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第282話 必死な想い! (海都)

「今日、拓真のアパートに行って来ました」 和樹君から思っても見なかった話しに、驚いたと同時に落胆した。 そうか、彼と会ったのか。 彼の元に戻る事にしたんだ? ……そうか。 「彼に会ったのかい?」 和樹君は頭を横に振り応えた。 「朝倉さん、今日は3月16日だよ」 「……?」 和樹君の話す日にちが、何を意味してるのか?解らない。 「大学の卒業式だよ。皆んな卒業式に行ってると思うから、わざとその日に拓真のアパートに行ったんだ」 卒業式?そうだった! 武史君が遊びに来た時に話してた。 私とした事が忘れてた! 「……和樹君、すまない。卒業式の件、忘れてた。一生に一度の大学の卒業式に出席しなくて良かったのかい?私に遠慮して行かなかったの?」 もし、そうなら和樹君に申し訳無い事をした。 「ううん。俺、最初から行くつもり無かったから。友達には会いたい気持ちはあるけど……拓真に会ったら決心した気持ちが鈍ると思って」 「どう言う事?」 「拓真も卒業式に行ってると思って、クリスマスプレゼントを部屋のドアに下げて帰って来た。あのプレゼントは拓真の為に買った物だし、拓真にどうしても渡したかった。会って渡すと、また気持ちが迷ってしまうと思ったんだ。だって……まだ、拓真の事は好きだから。俺の大学生活の殆どが拓真と過ごした時間だもん。そんなに直ぐには忘れられないよ」 忘れる?迷う?……もしかして……落胆してた気持ちに微かな希望が見えた。 「好きなのに……良いの?」 ‘別れる’って言葉は使わなかった。 和樹君もはっきり別れると言った訳じゃないからだ。 「うん。たくさん泣いて、いっぱい考えて悩んで迷って………拓真の事……好きだけど。でもね、俺……女の子との浮気は我慢も耐える事もできた……けど…どうしても男との浮気だけは許せない! どんな理由があっても……付き合っていても最低限のルールはあると思う。もし……拓真が今後は絶対に浮気しないって言っても……信じたくても信じられないし、他の人と……その手で触られるのはどうしても嫌。拓真を好きなのに……こんな気持ちでは付き合えないと思ったんだ。だから、大学の卒業式は行かないけど……拓真からは卒業する」 あんなに彼の事を好きで悩んで泣いてた姿を見てただけに、和樹君の目からは涙も無く清々しい顔で話す姿に、自分で決着をつけに行ったんだと感動すら感じた 強くなったな。 「そうか。偉いぞ! 和樹君」 頭を撫でてやると、微笑む顔に後悔は無さそうだ。 彼との事も決断し……ここを出て一から始めるつもりなのか? このまま何も言わずに送り出したら、俺が後悔する! テ-ブルに置きっ放しの住宅雑誌と求人雑誌をチラッと見て……一呼吸し口を開いた。 「……和樹君……聞いても良いかな?」 「何ですか?」 「………和樹君は……ここを出て行くつもりなのか?」 「そのつもりですけど…。朝倉さんには、お世話になりっ放しで申し訳無いんですけど……アパートと就職先見つかるまで、もう少しだけ、ここに居ても良いですか?決まってた就職先は拓真の仕事場に近い所にしてたから……それに、連絡して無かったから…たぶんダメになっちゃった」 直ぐには出て行かないと聞いてホッと胸を撫で下ろした。 「なるべく、早く決めますね」 その言葉を聞いて焦り、和樹君の両肩に手を置き必死に話した。 「和樹君! 私はここにいつまでも居て欲しい! 就職先を探してるなら、私の会社に来て欲しい!」 俺の勢いに押され驚いた顔をし、直ぐに微笑んだ。 「ありがとう、朝倉さん。俺が困ってたり悩んでる時に、いつも助けてくれる。でも……凄く嬉しいけど……そこまでは甘えられない。散々、甘えて迷惑掛けたのに。その上、住む所と就職先もなんて……これ以上は迷惑掛けたくない」 肩に置いた手に力が入った。 そのくらい和樹君に側に居て欲しいと必死だった。 「迷惑なんかじゃない! 俺が和樹君に側に居て欲しいんだ! 今、話す事じゃ無いかも知れないが……言わないと後悔する! 俺は和樹君が好きだ! 愛してるんだ! 」 今、話さないと、もう話せないかもと勢いで話した。 「えっ!……嘘でしょ?だって、朝倉さんからはそんな素振りなんか見た事ないし…」 驚き目を見開いた顔が可愛いと、こんな時でも思った 「彼の事で悩んで苦しんでる時に、俺の事で更に悩ます訳にはいかないと思ってた。彼の事をどんな形でも和樹君の中で決着ついたら、時期を見て自分の気持ちを話すつもりだった」 「……知らなかった。いつから?」 「和樹君をはっきり好きだと自覚したのは……初めて抱いた時だった。けど…その前から、彼に一途な和樹君が気になって守ってあげたいと思ってた。その気持ちが少しずつ好きな気持ちに変わっていった。彼を一途に想う気持ちが俺に向いてくれたら…と思うようになった。でも、和樹君には俺の気持ちを知られないように接してた。彼を好きなら……和樹君が幸せである事が1番と考えてた」 俺の正直な気持ちを話した。 「でも……朝倉さんには……セフレ居ましたよね?」 その事を言われると……和樹君に節操が無いと思われると必死に弁解した。 「セフレとは和樹君を抱いて好きだと自覚して、直ぐに全員と別れた! セフレが居る俺では、幾ら和樹君を好きだと言っても信じて貰えないと思ったし、和樹君には誠実で居たいと思ったからね。俺は仕事を優先するタイプだから、恋愛事には時間を取られたく無いと思ってた。それならセフレで充分だと……。和樹君を好きになって、そんな自分では和樹君に好きだと言う資格は無いと思って、全員と別れて和樹君には真っ新な状態でいつも会いたかった」 「そこまで……そこまでして貰う程、俺には価値が無い」 「価値とかそんな事じゃないよ。俺は和樹君をずっと見守ってきたんだ。和樹君の頑張り屋な所も一途な所も健気に耐えてる所も……全部ね。その上で好きになった」 俺は必死だった。 ここで和樹君をどんな形でも捕まえないと、離れて行ってしまうと必死に言い募った。 俺は人前では、必ず社長として ‘私’ と言ってたが、いつのまにか素の自分を出していた、その証拠に ‘俺’ と話してた。 「……朝倉さんの気持ちは嬉しいですけど……俺も朝倉さんは好きです。でも、まだ男としてとかの意味じゃなく、いつも話しを聞いてくれて頼りになる兄って感じです。それに俺……拓真との事、やっと自分の中で整理できたばっかりで……まだ……拓真の事好きだし。直ぐには……朝倉さんの事を考える事ができないのが、正直な気持ちです。そんな俺が朝倉さんの会社や一緒に住む事は出来ません。……朝倉さんの気持ちを利用してるようで」 和樹君の気持ちも解る。 彼への気持ちを整理してきたばかりの今日の今日だ。 利用する?それならそれでも良い! どんな形でも和樹君の側に居たい、いや居て欲しい。 「和樹君。俺は和樹君が彼を好きな時から和樹をずっと見てきた。和樹君の彼への一途な想いも知ってる。そんな和樹君を好きになった。その一途な想い事.まるごと受け止めたい。今は直ぐには、俺の事を考えられないかも知れない。俺に時間をくれないか?ここに居て、俺をもっと知って欲しいし、会社の事も前に話しただろ?今年は良い子が居なかったって。和樹君なら人間性も知ってるし大学でもIT関係の勉強してるし。社長としては本当に人材が欲しい所なんだ。始めは雑用からだが、人手が足りないのも事実だ」 俺の想いが伝わっただろうか? まだ、足りないならもっと解ってくれるまで話す! どうか和樹君に……通じてくれ!

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