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第352話 番外編~和樹ver.~

それからの神谷君の態度はあからさまだった。 他の人が居る時や柏原君が居る時には、皆んなと同じ態度で和やかに俺にも接してくれるが……他の人には解らない程度に、俺の事を無視したり聞こえない振りをしたり……そしてキツい目で見る事も度々だった。 俺も神谷君にどう接して良いものか考えたが……原因が解らない事には接し方も解らなかった。 本人に直接聞いてみようか? そう思った事は何度もあった……けど、事を荒立てるのも…もしかして、もっと悪くなるかも…と思うと聞く事も出来なかった。 心のどこかに ‘あと2週間も無いし、今だけ我慢すれば……’と、期限付きの日にちが経つ事を待ってれば良いと思う気持ちもあった。 一緒に働く柏原君は一生懸命に仕事してくれるし意欲的な所を見てると、俺もこんなんじゃだめだと気持ちを切り替える事ができ救われてた。 海に相談しようと思ったりもしたけど……告げ口するようで嫌だった。 そんな日々が続き、集中し黙々と仕事をしてる時はまだ良かった。 俺の頭の中には、いつまでも神谷君に言われた…大した事ない……似合わない……と言う言葉が頭の片隅にあった。 神谷君の姿を見る度に……その言葉を思い出す。 そして、もう1つ思い出した事があった。 誰かに同じ事を言われたと思った……あの拓真の部屋の前で鉢合わせした人に神谷君は似てる。 最初、自己紹介の時に背格好で親近感が湧くと思ってたけど、皆んなが俺に似てると言われても自分ではピンッ!とこなかった。 俺自身は背格好は似てるかも知れないけど、神谷君の方が華やかで社交的だからだ……そして俺とは違う誰かに似てるとずっと引っかかってた。 大した事ないとか似合わないと同じ台詞を言われた事で……華やかで自分に自信があり社交的な所も、あの人に似てると思った。 俺にとっては忘れてた、ううん.違うな。 トラウマになった出来事で思い出したくなかった……意図的に思い出さないように拒絶してたんだ。 穏やかで優しさと温かいぬくもりに包まれ愛情をたくさんくれる海との生活が幸せで……封印されてた。 あの人と神谷君自身は別人だとは解ってるけど…同じ言葉を言われた俺には……ダブって見え……何だか、神谷君に対して怖気づくようになった。 神谷君は俺に対してとは別に……海に対しても、あからさまに誰から見ても積極的にアピールするようになった。 午前中にデスクワークし午後から並木さんと一緒に出掛けたり、午前中から出掛けて就業時間間際に帰社したりと並木さんのスケジュール管理の元忙しく飛び回り、たまに契約書関係や仕事の進捗状況確認や打合せやデスクワークをする為に内勤する時もあるけど、営業を海自身が一手に引き受けてる為に外回りが基本だ。 会社に殆ど居ない海が帰社し、普段は自分で入れる海もたまに営業での疲れや癒しを求める時に、俺に頼む事は皆んなも知ってる事で、疲れてる社長を癒すのは俺の役目とばかりに微笑ましく見てくれ暗黙の了解だった。 その日も、営業先から戻り社長室に入る前に 「明石、コーヒー頼む」 営業先で疲れたのかな? そう思い返事をしようとした時だった。 「社長、僕が持って行きます」 席を立って海に話す神谷君の発言に周りの人はギョっとし俺を見てた。 皆んなも予期せぬ事でギョっと驚くのも当たり前で、俺も目を見開き驚き固まってしまった。 それは海もそうだったようだけど、直ぐに社長の顔になり 「そうか、じゃあ頼む」 神谷君の申し出に微笑み、そう言って社長室に入って行った。 神谷君は嬉しそうにいそいそと給湯室に行き、直ぐにコーヒー片手に社長室に入室して行った。 俺と他の社員の人達は唖然とその光景を見てたが俺の事を思って皆んな何も言わずに仕事を再開した。 ……俺の役目だったのに……。 俺と海の関係を知ってる皆んなもそう思ってるし何やかんや言って皆んなは俺と海の事を応援し見守ってくれてるのも俺も海も解ってる。 神谷君も知ってるはず…だよね? 俺が皆んなの手前顔には出さずに、またパソコンに向き合い仕事を再開しようとした時に、横から柏原君が話し掛けて来た。 「明石さん、ここちょっと見て貰えますか?」 資料を片手に椅子を引きずり側に来て、資料を見せながら小声で皆んなに聞こえないように話す。 「気にしない.気にしない。コーヒー持ってっただけですよ」 柏原君は俺に気を使い励ましてくれた。 その気持ちが嬉しく‘そうだよ、コーヒー持ってただけだ’と思い直した。 柏原君の優しさに、俺は気にしてないよと安心させるように微笑んだ。 「ありがと」 小さく答え柏原君も微笑み席に戻り、またカタカタ…キーボードを打つ音が聞こえた。 ダメだな。 あんな事ぐらいで動揺して。 俺も柏原君を見習いカタカタ…キーボードを打ち始めた。 コーヒーを持って行っただけの神谷君がなかなか社長室から出て来ない事に、チラッチラッ…と社長室が気になり他の人にバレないようにパソコン画面を見ながら盗み見てた。 たぶん、皆んなも気にしてたと思う。 神谷君が出て来たのは10分程経ってからだった。 あからさまに機嫌が良い感じで、自席に座ると周りの人に話し掛けてた。 「社長って、余り会社居ないから話す機会無かったけど……やっぱりカッコ良いですよね~」とか 「社長と今度ランチの約束しちゃったー」と嬉しそうに話す。 皆んなも俺の事を気にしながらも、神谷君の話しに相槌を打ったりしてた。 ランチの約束? でも…海は忙しいから……口約束だけ? よく言う社交辞令なのかも…。 神谷君が一方的に言ってるだけで、本当かどうかは解らない。 そんな事があった日から数日経った時だった。 その日は海も溜まった書類やら雑務の為に、デスクワークをする為に朝から社長室で篭ってた。 並木さんは社用で法務局に出掛けてた。 海が朝から社長室に居て並木さんが不在と解ると神谷君は頼まれても居ないのに、社長室にコーヒーを持って行った。 それから、やはり10分程出て来なかった。 神谷君の海への態度は社内では皆んな何となく解ってるが、俺に気を使いその事を口に出す人は居なかった。 ただ見守る人や我関せずと言う人も居るし、気の毒そうに俺を見る人も居た。 他の人に気を使わせるのが嫌で、いつもより元気にし気にしてない風を装ってた……けど、それは空元気だと言う事は皆んな解って、そぉっとしてくれた。 神谷君がやはり機嫌良く社長室から出て来て、今日は何も言わずに仕事を再開した。 いつもは俺に聞こえるように.当て付けのように話してるのに……この間と違う態度に……変だな?とは思ったけど……何もないから言う必要もないのかも…とも思った。 そのまま俺も仕事を再開し昼休憩になった。 「明石さん、どうですか?俺、切りが良い所まではまだ掛かりますけど…」 昼食はどうするか?柏原君からの確認だった。 「うん! 俺もあと20~30分ぐらいかな」 「俺もそんな感じなんで」 「じゃあ、切りが良い所までやっちゃおう!」 「はい!」 昼休憩でも周りでもまだ仕事してる人も何人か居るし、ぞろぞろと外に昼食を取りに行く人も居た そんな中で、社長室から海と神谷君が一緒に出て来た。 あれ?いつの間に社長室に? 俺と柏原君が仕事の進捗状況を確認してる時に、社長室に入って行ったようだった。 神谷君が嬉しそうに海を見上げてる顔が印象的だった。 ………海。

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