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第307話 番外編~拓真(15)~

新規の仕事だった店舗のリニューアルも何度も打合せを重ね構図や配置などが決まり工事に入ると、俺の仕事は時々工事の推進状況と不測の事態が無いか確認しに現場に行くだけで済む。  1つの仕事が終われば、また新たな仕事が舞い込んで打合せの日々が続く。  その繰り返しだが、仕事は充実していた。 水曜日以外にも仕事の都合で遅くなる日はあるが、俺は出来るだけ早く帰宅するように心掛けて居た。 別に、森本に言われたからでは無いが……その証拠に相変わらずセフレ達と週替わりの水曜日に会ってる。 俺が19時頃に帰宅できる時には3人で森本が作った夕飯を話しをしながら食べ森本は片付けを済ますと帰宅し、俺は煌と風呂に入り幼稚園での出来事や森本と遊んだ事などを楽しそうに話す煌の話を聞くのも楽しみであった。 遅くなる日は必ず森本にLineし夕飯と風呂は済ませるように頼み、水曜日以外は俺の夕飯をラップし用意してくれてた。 森本がベビーシッターのバイトで来るようになり、数ヶ月もすると生活リズムもでき煌の事も安心して任せられる程信頼して居た。 その日は前以て、叔父さんから社内会議があると言われ19時から皆んな揃った時点で会議をする事になってた。 「社内会議があり遅くなると思う。悪いが夕飯と風呂は済ませておいてくれ」 叔父さんから言われた時点で帰宅後に口頭で森本にも話し、心良くいつものにこにこ笑顔で引き受けてくれた。 そして、その日の社内会議は19時の予定が皆んな早く帰社でき18時から始まった。 叔父さんが営業し決まった仕事は住宅展示場の仕事だった。 モデルハウスとして10棟の内の3棟を俺達の会社でキッチンから家具に至るまで全てコーディネートできると言う仕事だった。 「1棟は和風テイスト.2棟は洋風テイストな建物だ。もう、建物の外観と間取り.壁紙は白と言う事は決まってる。うちの社内で構図と配置そしてインテリアなど諸々決め、住宅メーカーに持って行き最終判断を仰ぐ」 「今後に繋がる仕事ですね」 「上手くすれば個人で購入も有り得ますからね」 「もちろんインテリアカタログは置いて貰えるんですよね」 個々の仕事では無く、社内上げてする仕事と言う事で社員のやる気と興奮度が解る。 「もちろんカタログは来場者に配って貰う。直接は無理だろうから、住宅メーカーを通してだが購買には繋がる。住宅メーカーの家のイメージコンセプトは『明るく癒しのある家』だ。それに見合うコーディネートを考える」 叔父さんが言った『明るく癒しのある家』のイメージを思い浮かべると直ぐに「パパ、お帰り~」「お帰りなさい」と言う煌と森本の笑顔で迎えられる光景が頭に浮かんだ。 笑顔と温かみのある柔らかい雰囲気の空間‼︎ そうだなぁ~、北欧テイストでオフホワイトやキナリ.薄茶がベースの木の温もりのシンプルでお洒落で暖かい色合いの模様がある……クッションは逆に赤とか青とか置くのもアクセントになって良いかも……。 俺の頭の中で住宅展示場の家のイメージが広がった。 他の皆んなもそれぞれイメージができたようで、ディスカッションが始まった。 カタログを引っ張り出して、あ~でもないこ~でもないと意見が飛び交う。 「良し! 色々な意見が出たが何となく皆んな同じイメージを持ってる事が解った。似た感じになるかも知れないが、それぞれのイメージの図案を出して、良い所を抜粋し最終図案にしよう。期限は今日から1週間だまた来週、打合せしよう。今日は思ったより進行したからな。これで終わりにしよう」 社長である叔父さんの会議終了と言い渡され、事務所内の掛時計を見ると思ったより早く終わった。 「思ったより早く終わったな。どうだ、皆んなで飲みに行くか?」 叔父さんが誘うと「良いね~」「行こう」と何人かは声を上げる中で「すみません。都合が悪いので」と、断る人も居たから俺も便乗し 「すみません。俺も今日は帰ります」 社長である叔父さんに断りを入れると、叔父さんは煌が待ってると解ってるから無理強いはする事はなかった。 「じゃあ、行ける者だけで行くか?」 それぞれデスクの上を片付け、事務所を出る時は皆んな一緒に出てそれぞれ分かれた。 叔父さんの飲みの誘いも断り早く家路に着いた。 遅くなる時には森本にLineを入れてたが、早く帰る分には構わないだろうとLineは特に入れなかった。 「ただいま~」 玄関ドアを開け声を掛けたが、いつもなら走って飛びつく煌やにこにこ笑顔の森本の姿は無かった。 「?……風呂か」 リビングに入ると浴室の方からドライヤーの音と話し声が微かに聞こえた。 「やはり風呂か」 2人が居た事に胸を撫で下ろし、着替える為に寝室に向かった。 時間的にも21時前だ、今日遅くなると話してたからな。 着替え終わり、ビジネスバックからインテリアカタログを数冊持ち出し、リビングに向かいソファで眺めて居た所に浴室から声が聞こえた。 「煌君、先にテレビでも見て待ってて~。直ぐに行くからね~」 「うん!」 浴室からリビングに走って来た煌は俺が居た事にびっくりし大喜びで抱き着く。 「パパ~! お帰り~」 「ただいま。風呂だったのか?良い匂いだ」 「うん! ひなとお風呂入ってた~。アンパンマンのおもちゃを浮かべて遊んだんだ~」 「良かったな」 俺の膝の上で楽しそうに話す煌は可愛い~。 俺と煌の話し声が聞こえたんだろう。 森本がドライヤーもそこそこにし、半乾きのまま慌ててリビングに顔を出した。 「お帰りなさい。早かったんですね?すみません、煌君とお風呂入ってたから気が付きませんでした」 「社内会議が思ったより早く終わったからな」 煌の頭を撫で話す。 「今日の夕飯はうどんとお握りにしたんです。お握りは煌君が握ったんですよ。直ぐに用意しますね」 「悪いな。そうか、煌が握ってくれたのか?楽しみだ~」 「うん! ひなに教えて貰ったんだ~」 森本はキッチンに行き用意してくれた。 5分程で呼ばれ煌と一緒にダイニングに行くと、湯気の立つうどんと不格好で小さなお握りが2つ皿に盛られてた。 「煌が握ったお握りか~、どれどれ」 3口程で食べらる中身は昆布の入った小さなお握りは本当に美味しかった。 何て言われるかドキドキ…した様子で見てる煌に笑い掛けた。 「煌、凄~く美味い! 上手にできてるぞ」 「わぁ~い! ひな~やったよ~」 「良かったね。頑張ってたもんね」 にこにこ笑顔で話す森本にすっかり懐いてる煌。 俺は煌を膝の上におきながらうどんを食べてると 「あのね~パパ~……今度…ひなとお出掛けして良い?」 「どう言う事だ?」 煌の話しでは埒が明かないと森本に聞いた。 「煌君が映画観たいって言うので、今週の土曜日にパパが良いよって言ったら観に行こうかって話してたんです。だめですか?」 俺の方は助かるが……煌が居ない時間に、今日のプロジェクトを進められるし。 「構わないが……折角の休みに森本君に申し訳ないと思って。その分バイト代払うよ」 「煌君とのお出掛けはバイト代は入りません。そう言うつもりでお話してるわけじゃないので。これはあくまで僕と煌君の友達としての約束ですから」 いつもの笑顔だが、言う事ははっきり物申す森本だ。 いつもにこにこ笑顔で癒し系の雰囲気だが、ここ数ヶ月でしっかりと物の良し悪しははっきり話す事も解った。 見かけによらないが、幼稚園の先生になろうと思ってるくらいだ、きちんとしてる。 「そうか、煌の友達としてか。ありがと、じゃあ頼む俺は一緒に行かなくて良いのか?」 森本だけに任せるのは悪いと、一応話す。 クスクスクス……クスクス 何がおかしいんだ? 「別に一緒に行っても構いませんけど……映画って…アンパンマンですよ?大丈夫ですか?」 そうか、煌も俺を誘わないわけだ! 「森本君に頼む‼︎ 絶対に、寝る自信がある!」 「ですよね。じゃあ、今週の土曜日に昼前に迎えに来ますね。あれ⁉︎ 煌君、寝ちゃってる」 俺と森本が話し込んでしまい、煌は俺の膝の上で俺に寄り掛かり寝ていた。 「通りで静かだと思った」 「僕がベットに寝かせて来ます。その間に食べてて下さい」 俺から煌を引き取る時に、ふわぁっと良い匂いが森本からした。 風呂上りの森本は近くで見るとさっぱりとし、そこはかとなく色香が漂う。 至近距離の森本にドキッとした。 なぜ、そう思ったか?は、自分でも解らない。

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