイドボードの上に置き小言を話す。 「済まん。私が悪かった、以後気をつけるよ。しっかり者の秘書で私は大助かりだ」 また戯けて話すと、並木が手を腰に宛て怒ったポ-ズでわざと話す。 「心が篭ってませんよ!」 「本当に.本当に、優秀な秘書で助かってます!」 俺と並木の遣り取りを見ていた和樹君から、少しだけ笑みが漏れた。 クスクス…。 今度こそ、ほんの少しだけだが笑い声が聞こえた! 並木にも聞こえたようで、並木も笑顔になってた。 「ほら、待ってないで食べなさい」 並木に言われスプーンで1粒救いみかんを口に入れた。 俺はその姿を息を飲んで見ていた。 「………甘い……美味しい」 か細い声でその言葉を聞きホッと胸を撫で下ろした。 「ね、美味しいでしょ?そう感じるって事は体が欲しがってるんだよ。ゆっくりで良いから、その小皿に入ってる分は食べる事。ノルマだよ、良いね?」 コクンと首を縦に振り、また1粒スプーンに救った。 ゆっくり.ゆっくり10粒程のみかんを時間掛けて食べる和樹君の姿を、俺と並木は頬を緩め見て居た。 それから和樹君は少し経って、また眠りに着いた。 「少しでも食べらるようになれば、もう大丈夫ですね私達も焦らずにいきましょう。今日は帰ります。後は休み明けに。良いお年を…」 年末の挨拶をし並木は帰って行った。 そこで年末年始を思わぬ形で和樹君と過ごす事になった事に改めて気が付いた。 バタバタ…してたからな。 和樹君には悪いが、俺の心の中では嬉しかった。 軽くシャワー浴びて客間に寝ようか?と思ったが、何かあった時に気付けるようにリビングのソファに毛布に包み寝る事にした。 早く良くなって、また笑った顔を見せて欲しい。

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