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第296話 番外編~拓真(4)~

武史と会ってからの俺は会社ではきちんと仕事をするが、それ以外ではもぬけの殻の状態の日々が続いた。 仕事はやるべき事があり、何も考えずに居られる。 今の俺には仕事が救いだった。 そんな俺の状態が1~2ヶ月も続くと、元気がないと思ったらしい先輩が飲みに誘って来た。 ずっと、もぬけの殻の状態で何も考えられずに居た俺だったが、少しずつ後悔と寂しさが押し寄せてくると1人で居たく無いと思うようになり、先輩の誘いに乗った。 居酒屋で飲む事になり、先輩は「何か、悩みでもあるのか?元気ないぞ」と、相談に乗ってくれようとしてたが「好きな相手がもう手が届かない所にいった」とだけ話すと、付き合ってた相手と別れたと思ったのだろう?「女はその子1人じゃないぞ‼︎ 別れた相手を忘れるには、次の恋だ‼︎」と、誰でも話すような陳腐な台詞で俺を励ましてくれた。 でも、その気持ちは有り難いと素直にそう思った。 「今日は飲んで忘れろ‼︎ 」 またもや陳腐な台詞に少し救われた。 それから先輩の過去の恋愛話を聞き、下らない話しをしながら浴びるように飲んだ。 俺は酒に強い方だが心が弱ってる所為か?自分でも酔ってる気がした。 先輩も相当酔って居た。 そして、その乗りで隣に居たOL2人組をナンパしたのも先輩だった。 OL2人組も結構飲んでたらしく場が盛り上がり、帰り際には何とかなくカップルになってた。 先輩はOLの1人とさっさと消え、残った俺も酔っ払って女に誘われるがままホテルに行きヤル事をヤッテ1晩明かし、女が起きる前にそそくさとホテルを後にした。 要は、ヤリ逃げだ。 朝の電車の中で、ここ2年程は和樹に変わった俺を見せたくて、こういう行為は避けて居た。 先輩に飲みに誘われても合コンに誘われても接待に行っても、誘うような仕草をする女を紳士風を装い、気付かない素振りで必ず駅まで送って帰って来たり、1人で早々に帰る様にしてた。 そんな禁欲生活をしてた……和樹が戻らないと解った今となってはバカらしい。 この1夜で俺は人肌が恋しくなり、自暴自棄になり飲み歩き1夜の相手をし、酒臭いまま会社に行ったりと酷い生活を送り始め、女遊びも派手になり周囲もあまりの変わりように驚いて居た。 本来の俺はこんな男だ! と、嗜虐的な考えと自暴自棄になってた。 それでも仕事は完璧に熟すから、社長でもある叔父さんも文句は言わずに居た。 遊び人の先輩に誘われた合コン行ったりキャバクラに行ったり、現実逃避するように毎晩飲み歩く。 そんな生活が半年も経つと3~4人のセフレができ、週1度の頻度でセフレ達と会うと性欲も満たされるが心は満たされない。 それでも人肌の恋しさと1人で居たく無い俺の我儘で偶に1夜の相手もあるが、セフレ達は商売女か.彼氏持ちの女を選び寂しさを紛らわす日々を送ってた。 「俺に何も期待するな。心は要らない、体の関係だけで充分だ。面倒事は勘弁だ! それが嫌なら会わない!」と、自分勝手な事を言い放す。 「酷い男ね。でも、そんな所も魅力なんだから。でも本気になる相手では無いわ」と、皆が言うが納得した者だけを相手にした。 俺もどうせ俺の外見とセックスが良いんだろうと、お互い割り切った付き合いをした。 そして男は抱く事はしなかった。 最後に、男で抱いたのは和樹だからだ。 今更、和樹に操を立てても何にもならないと解っては居るが、それでも男を抱く気にはならない。 ‘和樹を忘れて自分の幸せを考えろ’ と、武史は言ったが、俺には……和樹を忘れる事は出来ない‼︎ 俺の幸せは和樹が居てこそだ! だが、和樹が幸せであるなら……それを壊す事も出来ない‼︎ 和樹が苦しい時に側に居て見守り続けたと言う男……その話を聞いて無かったら、相手が居ようがどんな事をしても和樹を奪うつもりだった。 俺には和樹を奪う事も忘れる事も幸せになる事も……資格が無い‼︎ そんなジレンマを抱えて、前にも進めずに居る。 スマホの中の写メの和樹はまだ幼さが残る笑顔を見せてる。 少しは大人っぽくなっただろうか? 人の痛みが解り周囲を楽しくし優しい性格は変わって無いだろうか? 俺の中の和樹は大学生の和樹で止まってた。 1人の部屋で飲んでると、そんな事ばかり考えてしまう。 また、寂しさが募り夜の街に憂さ晴らしに行く日々だったが、仕事はきちんとするが私生活の乱れに叔父さんも等々見かねて「仕事をきちんとしてれば良いってもんじゃない!」「家庭を持って落ち着け!」「家族を持つと責任感が出る」と、徐々に煩い事を言う様になりお見合い話を持ち出してきた。 何度もしつこく「1度、会って見ろ」「肩苦しく考えなくても良いから、会うだけ会って見ろ」と言われ、その度に適当に話し断ってたが、余りにもしつこく2回程叔父さんの顔を立て会ってみた。 叔父さんが話すように肩苦しい見合いじゃなく、ホテルのラウンジで待ち合わせし、レストランで食事して話すだけだ。 ラウンジで声を掛けると、俺を見て大体が頬を染め照れるのは皆同じだった。 俺は鼻っから断るつもりだった。 叔父さんの手前、失礼の無い程度の態度は心がけた。 レストランで食事をし「趣味は?」「どんな音楽聞くの?」「学生時代は何かスポーツしてました?」とか大体お決まりの質問に答えた。 俺は相手に興味が無いから質問はする事は無いし、それで何となく解って貰うつもりだった。 そんな雰囲気が伝わったのか?見合い相手は「もしかして、余り乗り気じゃないのかしら?」と聞いてきた 「悪いが、そちらから断ってくれ! 俺は心に決めた相手が居る! 俺は結婚には向かない」 「……でも付き合っていくうちに」 「どうしてもって言うなら付き合っても良いが、好きになる事はないし浮気もする。俺のような相手は止めた方が良い。俺は幸せにできるような人間ではない」 「だったら、最初から会わなければ良かったじゃない! こっちからお断りよ!」 大体、食事の途中で席を立ち去って行く。 そんな相手には目もくれずに、美味しそうな食事が勿体無いと黙々と食事を再開した。 2回程そんな事があり、叔父さんも呆れて激怒した。 これで見合い話は無くなると考えてた。

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