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第325話 番外編~拓真(33)~
「待たせたかな?乗って」
煌を叔父さんの所に送り、面倒だが森本と待ち合わせてた最寄り駅まで舞い戻った。
本当なら、森本を乗せて煌を叔父さんの所に送る方が早かったが、煌が森本が居るんじゃ叔父さんの所には行かないと言い出すと思い、先に送る事にした。
助手席に乗るのを確認して出発しようと思ったが、ふっと頭を過(よぎ)った。
「そう言えば、森本君が住んでる所に行った事が無かったな。俺のマンションから自転車で20分位って言うのは聞いてたが…今から場所だけ確認しに行っても良いかな?」
「そっか~、いつも僕が本郷さん宅にお邪魔して帰るだけですもんね。良いですけど…アパートですよ」
「部屋には入らないから、場所の確認だけしたい。どんな所に住んでるのか知りたい」
今まで俺のマンションでいつでも会う事ができてたから考えた事がなかった。
今の俺は森本のどんな些細な事でも知りたかった。
「道案内してくれ」
「解りました。駅の反対側です」
最寄り駅は一緒だったが、反対側だったのか⁉︎
それから森本の道案内で住宅地にある2階建てのアパートの前の道路で車を止めた。
「ここの2階の端が僕の部屋です。今度、ぜひいらして下さい」
「学生のアパートって感じだな。俺も学生の時は、こんな感じの所に住んでたな」
「駅の反対側のこっちの方が住宅地が多く結構安いんですよ。本郷さん側の方が大型スーパーやお店が多く開けてますから」
駅のこっちとあっちで、そんなに違うのか。
確かに、住宅地と言うだけあって静かだ。
「んじゃ、今度部屋に寄らせて貰うな」
「狭いですけどね」
森本の部屋に上がらせて貰う約束をし、また1つ楽しみが増えた。
「良し! 森本君の部屋も確認した事だし、出発するか?」
「はい。今日は宜しくお願いします。煌君は大丈夫でした?」
車を走らせ狭い空間で話しをする。
「ああ、連れて行く時には初めてのお泊まりで何だか緊張してたようだったが、叔父さん達が動物園に連れて行くって言ったら大喜びだった。別れ際には ‘パパ~、バイバイ’ って、あっさりして拍子抜けした。動物園が楽しみで仕方ないって感じだったな」
「それ聞いて、ちょっと安心しました」
煌の事を心配してる森本は本当に良い子だ。
優しい森本のそんな所に惹かれるうちの1つだ。
「あれなら大丈夫だろ。動物園ではしゃいで疲れてぐっすりだと思う」
「動物園ではしゃぐ煌君の姿が目に浮かびますね。この間もあっちこっちで、はしゃぎまくってましたもんね」
「そうだったな」
煌の話しが2人の共通の話題になるのは仕方ないが……今日は恋人気分で過ごし森本にも俺の事をもっと意識して欲しいと思う。
もっと甘い雰囲気にしないとな。
俺はギアに乗せてた手を離し、森本と手を繋いだ。
こう言う時にオートマは良い。
さっきまで煌の事を話してた森本は黙り込んだ。
ちょっとは意識したか?
「手繋ぐの嫌か?」
頭を横に振り「嫌じゃありません…でも、緊張します」少し俯き加減で話し、森本はもしかしたら会った時から緊張してたのかも知れない、だから煌の話題で緊張を解してたのか?
そんな森本が可愛い。
「高速道路に乗るまでは、このままで良いよな?」
「はい。運転気を付けて下さいね。あと…高速道路って、どこに行くんですか?」
「お楽しみにって言いたいが、どうせ解るからな。長野に行く。本当は海の綺麗な所も良いかと思ったが、森本君は海育ちだろ?だから、山にした。旅館の温泉に入って満天の星空を見ようと思って。ネットでは、星が綺麗に見える場所で第1位だったが……森本君と一緒に見たいと思ってな」
「うわぁ♪楽しみです。東京だと星空って、なかなか見ないですからね」
「そうだろ。あとは…ロマンチックな気分になれるしな」
「本郷さんって案外ロマンチストなんだ~。意外ですね、もっと現実主義なのかと思ってました」
「俺だって、恋人とはロマンチックに過ごしたいと思ってるぞ」
「……ありがとございます……嬉しいです」
『恋人』と言うキーワードは否定せずに照れてるのが繋いでる手に力が入り伝わってきた。
良し‼︎良し!
今日は俺からどんどん積極的に攻めて、今日こそ心身共に恋人になるぞ‼︎
「1泊だが、楽しもう!」
「はい!」
それからは車中で学校の話しや家族の話しを聞き、ゆっくり聞く機会がなかったから森本を知るには丁度良いドライブになった。
高速道路では流石に手を離し、途中で休憩がてらSAに寄り館内を物色し、旅館に着いたのは15時近かった。
チェックインし取り敢えず部屋に案内して貰い、少しゆっくりしてから外に出ようと言う事になった。
和洋室で小さいが露天風呂付きの部屋を予約してた。
「うわぁ~露天風呂付きなんですね?楽しみです♪」
「宿決める時に、露天風呂付きは絶対に外せないと思ってな。ゆっくり露天風呂から星空を見ようと思って」
「楽しみ♪」
素直に星空と露天風呂を楽しみにしてる森本に話した事は本当だが、2人で初めての混浴に違う意味でも俺は楽しみだが、俺の意図など気付かずに純粋に笑顔で喜ぶ森本は本当に可愛い。
スマホを取り出しカチャカチャ…部屋や小さな庭園と露天風呂を写メに納め「記念に、写真撮りましょう」と、俺の隣に座り顔を寄せ自撮りした。
良かった、楽しそうだな。
撮った写真を確認してる森本の肩を引き寄せ、スマホに向けてた顔を手で上げ、触れるだけの口づけをした
チュッ!
「今は、これで我慢する。あとは夜に…な」
唇を離し耳元でそう話すと、薄ら頬が赤くなり照れてるようだが、頭を縦に振った。
覚悟はしてきてたんだな。
そう思うと森本への愛しさが溢れてくる。
それだけが目的じゃない。
今は焦らずにこの旅行を楽しもう。
「少し、外に出て見るか?」
「はい」
俺達は旅館を出て、温泉街を少しふらふらする事にした。
夕方の温泉街は寒さの所為か?人は疎らだが、旅館が立ち並び古民家風のカフェや土産物屋も多少はあった
少し離れた所にはホテルも数軒あるようだ。
橋から流れる川を眺め、川沿いに長く連なる木々の緑が目に止まる。
「4月頃なら、この木々に花桃が咲き綺麗らしい。今は緑だがな。来る季節間違えたかな」
あと1~2ヶ月遅く来れば、綺麗な花桃が見せられたがその1~2ヶ月が待てなかった。
「良く川沿いに桜スポットがありますけど、桜とは違うんですね。花桃って、可愛い名前ですねずっと先まである木々に咲いてるのは凄く綺麗なんでしょうね。また、来る楽しみができました」
そう言って微笑む森本を見て、またここに来て今度は花桃を一緒に見ようと決めた!
長閑で緑に溢れ川の音が聞こえ古き良き温泉って感じの風情は心を和ます。
もう直ぐ3月だと言うのに、やはり標高が高い所為か雪も所々にあり、澄んだ空気が肌寒さを感じた。
それを良い事に、俺は森本の小さな手を握り肩を寄せ歩く。
途中で足湯があり、何人か観光客らしき人が足湯を楽しんでた。
「ラッキー! 少しは温まるかも。足湯しようぜ」
「気持ち良さそう♪」
肌寒かったが、足元から温かさが伝わってくる。
「あっか~い♪」
隣に座り足湯を喜ぶ森本と暫く足湯を堪能し、土産屋の前で熱々の饅頭を買い食べ、古民家のカフェで暖かいコーヒーを飲み暖をとり、少しずつ辺りが暗くなる様子をカフェの中から眺めて居た。
静かな山沿いは東京の喧騒さを忘れさせてくれる。
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