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第286話…1年後 (会社でのひと時)③
遅くなったが、並木と外回りから社に戻ると、和樹と数人が楽しそうに談笑していた。
和やかな雰囲気だった。
形ばかりの就業時間は過ぎてるが、仕事上で徹夜になる時もあるし、早く退社するのも仕事をきっちりやってれば文句はないと言う社風の為、就業時間は囚われ無い。
その代わり期限内(締め切り)で、仕事を仕上げる事が必須だ。
仕事の兼ね合いを見ながらある程度は個人に任せている。
俺と並木に気が付いた和樹が一早く「お疲れ様です」と挨拶すると、他の連中も口々に挨拶した。
「お疲れ。何だ?楽しそうだな」
「今、一息入れてコーヒー入れた所です。社長も並木さんもコーヒー入れましょうか?」
「いや、いい。並木、行くぞ」
「はい」
忙しさを装い折角の和樹の誘いを断り、並木を伴い社長室兼応接室に入った。
ビジネスバックを置きコートを掛け椅子に座る。
並木はデスクの前に立ち、俺の一連の行動を見て居た
「社長、今日の商談纏まりそうですね?」
「感触としては悪く無かった。あと一押しって所か?明日にでも電話を入れてみよう」
「決まると良いですね」
「ああ」
俺と並木がそんな話しをしてると、部屋の外から楽しそうな笑い声が聞こえた。
「楽しそうですね?」
「そうだな」
「何、拗ねてるんですか?和樹君が皆んなと楽しそうに話してるからですか?それは和樹君が可愛い~から仕方ないでしょ?我が社の癒しのアイドルですからね」
「拗ねてなど居ない。和樹が可愛い~のは、私が1番知ってる! 少しばかり皆んな和樹に構い過ぎだ! ここは仕事場だ。和樹に癒しを求めるな!」
額に手を当て、やれやれって顔をする並木だ。
「あのですね、1番和樹君を癒しにしてる人が良く言いますよ~。私は知ってるんですからね! 社長が和樹君を社長室に連れ込んで、抱きしめたり膝の上で抱っこしてるのを……。全く! 皆んなが少し位、和樹君の頭を撫でたり話しする位良いでしょ! 妬きもち焼きもいい加減にして下さいよ! 解りましたね?」
並木の御託はご最もな話しで反論出来ない!
「…………解った」
「解れば宜しい。さてと……私も和樹君に癒して貰いに行こうっと。和樹君の好きなシュ-クリ-ム待って行こう♪ じゃあ、失礼します」
「おい、それは私が和樹の為に買って来たんだぞ。おい、並木!」
「和樹く~ん。私にコーヒー入れて。シュ-クリ-ム買って来たから皆んなで食べよ~」
「わ~い♪」「「やったー」」「ラッキー」「いただき~」
形ばかりの頭を下げ、素早く社長室を出て行く後ろ姿に声を掛けたが、聞こえない振りで出て行き外からはまた楽しそうな声が聞こえた。
くそぉ~並木の奴!
言いたい事言ってサッサと出て行って、正論だから何も言い返せない。
ま、並木に言い返す事など殆ど出来ない。
その位信用.信頼してるからだ。
大体、皆んなもそうだが1番並木が和樹に甘い。
仕事面では厳しく指導し注意もするが、それ以外になると甘くなり飴と鞭の使い分けをし、すっかり和樹も並木を尊敬し懐いてるのが……気に食わない。
1人デスクで物想いに耽ってると、部屋の外からは楽しそうに笑ってる声がこっちまで届く。
楽しそうだな~。
和樹も社員の皆んなと打ち解けたのは嬉しいが……会社では皆んなの和樹だと思うと……何だか寂しい。
和樹が皆んなと仲良くなっていくに連れ、嬉しい反面そう言う気持ちに襲われる時がある。
並木に言われなくとも拗ねてるのは解ってた。
ガキみたいだ。
少し反省し、皆んなの元に、いや和樹の元に行きたいがキッカケが掴めず悶々としてた。
「はあ~」
そう思って溜息をついた時、社長室のドアがノックされた。
コンコン……。
並木か?
「入れ」
ドアの隙間から顔を少し出し「今、大丈夫ですか?」と和樹が現れた。
「大丈夫だが、何かあったか?」
ドアを閉め、椅子に座ってる俺の側まで来た。
「お疲れ様、海」
会社では社長と呼ぶはずの和樹がプライベート呼びをして微笑み、俺も釣られて笑顔を見せた。
「お疲れ」
俺が言葉を発すると、和樹は俺の膝にちょこんと座り俺を抱きしめた。
珍しい~♪
和樹から会社で、こんな事するなんて初めてだ♪
「ん…どうした?」
「並木さんが内緒話で ‘社長、お疲れ気味だから、少し癒してあげて’って。海、疲れたの?余り無理しないで」
「ありがとう。和樹に癒されて疲れも吹っ飛んだ」
並木の奴♪
何やかんや言いながらも、ちゃんと考えてくれる。
やはり信頼できる奴だ!
「じゃあ、皆んなの所に行って一緒にシュ-クリ-ム食べよ。皆んなも海の事を待ってるよ」
「解ったが…あと1分だけこうしてたい」
ふふふ……
「海の甘えん坊さん! そんな所も好き!」
「俺も和樹が好きで好きで堪らない!」
2人で顔を見合わせ笑った。
俺も和樹に癒され、2人で社長室を出て皆んなの元に行くと、俺の分のコーヒーとシュ-クリ-ムがちゃんと用意されてた。
皆んなの中に入り和気藹々と暫しの休憩を取った。
気の良い奴らだ。
良い仕事仲間に恵まれて、可愛い恋人が居て幸せなひと時だった。
並木がニヤニヤしてたのは……見なかった振りをした。
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