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第285話 …1年後 ②
「ねぇ~海、武史と会うの久し振り~♪」
「そうだね。前回会った時は、随分前だからね」
「うん。ねぇ~今日、鍋にする?並木さんも来てくれるから、皆んなで鍋を突っついて食べるの。楽しそう♪」
「寒くなったから、鍋いいね。俺はすき焼きが良いな」
「良いかも~。武史も並木さんも1人だから鍋しないだろうし、すき焼きなら好き嫌いないし。うん、そうしよう♪」
「じゃあ、帰りに極上肉買って帰ろう」
「……極上肉じゃなく、ちょっと高めの肉で良いよ。その代わりたくさん買って帰ろ」
「解ったよ。和樹に任せる。その前に色々見たいだろ?折角、オ-プンしたての商業施設に来たんだ。和樹、前々からオ-プンしたら行きたいって言ってただろ?」
先週オ-プンした大きい商業施設に、和樹と一緒に来ていた。
俺達のマンションからは遠くドライブがてら車で来たが、オ-プンしたての商業施設はやはり混んでて、駐車場に入るまでも結構渋滞だった。
「うん。でも、広過ぎて今日だけじゃ回れないかも」
「来るのも昼過ぎちまったからな。ごめんな、出るのが遅くなった。また、来れば良い」
昨日の夜は年甲斐も無く何度も和樹を求めてしまい、起きるのが遅くマンションを出るのが遅くなったのが原因だ。
いつも一緒に寝てるが、平日はなるべく我慢してるせいもあり、どうしても週末にその皺寄せがきてしまう
それでも、どうしても平日に我慢出来ない時は和樹の体を考え軽く済ませるようにしてるが……若い恋人を持つと、こちらまで若くなるから不思議だ。
「海?ねえ、海ってば~」
「何?」
「考え事?人混みが凄いから、ここには暫くはいいよ良さそうなお店を見て歩いて、ある程度の時間になったら食品売場に行って買って帰ろ。鍋の用意もしなきゃ」
「そうだな。時期を空けてまた来れば良いしな。商業施設は逃げないからな」
「うん♪ 海、あそこ入ろう」
「解った、行こう」
和樹が先を歩き気になるお店に入った。
それから何店舗か服を見たりアロマ専門店.本屋.DVD.雑貨屋と忙しなく見て動く和樹に着いて行くが……流石に疲れた。
和樹は疲れも見せずに「なかなか来る事も無いから」と言って、あっちこっち見るのが楽しそうだ。
特に、買う物も無いようだが……。
「和樹ぃ~。そろそろ、すき焼きの材料買って帰ろう」
「そうだね。あっ、ちょっと待ってて。あそこだけ見たい!」
そう言って店を出てゲ-ム機やソフトを売ってる店に走って行った。
おいおい、俺を置いて行くかよぉ~。
俺も和樹を追いかけようと店を出ると近くで小さな子供がお母さんに怒られていた。
どうも勝手に動き怒られていたようだ。
漏れ聞こえた名前が ‘かずき’だったから、俺も思わず今の俺達と同じ状況に吹き出しそうになった。
さて、家(うち)の和樹は?どこだ?
「和樹~!」
人が行き交う中で、店に入ろうとする和樹に思わず大声で名前を呼んだ。
和樹は振り返り微笑んで店の入口で待ってた。
直ぐに俺も和樹の元に向かった。
その頃、俺は2つ上の先輩とオ-プンしたての商業施設に居た。
この施設にインテリア雑貨店の内装などを手掛ける為に先輩のアシスタントで一緒に商談.プレゼンをして会社に帰る所だった。
真新しい商業施設は色々な店舗があり、お客の入りも上々だった。
家族連れやカップルと幅広い世代をターゲットとしてるだけあって沢山の人が行き交って居た。
歩きながら他の店舗の内装や配置等をチラチラ見ながらも隣に歩く先輩の話を聞いて居た。
「本郷、あの店舗の仕事決まったら今後の為にもなるな。まだオ-プン前の店や今後リニューアルする店も出てくるしな。今日の感触は悪く無かったと思う」
「上手くいくと良いですね」
「そうだな。ただ、ちょっと会社から遠いんだよな~」
「それは仕方ないですね」
先輩と並んで歩いてた時に「かずきぃ~」と呼ぶ声が後方から聞こえ振り返った。
まさか‼︎
「一喜(かずき)! 1人で勝手に行っちゃダメでしょ!」
3歳ぐらいの男の子がお母さんに怒られて居た。
その光景を見て ‘もしや’ と期待してただけに落胆した
ったく、紛らわしい!
確かに ‘かずき’ って名前は割と多いしな。
前を向き歩き始め数分後に、またもや背後から
「かずきぃ~!(和樹)」
呼ぶ声が聞こえ、反射的に立ち止まった。
今度こそっと想いを込め振り向こうとした矢先に、数メ-トル先を歩いて居た先輩が「おい、何してる?早く行くぞ~」と、声を掛けられ、待たせるわけにもいかず、振り返らずに先輩の元に駆け寄りそのまま2人で歩きながら話した。
「すみません。知合いの名前が聞こえたもんで」
「オ-プンしたての、この人混みだ。聞こえたとしても、どこに居るか解んねぇ~よ」
「確かに」
「そう言えば、この間も可愛い女の子に告白されて無かったか?」
「えっ?あ~あ、そう言う事も有りましたけど、付き合ってる人居るんでって断りました」
「あの店員さん、可愛いかったのに勿体無ぇ~。本郷って、飲み会の時も正直に言うし場が白けるんだよなぁ~」
「すみません。はっきり言っておいた方が面倒事にならないかと思って。付き合ってる人にも悪いし……大切なんで」
「本郷みたいな色男にそこまで言わせるなんて、その子も幸せだな」
「そうでも無いですよ。悲しい想いもさせたんで、その分これからは大切にしたいんです」
「そうか。付き合って長いんだっけ?」
「はい。大学からです」
「なげぇ~」
先輩との会話をしながら、右手に持ったビジネスバックの取手をギュっと握り締めた。
和樹からクリスマスプレゼントに貰ったバックを大切に使っている。
そして胸にはペアのネックレス、左手にはブレスレット。
和樹との思い出を身に纏う。
俺は別れたとは思って無い!
和樹からも一言も聞いて無い!
俺は今も和樹を探していた。
和樹の実家にもたまに電話したり、突然行方不明になった武史の就職先の出版社を探したりしてる。
小さな出版社も合わせると数限りないが……電話をしまくり、いつかは武史に辿り着けると信じてる。
武史が ‘鍵だ’ と思ってる。
都内に居る事は解ってる。
どこかで、ばったり会うかも知れない!
その証拠に、今日も ‘かずき’ って名を2度も聞いた。
近くに居るような気がする。
必ず会える! と信じてる。
もし、和樹に……考えたく無いが、相手が居たとしても……俺はどんな手段を使っても必ず奪ってやる! いや、元々は俺の和樹だ!
そして今度こそ、俺が幸せにしてやる!
悲しい想いをさせた分……今度こそ!
その為にも必ず見つけ出す!
あの時の俺は和樹に甘えて我儘で自分勝手な子供だった。
社会人になり、俺も少しは大人になった。
和樹に会えた時に、変わった俺を見てもらう為にも仕事を頑張ってる。
あの日……クリスマスに渡さなかったプレゼントも大切に仕舞ってある。
いつか渡せる日が来ると信じて……。
和樹……早く会いたい!
胸元のペアのネックレスに手を当て願った。
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