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第293話 番外編~拓真(1)~

テーブルに置かれた離婚届をバックに仕舞い 「これでお互い自由ね。今まで、ありがとう」 「ああ、……俺は…煌(こう)の為に、別にこのままでも…。考えは、変わらないのか?」 「変わらないわ。あなたには感謝してるわ。この3年間、良い奥さんでも母親でも無かった。ごめんなさい。あの子の事……宜しくね」 「……最後に、顔を見て行かないのか?」 瑠美は頭を横に振り、辛そうな顔をした。 「このまま行くわ。顔を見ると…やはり辛くなるもの……もう2度と…あの子にもあなたにも会わない…本当にありがとう……あなたの事は愛してはいなかったけど、同志としては好きだったわ。幸せになって」 最後に笑顔を見せテーブルに鍵を置いて席を立ち、スーツケースに手を掛け部屋を出て行こうとする後ろ姿に声を掛けた。 「行くんだろう、ずっと好きな奴の所に?」 「……うん。でも……結婚とかは、ほとぼりが冷めてからにするから」 「そうか。幸せになれよ」 「うん、ありがと…。あなたも本当に愛する人を見つけて」 そう言って部屋を出て行った。 テーブルの上に残された鍵を手に取り 「行っちまったな。これで終わり…か。呆気ないもんだな」 鍵を見つめたまま暫く物想いに耽ってると、煌が目を擦り起きて来た。 「パパ?」 「起きたのか?」 「うん。ママは?」 「……ママは……ちょっと遠い所に暫く旅行に行ったこれからは暫くパパと2人だ……」 3歳の煌には、まだ本当の事を言っても解らないと誤魔化した。 いずれ2人の生活に慣れて理解出来るようになったら本当の事を言おう。 「そうなの~」 「ほら、お布団行こう」 「うん。パパ、一緒に寝よう」 「解った」 抱っことせがむ煌を抱き、俺の寝室に連れて行った。 ベットに寝かせ添い寝してやる。 「パパ~、今日の誕生日会楽しかったね」 「ああ、煌も今日で3歳か」 「うん、今日はパパもママも居て楽しかった~」 「そうか。ごめんな、いつも遅くなって」 「ううん、お仕事だから」 「良い子だ。ほら、お喋りしてると寝られないぞ。おやすみ」 「おやすみなさい」 目を閉じその内スヤスヤ…と眠りに就いた煌の寝顔を眺めた。 寝たか? 今日は煌の誕生日と言う事で、俺も早く帰り聡美も手料理を作り賑やかに笑って過ごし、煌も楽しそうだった。 煌は知らないが、俺と聡美と密かに決めてた家族としての最後の晩餐だった。 「ごめんな、煌」 何も知らずにスヤスヤ眠る煌に詫びた。 煌の寝顔を眺めて、あの日から……今日までの数年間を思い出してた。

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