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第351話 番外編~和樹ver.~
「岳~、お昼行ける~?」
柏原君を誘いに来た神谷君は凄く機嫌が良いみたいだ。
「ああ、行ける」
「岳から誘ってくるなんて珍しい~ね。仕事忙しいからって切りが良い所でお昼行きたいから、わざわざ誘わなくって良いって言ってたのに~。仕事も一段落したの?」
「今日の午前中にやる分は何とかな。時間無くなるから行こうぜ。明石さんも行けます?」
柏原君だけを見て話し、俺の存在は……見えてない?ううん.見てないんだ。
なんか~俺から言い出したけど……一緒に行きづらい感じが……。
良い機会だと思ったけど……ゆっくり話す機会があれば……解り合えるはずと気を取り直した。
「うん! 行けるよー」
俺が柏原君に返事をすると ‘えっ! 何で’ って顔をした。
俺と一緒で思ってる事が顔に出るんだ。
柏原君は俺も一緒に行くって言って無かったのかなぁ~。
「俺と明石さん仕事が一緒だから、昼食の時間帯が一緒の方が効率良いんだよ。何か、ミスや解らない時に明石さんが居ないと進まないから」
「そうなんだ! そう言う事なら、明石さん一緒に行きましょう! 何、食べます?」
柏原君の説明に納得行ったのか?さっきとは別人のように話す。
俺以外の人と話す時のいつもの明るく人懐っこい神谷君だった。
「明石さん、昨日は時間無かったからパン買って食べたから、今日は近くの定食屋にしませんか?」
「うん! 良いよ。今日は少しゆっくりできそうだしね」
「じゃあ、早いとこ行きましょう!」
「行こう.行こう! 明石さんも早く~」
何だろう……俺が感じてたのは気のせい?俺の思い過ごし?
全然違う態度の神谷君に戸惑う反面、普通に接してくれる事が嬉しかった。
やはり話す機会を作ったのが良かったのかも‼︎
それから3人で連れ立って会社近くの定食屋に行き、昼食をとる事になった。
定食屋さんでも、ずっと神谷君は機嫌が良く柏原君に話し掛けてた。
柏原君が気を遣い俺にも話を振ってくれたりと和やかな雰囲気で食事をした。
「2人は同じ大学で同じ学部って事は、大学からの友達?」
「俺と響は高校からなんです」
「そう! 腐れ縁って奴~。岳が俺と離れるの寂しい~って、大学まで一緒にしたんですよー」
「それは響の方だろーが!」
「違うもん! 岳だねー」
「響だ!」
「岳です!」
あの無口な柏原君が神谷君の前だと饒舌になってる。
そのくらい付き合いが長いって事だと解る。
高校からって言ってたし、親友なのかな?
言い合いをしてる2人は何か微笑ましい。
「仲が良いんだね」
「別に、普通ですよ」
「仲が良いで~す」
俺の問いに、それぞれ違う反応を見せたけど仲が良いのは見てて解る。
帰りも殆ど一緒に帰ってるしね。
柏原君と神谷君とこうして話せて良かった。
神谷君は笑顔を絶やさず良く話し、やはり俺の勘違いだったんだと思い過ごしだったんだと思ってた。
楽しく食事し、休憩時間を考え会社に戻る事にした。
前を歩く2人は楽しそうに話す。
エレベーターの中で、柏原君が「明日はラー麺とか良いですよね?」と、聞かれ「そうだね。直ぐに食べて戻って来れるしね」と、明日の昼ご飯の話しをしてると、神谷君が「明日も一緒に行けるの?」と柏原君に聞いてた。
「仕事の捗り具合と切りの良い所でって感じだから、約束できないな。気にしないで携帯班の人と行けよ」
柏原君なりの気遣いだと俺は思ったけど……神谷君はそう思わなかったようだ。
「解った」
そう言って、さっきまでの機嫌の良さが見る見る消えていった。
エレベーターを降りてオフィスに向かう。
「明石さん、俺、トイレ行ってきます。先に、行ってて下さい」
「解った」
柏原君がトイレに向かい、俺と神谷君が並んでオフィスに向かう。
気まずい雰囲気で、俺も困った。
柏原君が居る時は機嫌良かったけど……。
オフィスのドアを開ける前に、ボソボソ…と背後から小さく呟く声が聞こえた。
「ふん! 仕事だって容姿だって大した事ないじゃん。全然、似合わない」
俺に聞こえるか.聞こえないかの微妙な呟きは、独り言のようでもあった。
「えっ!」
あの神谷君からの言葉とは思えず聞き返そうとするとドアを開け、さっさとオフィスの中に入って行き自席につき携帯班の人達と和やかに話し始めた。
その光景は俺が聞いた言葉が嘘みたいだと思った
でも……聞こえた。
全然似合わない……って。
それって……海と俺の事…だよね。
海にはに似合わないって言う事だよね。
仕事も容姿も……大した事ないって……。
自分でも解ってた事だったけど……ショックだった‼︎
大した事ない…大した事ない……似合わない…似合わない…大した事ない……。
自席に着いてからも、その言葉が頭の中を駆け巡ってた。
大した事ない……前にも…どこかで聞いたような……。
ハッ!
思い出した!
そうだ……拓真の部屋の前で鉢合わせした人に言われた……。
あの時の気持ちと今の気持ちがごちゃごちゃになり、俺は午後からの仕事が捗ら無かった。
カタカタ……無意識にキーボードを打つが、集中力に欠けてるのが自分でも解る。
捗りはしなかったが、どうにかミスだけはしなかった。
「疲れました?何か元気ないですけど……」
柏原君に心配される自分が情けなく、空元気で答えた。
「ん、ちょっと肩が凝ったかも~」
「同じ体勢ですからね。気分転換に、お茶かコーヒーでも入れますか?」
「良いよ。自分で入れて来る」
ここでは自分で飲みたい時には自分で基本的には入れる習慣で、俺もそれは身についてた。
「じゃあ、俺も飲みたいんで」
柏原君はそう言って、俺と一緒に給湯室に向かった。
給湯室で俺が元気がないと思ってる柏原君はたわいものない話しをして気を使ってくれたのが解った。
柏原君に気を使わせて……今は仕事中!
気持ちを切り替えてやろう!
考えるのは後だ!
少し気持ちが浮上し柏原君と笑って話した。
柏原君も俺から笑顔が出た事で安心したようだった。
「もう少しで、就業時間終わりですから頑張りましょう。今日は明石さんも残業しないで帰った方が良いですよ」
「そうだね。そうしようかな?じゃあ、頑張って今日の分終わらせよう!」
「はい!」
2人でコーヒーを手に休憩室から出て来た。
その時に、俺は神谷君がやはり気になりチラッと見るとキツい目で俺を見てたと思ったら直ぐに顔を背けられた。
睨んでた?
そんなに俺が気に食わないの?
何かしたのかな?
自分でも気が付かずに、神谷君に何かしてたのかも……。
柏原君のお陰で浮上した気持ちが沈んでいく…柏原君には気づかれないように、それからの仕事は無理矢理にでも集中するように心掛けた。
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