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第279話 決断の時(和樹)

3月に入ってからの俺は少しずつ体を動かし、食事もできるだけ食べるようにした。 もう泣くのは止めた! 散々泣き、心も落ち着いて考えられるようになってきた。 まだ、結論は出してない。 拓真の事は……まだ好きだ。 自分の正直な気持ち……拓真が好きだと言う事は……それは変わらなかった。 それもそうだ、泣きながら大学生活の事を振り返って見ても、俺の側には常に拓真が良くも悪くも居た。 俺の大学生活は拓真一色だった。 忘れられる訳無い。 結論出ないままだけど……自分のできる事をしようと朝倉さんの部屋の掃除から始めた。 それから少しの時間でも散歩をするようにした。 朝倉さんも「少し、外の空気を吸う事は良い事だ」と合鍵を持たせてくれた。 暇な時間があると、辛い事を思い出してまた泣いてしまう。 毎日1ずつやる事を増やして過ごす。 「和樹君、無理しなくって良いんだよ」 掃除や洗濯をする俺に朝倉さんは心配して話す。 「今は、何かしてた方が気が紛れるから」 「そう。いい傾向だね」 そう言って頭を撫でる顔は嬉しそうだった。 こんなに心配してくれる人が居る。 そう思うと心強い。 朝倉さんは俺がする事には、何も言わずに居てくれた 俺は少しずつ体も心も回復に向かっていった。 そんな日々を過ごし、俺は朝倉さんの部屋に来てから初めて1人で外出した。 今日は大学の卒業式だ。 今頃、皆んな式に参列してるんだろうな。 電車に乗り、外の風景を眺めた。 もう春だ。 暖かい日差しに、桜の花もチラホラ咲いてる。 皆んな元気かなぁ~。 卒業旅行は行けなかったなぁ~。 武史「また、来る」って言ってたけど、あれから全然来ない。 武史にも会いたいなぁ~。 辛い事もあったけど……今は、楽しい事しか思い出せない。 そう考えられるようになった自分はここ3ヶ月の事が嘘のように回復した。 朝倉さんが言ってたように、俺には必要な時間だったんだと思う。 朝倉さんには感謝してもしたりない。 何か、お礼しないと……。 そうだ、そうしよう。 晴れた空を電車から見上げ、心も晴れやかだった。 朝倉さんの所からは電車でも2時間弱掛かって、目的地の最寄り駅に降り歩き慣れた道を周りの景色を見ながら歩いてた。 変わらないなぁ~、3ヶ月やそこらじゃ変わらないか。 何度、この道を歩いたんだろう。 あのコンビニよく行ったな。 懐かしく思う。 目的地が見えてきた。 カンカンカン……階段を上り部屋の前で佇む。 懐かしい。 この部屋でゲ-ムしたりDVD見たりセックスもたくさんした。 笑って泣いて怒って拗ねて……たくさんの思い出が詰まった場所だ。 俺はチャイムも鳴らさず玄関ドアに大きな袋をぶら下げた。 「拓真……ありがとう。今でも……好きだよ」 深呼吸して、拓真の部屋の前から去った。 階段を降り、あの公園に向かった。 木漏れ日の中、あのベンチに座り空を見上げた。 今頃は式の最中かな? 卒業式に出てるだろうと思い拓真が居ないのを承知でこの日にプレゼントを置きに来た。 拓真の為に選んだプレゼントだ。 渡してあげないと、あの時の幸せな気持ちが籠ったプレゼントが可哀想だと思った。 これで少しスッキリした。 この公園で泣いたんだよな。 あの時は本当に辛かった。 けど、この公園にも楽しい思い出はある。 2人で桜見したりした。 懐かしい。 もし…拓真も一緒に就活してたら…卒論も一緒の時期にしてたら…拓真がバイトしてたら……そう考えた事もあった。 全て ‘たら.れば’ の世界だけど……たぶん巡り合わせや何事にもタイミングなのかも。 拓真とはそう言う巡り合わせだったんだと、やっと思えるようになったばかりだ。 まだ、拓真の事……好きだ…好き……だけど。 ありがと、拓真。 そして、さようなら。 もう泣くだけ泣いた! 涙は出ない。 もう前を向いて、これからの事を考えて進むんだ! 公園を後にし、あの日とは違い暖かい日差しを浴びながら駅へ歩き始めた。

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