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第309話 番外編~拓真(17)~

後日の社内会議で、住宅展示場の仕事での3棟の内1棟は俺がプレゼンした北欧テイストに決まり、俺が責任者となり俄然忙しくなった。 他の2棟は和モダンとアメリカカントリーテイスト(西海岸風)に決まり、5歳上の先輩と2つ上の先輩がそれぞれ責任者になった。 総括責任者は社長でもある叔父さんで、一応の責任者は決めたが、社員一丸となってプロジェクトを成功させようと言う事だ。 他の仕事と並行してやらなければならず、毎週水曜日にセフレと会う時間も惜しんで、仕事に没頭する日々だった。 相手先の都合で遅くなる時もあったが、19時か20時には家に帰るようにしてた。 玄関を開けると煌が走ってきて「パパ~お帰り~」抱き着く体を受け止めるのもいつもの事で、にこにこ笑顔で「お帰りなさい」と迎える森本もいつもの事だ。 この2人の顔を見たさに、最近はなるべく早く帰宅するように心掛けてた。 「ただいま」 煌を抱き抱えリビングに行くと、その後ろをビジネスバックを持ち着いてくる森本。 もう見慣れた光景だ。 「食事は?」 「すみません、先に済ませました」 「今日はね~、お肉だよ~。凄く美味しかった♪」 「そうか、楽しみだ。じゃあ、着替えてくるな」 「用意しておきますね」 寝室のクローゼットを開け、スーツから部屋着に着替えるとスマホが鳴った。 「誰だ?」 画面には『あゆみ』と表示されてたが無視した。 暫く鳴ってたが放置してると切れた。 直ぐにLineが鳴る。 迷った末にLineを既読する。 “最近ご無沙汰ですね。仕事忙しいですか?いつ会えますか?あゆは会いたいです‼︎ 近々、会えませんか?” 電話もLineも何度も入ってたが、全て無視してた。 最近は仕事の忙しさもあり、セフレと会ってヤル気分では無かった。 そろそろ、この女ともお終いだな。 しつこくなってきたな。 自分がセフレの立場だと解ってるはずだが……変な期待はさせない方がお互いの為だな。 直ぐに、俺のスマホから電話番号もLineも削除した。 これで連絡は取れない。 所詮、スマホで繋がってる関係だ。 後、2人程居るセフレもどうするか迷ったが……取り敢えず保留にした。 この女みたいに、しつこくなるようなら連絡取れないようにすれば良いだけだ。 自然消滅するようなら、その時に削除しても良い。 そして俺は何気無い顔で、煌と森本が待ってるだろうダイニングに向かった。 ダイニングテーブルには白飯.サラダ.生姜焼き.金平ごぼうが並んでた。 「美味そうだな。早速、頂きます」 「美味しいよ~」 煌が話すだけあって、生姜焼きも金平ごぼうも美味かった。 前の森本なら俺が帰ってきて食事してる時に、今日の煌の事や幼稚園の連絡事を10 分程話し帰って行ったが、最近はゆっくりと過ごして帰る事が多くなった。 それは煌が3人で話す事が嬉しいらしく、森本を離さないからだ。 大体は、煌が幼稚園での出来事を話し、森本と俺はにこにこ聞いてる事が多い。 玄関からの出迎えと3人で話す時が、一番癒される時だった。 1人で話し疲れると目を擦り始めた。 「眠いのか?風呂は入ったんだろ?寝た方が良い」 「煌君、ベットでご本読んであげるから行こうか?」 「ん~…ひな…抱っこ」 「はい.はい」 両手を上げて森本に抱っこをせがむ。 煌を抱き上げて寝室に向かう後ろ姿を眺めてた。 ひな……か。 そう呼ぶ煌が羨ましいと思った…自然に思った事にハッとした。 煌が呼びづらいならって、最初に森本が言った事だ。 どう呼ぼうが俺には関係ない……俺も『ひな』って呼びたいのか? なぜ?そう思う? …………考えても答えは出ない。 心にモヤモヤとしたものが広がるが、その正体は解らないし突き詰めてはいけない気がした。 自問自答し考えるのを止めた。 暫くすると、森本が寝室から出てきた。 「寝たか?」 「はい、直ぐに寝ました。幼稚園もすっかり慣れて楽しそうですよ。煌君は良くお話してくれるから助かります。本郷さん、お仕事忙しいですか?帰りは、それ程遅くなりませんけど、水曜日も割と早く帰って来ますよね?」 ギクッ‼︎ やはり何か感じ取ってるのか? 「仕事が忙しいからな」 「そうですか?でも、煌君が寝る前に帰宅してくれる事は良い事です。煌君も待ってますからね」 「……煌だけか?」 「何ですか?」 思わず小さく呟いたが、森本には聞こえ無かったようだ。 森本の口から ‘煌君.煌君……‘ と言われる度に、煌しか待って無いのか?森本は?と……思ってしまった。 さっきから俺は変だ、いやあの夜中に差し入れされた時から……か。 「いや、何でもない……そうだ! 来週の土曜日空いてないか?」 「バイトが18時からありますけど、日中なら空いてますよ。お仕事ですか?」 「いや……これはプライベートな事だが……もし良かったら……煌と動物園に行こうと思ってるんだが…一緒に行かないか?」 俺はやはりどうしても森本へのモヤモヤ…が気になり、1日一緒に過ごしてみようと煌を出しに動物園へ誘うと、目をまん丸くし一瞬驚いた顔した顔が可愛いかった。 森本は直ぐに破顔し話す。 「動物園ですか。良いですね。ぜひ一緒に行かせて下さい」 断られないで、良かった~~。 「じゃあ、時間やらは俺の仕事の都合も確認し、解り次第Lineか会った時にでも連絡するな」 「はい! 楽しみに待ってます。煌君も喜びます」 「……そうだな。煌と動物園とか久し振りだから喜ぶ」 「あっ、すみません。長居しちゃった。また明日来ます。それじゃあ、おやすみなさい」 「ああ、気を付けて帰れよ」 「はい」 部屋を出て玄関の扉が閉じる音が聞こえた。 俺は……森本をどうして動物園に誘った⁉︎ このモヤモヤ…した気持ちを確かめたい気持ちと確かめてはいけないような気持ちとが鬩ぎ合う。 何もしないより何らかの行動に出て…何か掴めるかも知れない……このモヤモヤの正体を心の底では知りたいのかも……だから誘ったんだ‼︎ 森本はベビーシッターとしては申し分ないほど良くやってるし良い子だ。 ……今…考えても解らない……頭を切り替えよう。 俺は食べた食器を洗い風呂に入り、寝室で煌がぐっすり寝てるのを確認して、リビングのソファで少し仕事をする事にした。 仕事で頭をいっぱいにし、森本の事は考えないようにした。

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