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第301話 番外編~拓真(9)~
「そうか。聡美の事を頼むな。俺と聡美はどことなく似てるんだ。兄妹みたいな、そんな同居人だ」
聡美はどことなく従姉妹の由香に近い感覚だ。
「解りました。僕も来年には就職して社会人になります。早く聡美さんと一緒になれるよう頑張ります。今日、思い切って来て良かった……本郷さんと話ができて……安心しました。聡美さんの事、宜しくお願いします」
「解った。本当に、聡美には会わなくて良いのか?」
「はい。聡美さんには今日来た事は内緒にして下さい本当は、聡美さんと本郷さんの生活には立ち入らないと決めてたんですが……すみません。じゃあ、僕はこれで失礼します」
お辞儀をして去って行く後ろ姿を黙って見送った。
誠実で正直な青年だった。
聡美も良い相手を見つけたな。
‘男を見る目はある'って、豪語してただけはあるな。
植田を見送り、俺は聡美の病室に戻る事にした。
限定付きの契約結婚だって何だって良い。
煌の為に家族になろう! と心に決めた。
それからは俺は仕事帰りに聡美と煌に会いに病院に行く日々だった。
1週間程で退院すると、聡美は煌を連れ実家に暫く里帰りした。
「これも親孝行の1つよ。1ヵ月位自由に生活して。その後は煌のお世話お願いするからね」
送って行く車の中で煌を胸に抱き、にっこり話す。
「解った。煌の為にできる事はする」
「お願いね。パパ」
パパ……か。
そう呼ばれると父親としての実感が湧く気がする。
そして聡美の実家でも大喜びで大歓迎で迎えられ、俺達は仲の良い夫婦の役に徹してた。
聡美と煌が居ない部屋はやはり寂しく感じた。
そんな部屋に帰るのが嫌でセフレ達と過ごす。
週末には聡美の実家に行き煌と会い、聡美と煌を連れ出し俺の実家や叔父さん夫婦の所に煌を見せに行ったりもした。
俺の親も叔父さん夫婦も大喜びだった。
聡美と契約結婚して無かったらこんな喜ぶ顔を見る事もなかった、聡美にそう言う点でも感謝した。
聡美じゃないが、これで俺も親孝行を1つする事ができたと肩の荷が下りた。
聡美と煌が実家から戻り3人での生活が始まった。
昼間は聡美が1人で煌を見て、そして家事も熟すから大変だったと思う。
昼に会えない分、偶に夜に会いに行き週末も彼の所で過ごして居た。
夜と週末は俺と煌の2人の時間となり、俺は聡美にお風呂の入れ方.おむつの替え方.ミルクの作り方や与え方を教えて貰い、煌の面倒を見る。
聡美の大変さが解り、彼の所で息抜きするのも必要だと思った。
俺も煌との2人の時間が大変ではあるが、スヤスヤ…眠る顔を見るのが至極の幸せだった。
ある日聡美が乳房から乳を飲ませずに、わざわざ搾乳し哺乳瓶で与えてるのを見て「なぜ、乳房から直接与えないんだ?」と聞くと「だって、直接与えたら愛しくなるでしょ?離れられなくなるわ」と聡美の母性としての苦悩と葛藤が解ると同時に、徹底してる聡美がやはり聡美らしかった。
聡美は育児も家事もきちんとするが、煌にはどこかわざと一線引いてる気がしてた、それでも聡美なりに可愛がっては居るが、離れる事が前提の母子と解ってるからこそ深い愛情にならないように防衛してるようだった。
俺は煌をきちんと育児してくれるなら聡美の自由にしてたし、毎週水曜日に週一回はセフレと会い性欲処理し他の日は煌の育児を積極的にしてた。
母親はお腹の中で子を宿すと母性が生まれると言うが父親は生まれて育児するようになると父性が育っていくと思った。
煌が成長し、寝返りや動き出したり.歩き出したり.言葉を発したりとその度に喜び感激し、俺も父親として一緒に自覚と責任が育っていった。
初めて立った時と「パ…パ」と言われた時は、涙が出そうな程感激した。
俺は煌に夢中になり愛情を注ぐと、聡美も安心して彼の元に行くようになる。
それはそれで構わなかった。
煌の記憶に残るかもと思い2歳の頃には少し家族らしい事をしようと聡美に提案し、月に2回程聡美と煌と3人で動物園や水族館.公園にも行き、たくさんの写真を撮り家族らしい事もした。
この時には俺は契約結婚とかどうでも良くなって居た
聡美が誰を愛して居ても構わない、煌の為に、このままの生活でも良いんじゃないか?と思い始めて居た。
そんな生活が3年過ぎても聡美から何も言われずに半年が過ぎた。
彼氏とは上手くいってるようだが、聡美もこのままの生活でも良いと思ってるんじゃないか?と俺は思ってた、だから俺からも敢えて何も言わずに居た。
それが一週間前に突然聡美から言われた。
「1週間後には出て行くわ。煌が3歳の誕生日でしょ?最後に3人で誕生日祝いして…出て行くわ。3歳になれば幼稚園にも入れるから入園の手続きしてあるわ。夕方からあなたが帰って来るまでの間はベビーシッターも手配したわ」
聡美は自分が出て行っても、俺と煌が困らないように全ての準備はしてた。
それはここを出て行くと言う固い決意の表れだ。
「気持ちは変わらないのか?俺はこのままでも充分幸せだ」
「確かにね。私も自由にさせて貰ってるし…でも、彼の側に居たいの。彼に全ての愛情を注ぎたいの」
「……そうか。解った」
「最後の煌の誕生日祝いは、楽しく過ごしましょう」
「そうだな。聡美には感謝してる。煌を産んでくれ俺に残してくれた事に。ありがと」
ふふふ…
「あなた、予想以上に良い父親だったわ。これからも煌をお願いね」
それが1週間前の出来事で、今日まで聡美の気持ちが変わる事を密かに願ってたが……出て行った。
スヤスヤ…俺の傍らで眠る煌。
俺には煌が居る‼︎
これからの俺の人生は煌の為に生きよう‼︎
思えば、俺はずっと聡美の手の平で転がされ聡美の策略の上で踊らされてたのかもな。
それでも俺には充分幸せな日々だった。
ありがと、聡美。
幸せになれよ‼︎
数年間の同志に応援と感謝を込め、子供特有の高い温もりに安心し煌の隣で眠りに就いた。
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