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第302話 番外編~拓真(10)~
俺達の離婚を知り、俺の実家も叔父さん夫婦も「上手くいってると思ってた」と落胆し、そしてこれからの俺と煌の事を心配してた。
離婚の原因を聞かれ、前もって聡美と打ち合わしてた通りに「生活していくうちに、価値観の違いで」と、ありふれた話しで誤魔化した。
一応、落ち込む風を装うと、誰もそれ以上は追求してこなかった。
聡美が出て行った3日後には、ベビーシッターが俺との顔見せにと打ち合わせに来た。
これも聡美の計らいだった。
「初めてまして。これからお世話になります、森本陽向汰(もりもとひなた)です。保育専門学校で幼稚園教諭と保育を勉強してます。まだ1年生ですが、将来は幼稚園の先生を目指してます。宜しくお願いします」
初めて会った印象は名前の通りだと思った。
童顔でにこにこし明るく優しそうな青年と言うか、少年みたいだった。
子供達に好かれそうだな。
笑顔が印象的で見過ごされそうだが、良く見るとなかなかの美形だった。
目は大きくまつ毛も長い.鼻筋も通り.唇は薄く、体も小柄だが顔も小さく全体的にこじんまりしてる為に解り難いが、可愛い系の美形だと内心思ってた。
「どういった経緯でベビーシッターに?」
「あれ?奥様から聞いてませんか?」
離婚した事は知らないのか?
「いや、聞いてない。ただベビーシッターと幼稚園の手配はしたとだけ聞いてる。それに…言っておくが元奥さんだ。既に、離婚してる」
にこにこ顔からマズいって顔をした。
「……すみません、そこは聞いて無かったです。僕の専門学校が割と近場なんです。その専門学校の掲示板に、たまにベビーシッターとかのバイト募集が出ててそれで応募したという経緯です。派遣会社よりお金の面で安く済むので専門学生の方が良いって方もいらっしゃるし、僕達の方も勉強になりますから」
成る程な、聡美も考えたな。
聡美の頭の良さをまた痛感した。
「元奥さんには会ったのか?」
「はい。面談して、ある程度の打ち合わせはしましたけど…、最終決定はご主人にあるとかで、それで今日来たんですけど……」
今度は不安そうな顔で話す。
にこにこしてたかと思えば…コロコロと表情が変わる
思ってる事が顔に出るタイプだな。
素直なんだろうな。
「そうか。ある程度話しはついてるだろうから、俺には異存が無い。幼稚園の方は延長保育もあるらしいが17時までにはお迎えに行かないとならないが、学校の方は大丈夫か?」
「はい。基本的には月曜日~金曜日の9時~15時には授業は終わりますので、遅くなっても16時までにはお迎えに行けます」
「俺の方は早くても19時頃になる。水曜日だけは悪いが11時頃になると思う。それと多少の残業で遅くなる時もあるし土曜日や日曜日も相手方の都合で打ち合せがあったりもするが、その時にもお願いできるだろうか?暫くは煌が幼稚園の環境に慣れるまでは極力早く帰るようにするが」
「はい。ずっとベビーシッターのバイト探してたので平日は大丈夫です。土.日は17時か18時頃から近くの焼鳥屋さんでバイトしてますけど日中は大丈夫ですよ。」
「平日はベビーシッターで週末もバイト?体は持つのか?」
小さな体で大丈夫だろうか?と、高校生と言っても良さそうな幼さが残る少年に何だか庇護欲を掻き立てられる。
実際、この間までは高校生だったから、あまり変わらない…か。
煌ができた事で、俺にも父性愛が生まれたのかもな。
何だか、俺も年を取ったな。
「はい、大丈夫です。これでも体力には自信がありますから。ずっとベビーシッターや学童保育のバイト探してたので、見つかるまでは派遣で平日は倉庫のバイトをしてました。兄弟が多いのでいつも弟や妹の面倒を見て居たので子供の扱いには慣れてますし小さい子が好きなんです。親が学費を出してくれてるので生活費はなるべく自分でも賄いたいと思って飲食店にバイトしました。安く賄いも食べさせて貰えるし、運が良ければ廃棄物を頂けるので助かりますから」
笑顔を絶やさないは森本はバイト先でも可愛いがられてるだろうと予想がつく。
この子なら大丈夫そうだな。
「じゃあ、来週の月曜日から頼む!」
「はい! ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします」
これから必要になると思い連絡先の交換し、合鍵を渡した。
「あのぉ~、煌君と会いたいんですけど。月曜日にいきなり幼稚園のお迎えに行っても煌君も戸惑うと思うので、少しお話させて下さい」
それもそうだな。
煌にも森本の事を覚えて貰わないとな。
「そうだな。今、煌を呼ぶ。待っててくれ」
隣の部屋で遊んでるだろう煌を連れて来ると、煌は知らない人を前に少しモジモジはにかみ、俺の足から離れずに居た。
そんな煌を見て、森本はにこにこ笑顔で近付き煌の目線までしゃがんで話す。
「煌君?月曜日から幼稚園のお迎えに行くから、パパがお家に帰るまで僕と一緒に遊んでくれるかな?僕の名前は森本陽向汰です。これから宜しくね」
煌の小さな手を取り握手した。
煌も森本の優しそうな笑顔に安心し遊んでくれる人と思ったんだろう笑顔を見せた。
「もりもと…ひな…た?」
「煌君とはお友達になりたいから……そうだな…ひなたでも良いし…僕の兄弟はひなって呼ぶよ。どっちでも煌君が呼び易い方で呼んで」
「……ひな」
「はい。煌君は月曜日から幼稚園に初めて行くんだよね?お友達たくさん居るよ~。お友達と遊んだりお歌歌ったりと楽しいよ~」
「……でも……友達できるかな?」
子供心に不安なんだろう。
森本は煌の頭を撫で、にこにこ笑顔で話す。
「大丈夫だよ。煌君から‘遊ぼ’って友達に声を掛けると直ぐにお友達になれるからね。喧嘩しても ‘ごめんね’ って魔法の言葉を使うと直ぐに仲直りするよ~。そうだ、もう1つ魔法の言葉で嬉しい事をしてくれたら ‘ありがと’ って言うんだよ。この2つの魔法の言葉で、たくさんのお友達できるからね~。僕もまだ学校行ってるけど友達少ないんだ。だから、どっちがたくさんお友達できるか?競走しようか」
「うん! ……ひな…遊ぼ」
森本が俺の顔をチラッと ‘遊んで良いか?’ 確認するように見た。
俺は黙って頭を縦に振って意思表示した。
そして俺に ‘ありがと’ と言う風に微笑み、煌に「良いよ。何して遊ぶ?さっきまで何してたの?」
「あのね~、お絵かきしてた~」
森本の手を取り、さっきまで遊んでた部屋へ連れて行く煌は嬉しそうだった。
2人はドアを開けっ放しでお絵かきを始めたり、ブロックで遊んだり1時間程過ごした。
その光景を俺はリビングから眺めて一安心した。
聡美の奴、良い子を見つけてくれた。
男を見る目はあるって言ってただけあるな。
ベビーシッターを女にしなかったのも聡美の策略なんだろう。
女が俺に惚れる事や俺の女にだらし無い事で手を出す事も避けて男のベビーシッターを雇ったのだろう。
聡美と別れてもまだ聡美の手の平で転がされてる気がしたが、聡美なりに煌の事を考えての仕業だろう。
俺も煌の為に、そろそろ今のセフレとも別れて、暫くは早めに帰宅するか。
頃合いも丁度良いかも知れない。
また暫くして煌が環境に慣れた頃に、新しいセフレを作れば良いだけの話しだ。
俺は厄介事を回避する為に、定期的にセフレは入れ替えてた。
笑顔で仲良く遊ぶ2人が居る部屋には笑い声が響き、久し振りに明るい家庭の雰囲気だった。
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