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第299話 番外編~拓真(7)~

スピード結婚した俺達を周囲は驚き祝福してくれた。 叔父さんもやっと肩の荷が下りたとホッとした顔を見せ「これで落ち着くな。家庭を持つと男は変わるもんだ」と、本当に嬉しそうだ。 叔父さん夫婦には子供が居ない為に、昔から俺を自分達の子供のように可愛がってくれてただけに、ちょっとだけ心苦しいが……俺も尊敬する叔父さんを安心させる事ができたと、その笑顔を見て思った。 自暴自棄になってた俺を本当に心配してたんだ。 それなのに俺は……学生の時と全然変わってないじゃないか。  和樹が武史に言った ‘人間の本質は変わらない’って言った言葉を思い出し、その通りだなと自嘲した。 聡美からは禁酒・禁欲を言い渡されてた。 「子供作りたいから、お酒とセックスは暫く止めてね。子供が出来たら解禁するわ。そしたら、どうぞご自由に」 やる事が早いなぁ~とある意味感心し、新婚早々遊び歩くのも変か?と、周囲の事もあり聡美の言う通りにした。 丁度良いと結婚を機に、今までのセフレとは縁を切り仕事に集中し、聡美の居る部屋に帰る日々を送った。 結婚生活はと言うと、仕事が早く終わった時は2人で夕飯を食べリビングで話をする事もあるしそれぞれの部屋で過ごしたり、遅くなるとテーブルには食事が用意され電子レンジで温めて1人で食べるが、俺が帰って来た気配や物音がしても別段自室にしてる聡美の部屋から顔を出す事はない。 本当にお互いが気を使うわけでもなく、自由気ままに兄妹みたいな同居人として生活してた。 不妊治療として必要ならば2人で産婦人科に行ったりし、聡美も子作りには積極的に取り組んで居た。 その甲斐があってか?運良く2回めの体外受精で聡美の腹に子を宿した。 「子供、出来たわ」 結婚して2カ月程で子供が出来たと言われたが、セックスもしてない俺にはまだピンッ!と、こなかった。 「そうか。体には気を付けろ」 それだけ言う事しか出来なかった。 子供が出来た事を叔父さんと親に報告すると手放しで大喜びしてくれた。 それは聡美の方も同じだったらしく 「良かったわ。これで親も安心したと思うわ」 契約結婚して、少しは心苦しく感じてたのかも知れない。 聡美は子供が出来た事で会社を辞め専業主婦となり、時間があるからと言い披露宴の準備は全て聡美がホテル側と決め、俺は何もする事が無く楽で仕方なかった 結婚届けを先に出し、周囲から披露宴はするように強く言われ、特に聡美の親の希望が強く「これも親孝行の1つよ。親の顔も立てないとね。3カ月後に披露宴しましょう」と、聡美の意見に俺も同意した。 披露宴の招待客は成るべく抑え、派手な披露宴は避けた。 「お腹が目立たないうちに、披露宴できて良かったわ」 聡美のウエディングドレス姿は綺麗だった。 披露宴は滞りなく終わり、妊婦と言う事もあり2次会や新婚旅行は取りやめにした。 それも聡美の計画のうちに入っていたのかも知れない 頭の良い聡美だ、たぶん子供も披露宴も新婚旅行も全て計画したんだろう。 ある意味怖いと思う反面、その位の女の方が俺には合ってるのかも知れない。 聡美に任せておけば安心だと、俺の中で聡美への信頼ができ上がった。 「子供も出来たし、禁酒も禁欲も解禁するわ。でも、面倒事は御免だから女性は選んでね」 安定期に入り、にっこり笑いそう言い放った聡美はそう言う面でも俺と似てると思った。 本当の兄妹みたいだ。 結婚をした事によって先輩からの誘いもなくなり、表だっての遊びは止めたように見えるが、俺は聡美からの解禁を機に周囲には内緒で、毎日ではないが頻繁に1人で夜の街に出歩いてた。 ただ、自暴自棄になってた時と違い深酒は止め、終電で家に帰るようにしてた。 聡美も今までは昼に会ってたり週末に会ってた彼氏と夜にも会うようになったのか?早く帰っても留守にする事もあるがLINEで連絡は必ずしてくる。 食事は用意され家事は疎かにはしてない所が聡美らしかった。 そんな日々が続くと、新しいセフレが3~4人できた。 セフレは商売女に限定した。 仕事終わりにセフレの部屋に行きセックスして、そのまま同伴出勤し売り上げに貢献するのも、お互いが割り切る関係で居られる、ギブ&テイクの関係だった。 聡美のお腹が目立つようになると、聡美は夜の外出は避け以前のように彼氏とは昼間や週末に会うようになった。 偶に早く帰るとリビングに居る聡美が「だいぶ、お腹大きくなったでしょ?」と、お腹を愛おしそうに触る姿に、お腹の大きさと共に母性本能も芽生えてきてるように感じたが、俺の方は何だか実感が無く不思議なままだった。 臨月近くになり、聡美から言われた言葉で俺はお腹の子に対して気持ちが変わり始めた。 「今日、病院に行って来たの。子供は順調ですって。それで今まで性別は聞かなかったんだけど、子供の名前とある程度用意して置かなきゃと思って、性別聞いたのよ」 「で?」 その時は何とも思わずに居た。 ふふふ… 「男の子だって~~」 聡美は嬉しそうに話し、そして俺に思わぬ事を提案してきた。 「それでね、あなたに子供の名前をつけて欲しいの。あなたの子供なんだもん。良い名前考えてね」 「えっ!……俺が?……解った。考えておく」 聡美に言われた事に戸惑う。 子供の名前……か。 何だか子供の将来が掛かってるようで責任重大だな。 それから数日は仕事以外は子供の名前を考える事で頭がいっぱいになった。 自分ではこれといった名前が浮かばず、スマホで男の子の名前検索した。 スクロールして、どんな名前が良いか検索してると『和樹』と名前があった。 和樹……か。 そのままはどうかと思い、一文字だけ貰い俺の和樹への永遠の気持ちを込め取り入れようか……と思ったが止めた。 子供に俺の気持ちを込めた名前までつける事は、念が入り過ぎ子供を通して和樹を見てる気がして、子供に失礼なんじゃないかと思い直した。 そうだよな、子供だって1人の人間なんだ。 俺とも聡美とも和樹とも関係無い、全く別の名前にしようと決めた。 色々な名前を検索し、悩んだ末に『煌(こう)』と決めた。 名前が決まり、聡美に『煌』にしたと話すと「良い名前だわ。どうして、その名前にしたの?」と微笑んで聞かれた。 「『煌』と言う字の読み方は他にきらめくとか.かがやくとも読む。そして、光が四方に広がるとか.明るいと言う意味合いだ。光り輝き周りの人に明るさと癒しを齎せる人間になって欲しいと思って、この名前にした」 俺の気持ちを聡美に言う事が何だか気恥ずかしかったが、聡美は嬉しそうに微笑んだ。 「凄く、良い名前だわ。煌、無事に生まれてね」 そう言って大きなお腹を摩った。 煌と言う名前を見つけて意味が載ってた時に、俺のイメージが和樹を思い出した。 和樹の名前はつけなかったが、俺の中ではそんな別の意味合いもあった。 名前を俺自身がつけた事によって、俺は少しだけお腹の子が愛しく思い始めた。 それから出産までの数週間は飲み歩くのも減らし、セフレとは週1の水曜日に会い性欲処理し、そのまま同伴出勤するパターンにした。 その日だけは遅くなるが、後は仕事終わると真っ直ぐにマンションに帰り聡美と食事し、リビングでお腹の子に話し掛けたり今まで触った事がない大きなお腹を摩ってみたりし、腹に俺の子が居るのを実感し楽しみになってきて居た。 聡美が「今、お腹を蹴った」「パパは、今日は早く帰って来ましたよ~」「煌、早く会いたいわ」と、お腹の子に話す聡美の側で聞いて自然と笑みが漏れ父親としての自覚も芽生え始め、今まで感じた事がない家庭と言うのを感じた。 この時が結婚生活の中で1番幸せだったかも知れない。

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