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第280話 決意! (拓真)

「拓真、帰るのか?これから卒業打上げ行こうぜ」 「帰る! 疲れた」 卒業式が終わり、何人かに打上げに行こうと誘われたが、行く気には慣れなかった。 女にも誘われたが、もちろん適当に言って断った。 卒業式には和樹も来ると思ったから来たのに……どこを探しても居ない、誰に聞いても知らないと言う。 内田や中嶋.山瀬に和樹や武史の事を聞いたが、やはり知らなかった。 取り敢えず内田達と卒業式は出たが……退屈なだけだ 武史も卒業式に来てない。 もう、終わりなのか? 和樹に会いたい! 和樹に会いたい! 式の時も、そればかり考えてた。 俺はいつ和樹が戻って来ても良いように、アパートの引越しは卒業式が終わるまで待って貰っていた。 今週中には、叔父さんが用意してくれたマンションに引越さないと……。 あのアパートを引越したら……もう和樹と繋がるものが無くなってしまう。 武史も引越したらしく、スマホに電話しても連絡がとれない。 俺は和樹を探すにも身動き取れない状態だ。 何とか……どうにかできないのか? 最寄り駅に着くまでの電車の中で、それだけを考えてた。 電車を降りた時に、革靴の紐が……屈んで直してフッと反対のホ-ムを見た時に……和樹? 直ぐに立ち上がり確認しようとした時に、反対側の電車が来た。 電車が走り去った時には、どこにも居なかった。 和樹? ……似てた。 チラっと見掛けただけに自信が無かった。 和樹に会いたさで、似たような背格好の人を見間違えたかも知れない。 俺はそのまま改札口を抜け、自分のアパートに歩いた カンカンカン… アパートの階段を上がり、部屋のドアにビニールが被さった大きな紙袋がぶら下がってた。 「何だ?でっけぇ~な」 取り敢えず、袋を持ち部屋に入った。 窮屈なスーツから部屋着に着替えた。 「はあ~疲れた~」 ソファに座り一息ついた。 さっきの紙袋を思い出し、徐に開けて見た。 「ん、鞄?……まさか」 袋の中に入ってたのは、ビジネスバックと旅行パンフレット数冊そして奥にはカ-ドが入っていた。 まさか.まさか…まさか… カ-ドを開けると……………涙が出た。 和樹…和樹…和樹……和樹ぃ… 涙で和樹の文字が滲んで見える。 クリスマスプレゼントだったんだろう。 カ-ドもクリスマス用だった。 ハッと気が付いた。 さっき…駅に居たのは……和樹だ! 直ぐに立ち上がり、部屋を出ようと靴を履いて……落胆した。 もう反対の電車に乗って行ったんだ。 またソファに戻り、カ-ドを眺めパンフレットを見た 大阪(USJ).北海道.金沢.台湾.韓国.サイパン…… 卒業旅行のパンフレットか。 USJは和樹が行きたいって言ってた。 連れて行きたかった。 国内はサ-クルの皆んなとだろうな。 海外は俺と2人で……だろう。 ビジネスバック.カ-ド.パンフレットを机の上に並べて、こんなに俺の事を想ってくれてたのに……。 何で、寂しいと思ったのか? 和樹が俺から離れない! なんて……自信過剰も良いところだ! これを置いて行ったと言う事は、もう終わりなのか? そう言う事か? 和樹は俺を許さないって事なのか? 後悔しても遅いのは、もう痛い程解ってる。 でも…それでも……俺は和樹が好きだ! 会いたい! 会いたい! 会いたい! そこで、またハッと気が付いた。 さっきの電車に乗ったって事は……東京に居る! 東京に居るなら、必ずどこかで会えるかも知れない! 僅かな希望が見えた! 今の俺には東京に居る事が解っただけでも……俺は諦めない! 必ず、何年掛かっても探す! そう新たに決意した!

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