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第295話 番外編~拓真(3)~

それから30分程で、武史が店に入って来た。 キョロキョロ…し、奥に居る俺を見つけマスターに注文をしテーブルに着いた。 「待たせたな」 「ああ」 目の前の武史は学生の時より大人になったような、逞しくなったような気がする。 武史が注文してたコーヒーが運ばれ、暫く沈黙が続きコーヒーを啜る音だけした。 お互い相手の出方を見てるような感じだ。 そんな気まずい中で先に口火を切ったのは武史からだった。 「で、話しって和樹の事?まさか、昔の級友に懐かしくなって会いに来たってわけじゃないよな?わざわざ探し出してまで」 無口で人見知りで寡黙だったが、社会人になって少しは変わったのか? 「俺が武史に会って話しをしたいって言ったら、和樹の事以外無いだろ?」 「まあ、そうだよな。もう、あれから1年半か.2年近くか?まだ和樹の事……諦めて無いのか?」 「何年経っても和樹を探し出して、謝って.謝って.許してくれるまで謝って、今度こそ幸せにするって誓うつもりだ。武史、和樹の居場所知ってるんだろ?元気…になったか?体調は?会ってるんだろ?俺に和樹の居場所を教えてくれ! 頼む‼︎」 人に頭を下げた事が無い俺が頭を下げた。 「俺も最近は会ってないが、体調も良くなり元気だ……。拓真、和樹の事は諦めろ! お前から和樹に伝えて欲しいって言われた事は和樹に伝えた。和樹を好きだって事や謝りたいって事.そして今度こそやり直して幸せにしたいって事や何年掛かっても和樹を待ってると言う事を伝えて、後は和樹の判断に任せた。和樹が後悔しないようにな。和樹がお前に連絡取らないのは……それが和樹の返事で結論なんだよ。解れよ! もう和樹の事は忘れろ! そして、もう2度と来ないでくれ‼︎」 ちゃんと俺の気持ちを伝えてくれてた武史には感謝したが、和樹を諦める訳にはいかない。 あと少しで会えるんだ‼︎ 武史を説得する為にこれが最後だと思い、俺の想いの丈を話す。 「そうか、俺の気持ちは伝えてくれたのか?ありがとだが……一目会って、きちんと謝りたい! そしてあの時はガキだったが、今の俺なら和樹を幸せに出来る。裏切られた気持ちは消えないかも知れないが、何年掛かっても信頼して貰えるように努力する……俺は今でも和樹が好きだ‼︎ 和樹だけが俺の事を解ってくれる、和樹しか居ないんだ‼︎」 黙って俺の話しを聞いてた武史が暫く考えてから、やっと話し出した。 どうか俺の想いが届いてくれ‼︎ 「拓真も少しは大人になったって事か。俺が拓真の気持ちを伝えた時に和樹が言ってた。拓真の事は好きだけど…人間の本質はそう変わるもんじゃないって、それは拓真もだけど自分もそうだって。また裏切られるんじゃないかって、疑心暗鬼で付き合っても苦しいって。拓真を信じられないで居る自分は上手くいく訳無いって。和樹の心はボロボロで傷ついても、お前を責めるより自分の事を責めてた。その和樹が自分で決めた事だ。解ってやれよ!」 和樹の優しさとどれだけ傷つけたか思い知った。 「……だからこそ、俺が幸せにしてやりたい‼︎ 今度こそ間違えない‼︎」 俺は食い下がった。 「……もう遅いんだよ。……拓真、言おうかどうか迷うたが、お前の為にも和樹の為にも……はっきり言っておく。和樹の事……任せられる人が居る」 今度は、俺が驚きそして頭を何かで叩かれたようにショックが大きかった。 「……いつ?俺と別れてからか?どんな人だ?」 「お前と別れて、和樹がどん底に居た時に知り合った……和樹が苦しい時に黙って側で見守り支えてくれた人だ。その人のお陰で和樹は少しずつ立ち直って、今は幸せで居る。お前も和樹の幸せを思ってるなら、今はそっとしてやってくれ!」 「……嘘だろ?俺を諦めさせようと言ってるんだろ⁉︎」 嘘だと思いたかった。 1年や2年位で、和樹が心変わりすると思わなかった、いや和樹は何年経っても俺を好きで居てくれると思ってた。 「そう思いたい気持ちも解るが、本当の事だ。和樹は……拓真の事は今も好きだけど…辛かった時もあるけど、今は良い思い出になってるって。今はありのままの俺を愛してくれる信頼出来る人が居て幸せだって笑って話せるようになった。和樹はその人とこれからを生きていくって……。もう和樹はお前の元には戻らない。 和樹も1歩踏み出してるんだ。和樹の幸せを考えてるなら、お前も和樹の事はもうそっとしてやってくれ! そして、これからの自分の人生を考えろ!」 「…………俺では…だめなのか?」 最後の望みを込めて聞いた。 「ああ、お前では無理だ‼︎ 和樹は幸せにしてる。もうこれで解っただろ?俺からは話す事はもう無い! だから、もう会う事も無い‼︎ 拓真も……和樹の事は忘れて……幸せになる事を考えろ‼︎」 俺の返事も聞かずに、そう言って金を置いて席を立ち店を出て行った。 俺は目の前が真っ暗になり、暫く放心状態だった。 そして落ちつこうと冷めたコーヒーを飲もうとし、コーヒーカップを持つ手が震えてた。 やっと口にしたコーヒーは冷めて苦かった。 窓から外を眺めると、ぼやけて良く見えない。 そして目から涙が溢れると、堰を切ったようにどんどん頬を伝う。 和樹にはもう相手が居るのか⁉︎ 和樹が苦しい時に……そいつじゃなく俺が側に居て支えたかった‼︎ 自分が和樹を苦しめて辛い想いさせた癖に‼︎ 解ってる……自分勝手な事も‼︎ でも俺には……和樹しか居ない…んだ。 思い出……か。 和樹にとって、俺は既に思い出の人なのか⁉︎ 俺は諦めると言うより、絶望と後悔が広がってた。 そして自分が腹ただしかった。 和樹が俺の前から黙って姿を消した日から、和樹を探し出して謝って許して貰って、やり直す事だけを考え今日までやってこれた。 明日から何を支えに、生きていけば良いのか? 心に穴がぽっかり空いた気がした。 俺には何も無い‼︎ 絶望……感が心を占める。

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