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第322話 番外編~拓真(30)~

「返事は……要らないんですか?」 「……森本君も困るだろ?……バイトどうするか?だけ、教えてくれれば良い」 もう本気の恋愛はしないと思ってただけに、俺は臆病になってた。 「それは…バイトでは必要って事?」 変な誤解をされたくないと慌てて口にした。 「そうじゃない‼︎ 俺の森本君への気持ちを知ったら、バイトもやり難いだろうと思ったからだ。俺は振られても、森本君さえ良ければバイトはして欲しい。これを話すと嫌悪感を抱くかも知れないが……俺はどんな形であっても一緒に居られる時間があれば…それで嬉しいんだ」 「……正直言って驚いて……戸惑ってます」 そうだろうな。 いきなりこんな事を告白され……森本の気持ちも解る……けど、俺の気持ちが止まらず溢れ自然と口にしてた、もう後戻りはできない‼︎ 「良いんだ、正直な気持ちを話してくれて、ありがとう。俺の気持ちを知った上で……バイトの事は決めて良い。無理には、引き止めないから安心してくれ‼︎」 今度は森本の方が慌てた様子で話す。 「違うんです……僕……本郷さんの事が気になってました。これが男として憧れなのか?……その……恋愛としてなのか?ずっとモヤモヤ…してた。今、本郷さんに告白されて……はっきりしました」 ゆっくり考えながら素直な気持ちを正直に話す森本の話しを聞いて微かな希望が……俺の願望かも知れないが……見えた気がした。 そして俺の目を真っ直ぐに見つめて話す。 「僕も…本郷さんの事…恋愛感情として…好きです…たぶん」 好き⁉︎ 今、俺の事……好きですと言ったよな⁉︎ 聞き間違いじゃないよな⁉︎ 思っても居なかった森本の返答に今度は俺が驚いた…そして嬉しさが込み上げてきた。 「本当か⁉︎ 男の俺でも良いのか?」 コクンと頭を縦に振り意思表示してから、ゆっくりと気持ちを話す。 「……最初は申し訳ないんですが……男として、こんな風に生まれたら良かったなぁ~と、そしたらモテただろうなって外見の印象で憧れました…その内にバイトで接する機会が多くなると本郷さんの煌君への愛情深さに感心して…この人は愛に飢えてるのかなぁ~って。誰かを愛したい気持ちが煌君に全て向けられてる気がして……本当は誰かを愛して愛されたいと……寂しさが伝わって、何だか放って置けない気持ちに……それが憧れから本郷さん本人への気持ちに変わってきたんだと思います…本郷さんを幸せにしたいって思うようになりました。僕は男の人を1度も恋愛対象には思った事がなかったから…その気持ちは一緒に居る時には笑ってる本郷さんが見たいと…そう思ってました。たぶんって言ったのは…好きだと言う気持ちに気付いたばかりで、まだどうしたら良いか…」 森本の自分の気持ちに対して、まだ戸惑ってるのが良~く解る。 「俺の事を好きだって思ってくれるだけで、今はまだ良い。これから俺の事をもっと知って、もっと.もっと好きになるまで焦らずに待つよ。今は森本君のその気持ちだけで充分に嬉しい」 「本郷さんを好きな気持ちは…本当です。でも、男同士の恋愛は初めてで……本郷さんは経験ありますよね?」 どう話しら良いか迷うが正直に話した。 「……俺の人生で一番好きだった相手が男だった。それまで俺も男に興味無かったしモテるのを良い事に…まともな恋愛はして無かった。言い寄って来る女とは遊びで付き合ってた。そいつを好きだと思った時には俺も初めての男との恋愛に、今の森本君と同じように戸惑ってたが、自分の気持ちは抑えられなかった。恋愛事には薄情で淡白だったし本気の相手にはどうして良いか解らずに、随分強引な事もしたし身勝手だった……若かったんだな。もう同じ間違えは起こしたくない‼︎ 森本君の気持ちを考えながら、ゆっくり手探りで恋愛していこう」 「それを聞いて安心しました…あと…正直に話してくれて、ありがとうございます。あの…僕から1つだけ良いですか?」 「何だ?何でも言ってくれて良いし聞いてくれても良い。俺は……正直に森本君には話す」 俺の過去も全て森本に話しても良いと思った。 その上で、これからの俺を見て欲しいと……でも、俺の素行やら非道を知ったら嫌われるかも知れないが……それでも過去を含め俺だ。 過去から学ぶ事は多いし、もう間違えたりしないと頑なに決意してる。 「僕…浮気とか絶対に許せないタイプです。僕の事だけを見て欲しいし僕もその人だけを見てます。本郷さんは…そう言う関係の人が何人か居ますよね?最近はそうでもないですけど……以前は毎週のように水曜日遅くなってたし接待って言ってましたけど…お酒の匂いと毎回違う化粧と香水の匂いがしてました。僕の事を好きなら……僕はそう言うの許せないので……別れて下さい」 やはりバレてたのか⁉︎ まだ森本の事を好きになる前の性欲処理のセフレ達の事だ。 森本の事を気になり好きだと思ってからは連絡もして無いし店にも行く事も無い、音信不通状態で別れたも同然の状況だ。 問題はない‼︎ 「……確かに、以前は割り切った付き合いの相手が何人か居たのは事実だが…森本君への気持ちに気付いて連絡もして無い‼︎ もう別れたも同然だ。浮気はしないと誓う‼︎ 俺を信じて欲しい‼︎」 もう間違えたりしない‼︎ 森本をあんな悲しい思いをさせたりしない‼︎ 森本にはずっと笑顔で笑ってて欲しいからだ。 俺がまた人を好きになるとは……もう人を愛する事はないだろうと思ってた……その気持ちを変えるだけの運命の相手に出会えたんだ‼︎ 今度こそ何でも言い合える関係をゆっくり築いていこうと誓った。 「信じます‼︎ 僕はこう見えても自分の気持ちには正直に話すタイプなんで、疑わしいと思った時には遠慮なく言いますから。覚悟して下さいね」 「それこそ望む所だ。俺は森本君の笑顔とそう言う所も好きなんだ」 「……照れます」 これからは森本への気持ちを正直に話そう。 こんなに可愛らしい反応してくれるし、ゆっくりと懐柔して森本の心に染みていけば良いと思った。 「男同士の恋愛も異性の恋愛も何ら変わりない。ただ相手が同性なだけだが、森本の戸惑いも解る。好きな人に触れたいと言う気持ちは、やはりある。無理強いはしないがゆっくりで良いから、少しずつ俺との接触にも慣れて欲しい……手を握って良いか?」 「………は…い」 森本の側に歩み寄り正面に立ち、両手をそっと持ち上げ軽く握り締めた。 「気持ち悪くないか?」 コクンっと頭を縦に振った。 手に触れる事は大丈夫…か。 「抱きしめても…良いか?」 「……は…い」 握り締めてた両手をそっと離し、直立不動で動かない森本の背中にそっと手を回し、俺の胸に寄り掛かるように抱きしめた。 森本の背中がピクッと反応したが、離れる様子は見せず黙って俺になすがままにされてた。 僅かに震える手で森本の背中に回し、距離が近い森本に俺の心臓がドキドキ…と鳴ってる音が聞こえるんじゃないかと言うぐらいに緊張してた。 こういう行為には百戦錬磨の俺でも……本気の相手には緊張してる自分が…嫌じゃない、寧ろ素直な自分が好きだ‼︎

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