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第284話 …1年後 ①
「海(かい)、起きてよ~。並木さん、来ちゃうよ~」
寝室のドアを開け、和樹が起こしに来た。
今日はどんな起こし方してくれるんだろう。
その日によって趣向を凝らし、あの手この手で起こしてくれる。
コチョコチョ攻めか?それともスマホで音楽を大音量で耳元に流すか?頬にキス攻めか?
出来れば、頬にキス攻めが良いなぁ~♪
朝の楽しみの1つだ。
ウキウキしながら、狸寝入りをする毎日だった。
「んもう、毎朝.毎朝、手を煩(わずら)わせるんだから~」
ボスンッ!
布団の上にダイブして来た。
「うっ!」
予想外の行動で、思わず声が出てしまった。
今日はその手できたのか~♪
「早く、起きてよ~」
布団の上で体重をかけ、少し掛布団を捲り話す和樹の体を掛布団で包み布団事抱きしめた。
「ふがっ…起きてたの?」
顔だけ出てる和樹の唇にキスした。
チュッ!
「誰かさんがダイブしてきた所為で起きた」
「ほら~、早く起きないと並木さん来ちゃうよ?」
チュッ.チュッ。
「待たせておけば良い。和樹との大切な朝の時間だ」
包まれた布団の中で踠(もが)く和樹を手足を使いホールドして離さない。
「ふがっ…も…離して~。海が起きないと、俺が並木さんに怒られる~」
「………それは困る。仕方無い」
もう一度、和樹にキスし手足を離す。
自由になった体で布団の上を這い上がってきて、俺の唇にキスし照れてベットから降りた。
「本当~に、起きてよ~」
そう言い残し寝室を出て行った。
可愛い~な。
朝からの和樹との攻防は楽しくって仕方無い。
俺の毎日の活力だ。
さて、今日も1日これで頑張れるぞ!
「ん~、よし! 起きるか!」
ベットを抜け出しリビングに行くと、ダイニングテ-ブルには簡単な朝食が用意されてる。
椅子に座り、食パンを咀嚼し目玉焼きを口に入れコ-ヒ-を飲んで居ると、和樹が忙しなく会社に行く準備をしてた。
「和樹~、車に乗って行けよ~。どうせ、一緒の会社に行くんだ」
洗面所から顔をひょっこり出し
「いつも言ってるでしょ?平社員が社長と一緒に出勤なんて、できる訳無いじゃないですか?俺は電車で行きます。それより早く食べて準備して下さいね。後、食べ終わったら食洗機に入れて下さい」
「解ってます」
俺の返事を聞いて、また準備し始めた。
慌ただしい和樹を尻目に、ゆっくりコ-ヒ-を飲んでた。
「海、先に出るね」
「ああ、会社でな」
「うん。じゃあ、戸締り宜しくね」
リビングを出て玄関に向かう和樹を見送り「さてと、準備するかっ」腰を上げ、言われた通りに食洗機に入れ会社に行く準備を始めた。
マンションの駐車場に行くと、並木が運転席に座り待っていた。
後部座席のドアを開け乗り込む。
「社長、おはようございます」
「おはよう」
「それでは、車出しますよ」
「ああ、頼む」
会社までの数十分の中で、今日のスケジュ-ルを聞く事もいつもの事だ。
並木は一通りスケジュ-ルを話し、秘書の顔から個人の顔に戻る。
「和樹君もだいぶ仕事に慣れましたね。もう事務処理とか書類作成とかの雑務は任せても安心出来ます。私も随分助かります。それに皆んなに可愛がられてますしね」
確かに和樹は嫌な顔もせずに、小さな体で良く働く姿に皆んな可愛いがっている事は嬉しい事だが……。
「何か、浮かない顔してますね?不満でも?」
並木の話しに返事をしない俺をバックミラー越しに見て痛い所を突かれた。
「不満って訳じゃないが……皆んなが和樹を可愛がってくれてる事には感謝してるし、社長としては嬉しいが……少し、和樹に皆んな構い過ぎじゃないか?いちいち和樹に甘い物あげたり頭を撫でたり、ちょっと仕事が立て込むと和樹を話し相手にしてる……幾ら、和樹が可愛い~からって、やはり構い過ぎだ!」
クスクスクス……
俺の正直な気持ちを話すと並木が笑う。
「何が、可笑しいんだ?」
「いいえ、皆んな和樹君が可愛いんですよ。良く働くし、いつもニコニコ笑ってるから癒されるでしょ?大丈夫、恋愛対象じゃありませんよ。本当に妬きもち焼きですね~」
「当たり前だ! 恋愛対象で見てる奴が居たらクビだ!」
「まあまあ。それに和樹君が入社の挨拶し定時に帰った後に、社員に向かって ‘私の好きな人だ! 手出しは無用だ! 皆んな宜しく頼む!’って、皆んなに牽制してたのは誰ですか?そんな事、社長に言われたら誰も手を出せませんよ」
「和樹には内緒だぞ! 初めが肝心だと思ったんだ。それに社員の中にはゲイの奴も居るし、どっちもイケる奴も居るからな。和樹は可愛いから用心には用心を重ねないとな」
「そうですか。ご自分の事を棚に上げてゲイとかどっちもイケるとか……良く言いますね」
「私の事は皆んな知ってるし、私も隠さずにオ-プンにしてる。そんな社長が嫌なら、別に会社に残って貰わなくてもいい。私の性的な事と会社とは関係無いからな」
今の時代そんな事で、そうそう辞める人は居ないが、俺の会社に居る社員は仕事も出来るが少々変わってる奴が多い。
だから面白いんだがな。
和樹も楽しい~って喜んでる。
「その和樹君はもう出掛けたんですか?」
「ああ、どうせ一緒の会社に行くんだから、乗ってけって言ってるんだが、社長と一緒に出勤するなんてって言い張って電車で行った」
「常識だと思いますけどね。和樹君が毎朝起こしてくれるから、私もいちいち電話掛ける事も無くなって助かります。今頃、電車の中で痴漢にでも遭って無ければ良いんですが……可愛いから心配ですね?」
クスクスクス……
たぶん俺を揶揄ってるのは解るが……和樹は可愛い~からな。
「確かに和樹は可愛い~。心配になってきた。並木、早く会社に行け! 無事な姿を見たい!」
真剣に話す俺をバックミラーで見て、呆れた顔をした
「はい.はい、解りました」
ちょっと社長を揶揄うつもりで、余計な事を言った自分を後悔した。
バカバカしい~が、ずっと和樹君を黙って見守ってきた社長だから、今の幸せそうな社長を見ると嬉しくなる
社長の和樹君に対しての誠実さと努力が報われた事に……陰で、社員皆んなが祝福してる事は内緒だ。
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