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第306話 番外編~拓真(14)~
新規の仕事で帰りが以前より遅くなる日々を送り、それでも早い時には20時に帰宅してた。
これまで煌が森本や幼稚園の環境に慣れるまでと封印してたキャバクラやクラブに週1で行くようにもなり、1ヵ月もしない内にセフレも何人か出来た。
店に数回通い大体そこの店のNO2か3を指名し、俺がその気のある素振りをすれば、直ぐにそう言う関係になるのに時間は掛からない。
男を手玉にとって商売してるキャバ嬢やホステスでもやはりそこは女なのか?俺の外見の良さだけで割と簡単に落ちた。
駆引きを楽しむ時間も無い。
ま、俺はセフレを作るのが目的で、煩い相手で無く割り切れる性欲処理の相手が出来ればそれで良かった。
一応、「嫁と子供は居る。家庭を壊すつもりは最初から無い」と、予防線を張る事も忘れ無い。
仕事終わりに、週に1度の週替わりで女の部屋に行きセックスし外食し、そのまま同伴で店に行き1時間程飲んで帰るのが毎週水曜日だ。
「奥さんは、大丈夫なの?」
セフレの女達は聞いてくるが、余計なお世話だと内心思いながら「接待だと言ってある」と嘘を話すと、それで一応納得するらしい。
簡単な女達だ。
「23時か。少し飲み過ぎたな」
遅くとも11時前までには家に着くように心掛けてたが若干時間を過ぎてしまった。
駅から急いぎ足で歩いてきたが間に合わなかった。
もう寝てるだろう煌を思い、玄関ドアを静かに開け部屋に入る。
遅くなる水曜日には煌を寝かしつけて、大概リビングテーブルで教科書を開き課題や勉強してる森本が居て「お帰りなさい」と、いつものにこにことした笑顔で出迎えるが……今日はリビングに姿が見当たらない。
えっ‼︎
何かあって……もしかして…煌1人で居るのか?
寝かしつけて帰って行ったのか?
朝までぐっすり眠る煌だが……それでも一抹の不安が過り寝室に向かう。
静かにドアノブを回し、ベットヘットの照明の明かりだけがあり2人はベットで眠って居た。
ベットの側に行くと煌はスヤスヤ…と寝顔を見せ、森本は隣で本を読み聞かせして、そのまま寝落ちしたらしく枕の上に無造作に本が置かれ、片手で煌を包むかのように横になった体勢で眠ってる。
「寝落ちしたのか?」
取り敢えず、煌が無事で居た事に安心した。
学校とバイトと両立し、寝落ちする程疲れてる森本を起こすのが忍びない気がし、起こすのを躊躇い少しの間2人の寝顔を見つめてた。
半開きの口でスヤスヤ…眠る煌と同じように半開きの口でスースー寝息を立て寝てる森本。
2人共……子供だな。
あどけない顔で寝てる2人の微笑ましい光景に思わず頬が緩む。
このまま寝かせてやりたいのは山々だが……森本は明日学校が……。
可哀想だが起こす事にした。
煌が起きないように、森本の肩を揺すり小さく声を掛けた。
「森本君、森本君」
数回揺すり声を掛けると、目を擦り眠そうな顔で俺を見た。
子供みたいな仕草が可愛いらしい。
「ん?えっ、あれ?僕……寝ちゃったんだ」
「どうもそうらしいな。煌に本を読み聞かせて、そのまま寝たようだな」
枕の上に無造作に置かれた本を見て思い出し、慌ててベットから抜け出た。
「す、すみません」
「いや、構わない。森本君が良ければ、このまま泊まっても良いが?」
「いいえ、帰ります」
「そうか。気を付けて帰れよ」
なぜか、残念に思った。
「ありがとうございます。あのぉ~……早くお風呂入った方が良いですよ……余計なお世話だと思いますけど……お酒と香水の匂いが…接待だと解りますけど…体を大切にして下さい。煌君の為にも……余計な事でした……すみません。じゃあ、おやすみなさい」
「……おやすみ」
そう言って俺の横を通り過ぎて部屋を出て行った。
クンクン…スーツの匂いを嗅ぐ。
「くせぇ~…か?」
自分では解らないが、キャバ嬢と腕を組み歩き同伴したし店でも結構密着してたしな。
‘接待' と、森本にも話してるが…薄々何かを感じてるのか?
いや、あの素直な森本なら言葉通りに受け取ってると思うが……。
マズい…か⁉︎
特定の相手が居るように思われ誤解されては……。
森本に誤解されては困ると思った自分にハッとした。
なぜ⁉︎ 森本に誤解されたくない?
俺が誰とどう付き合おうが森本には関係ない⁉︎
そうだ! 別に、森本の目を気にする必要はないんだ!
そう思うが、心の中でチクッと針を刺すような痛みを感じた。
何だか悪い事をしてるような……気のせいだ‼︎
だが……言い難そうな顔で話してたな。
たまには羽目を外すのも仕方ないと思ってたのかも知れないが、煌と俺の体を考え話すべきか悩んでたのかもな。
そう思うと申し訳ないような気もするが……その一方で森本には関係ない事だとも思って居た。
‘俺には煌が居る。それだけで充分だ‘
寝返りを打つ煌を眺め、そう思った。
そして寝てる煌を起こさないように着替え、寝室を出て浴室に向かった。
森本へのモヤモヤ…とした気持ちとよく解らないジレンマとで、穏やかではない心に目を背けて居た。
今日の森本の言い難そうな暗い顔より、いつも笑ってる顔の方が良いと思った。
「お帰りなさ~い」
笑顔で出迎える顔が浮かんだ。
それでも森本に忠告されてからも俺の日常は変わらなかった、いや、変えようとしなかった。
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