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第353話 番外編~和樹ver.~

ここ最近の神谷君の態度に、少し揶揄うように話す人が出てきた。 「社長、若い子を連れてランチですか?」 海はいつもの冗談だと揶揄ってると解り、普段通りに対応する。 「はははは……たまには、若い子とも交流しないとな」 海なりの冗談だと解る。 前の俺だったら一緒に笑ってたけど……今は笑えなかった……それどころか、海達の方を見れなかった。 仕事に集中する振りでパソコン画面を見てたけど……耳だけは大きくなってたかも知れない。 「若いって、社長だって若いじゃないですか~」 「君らから見たら、叔父さんだ」 「全然! 凄くカッコいいです!」 「若い子にそう言って貰えると嬉しいな」 褒められて満更でもないような海にイラッとした 海も社交辞令だとは解ってるはずだし、話を合わせてるだけだとも思ってる。 「それじゃ、その若い子だけじゃなく俺達も一緒にランチ連れてって下さいよ~」 「あ~悪いな。今回はだめだ。この次は一緒に行こう」 「若い子を独り占めですか~」 「そんなんじゃない」 海を揶揄う人に笑って答える海の腕を掴み引っ張る。 「社長、昼休憩無くなっちゃう。早く行きましょう」 「そうだな。解った」 「じゃあ、行って来まーす」 残ってる社員にそう言って海と一緒にオフィスを出て行く。 その時も「社長、何食べます?」「美味しい所に連れてって下さい」とか声が聞こえた、ううん.わざと聞こえるように話してるんだ。 他の人から見れば仕事をしてるように見えたと思うけど、パソコン画面に映ってる2人を見てた。 胸がズキズキ……してた。 キーボードの叩く音がしない事に気がついてた柏原君は俺の近くで「気にしない.気にしない。ただご飯食べに行っただけですよ」とまた俺を慰めてくれた。 俺はそんな柏原君に笑って返事をした。 「うん。そうだね」 上手く笑えてただろうか? 泣きそうな顔になって無かった? 柏原君はニコッと笑い、俺の背中をぽんぽんっと軽く叩く。 柏原君は顔では笑顔を見せてたけど……。 その柏原君の顔を見て、俺の顔が引き吊り上手く笑えて無かったんだと解った。 それから2人で昼休憩前に話してた所まで、カタカタ…キーボードを打ち込む。 「あ~終わった」 「明石さん、終わりました?俺も終わったんで昼行きます?」 「ごめんね。僕が遅くなったから、お腹空いたよね?」 あれから仕事に集中しようと思うけど、やはり気になり捗らずに思ったより遅くなってしまったのに……。 「ランチもピーク過ぎた所でしょから、直ぐに店に入れるから大丈夫ですよ」 柏原君の机の上は片付いてるのが見えて、俺を待っててくれたのが解った。 「じゃあ、行こうか」 「はい!」 俺と柏原君が席を立った時には、数人が昼食から戻って来る姿が見えた。 そして入れ替わるように俺と柏原君はオフィスを出た。 エレベーターから海と神谷君が丁度降りて来たのが遠目で見えた。 はあ~、何で会っちゃうかな~嫌だな。 すれ違うのも嫌な気がして動揺してると……神谷君がつまづいた。 あっ!……と、俺も思った。 その時に、海が素早く神谷君を助けて腕を掴んだ 神谷君はつんのめったが海のお陰で転ぶ事は無かったが……海の腕を引っ張る力が強かったのか?海の胸に飛び込んだ神谷君を慌てて海が抱きしめた。 たぶん、勢いで2人共転ぶ事を阻止したんだろうと思いたい! その光景を見てたのは俺だけじゃあなく柏原君も立ち止まって見てた。 そして海が一言二言…神谷君に話し、2人は離れたのを見計らい柏原君が突然声を上げた。 「明石さん、エレベーター行っちゃう。早く乗ろう。急いで!」 「あっ! うん」 柏原君は俺の手首を掴かみ走り出した。 その声が聞こえたのか? 海と神谷君もオフィスに歩いて来た。 走ってる俺達とすれ違う時に、海は「今から、お昼か?」「うん! 遅くなっちゃって~」と言葉を返し、そのままエレベーターに乗り込んだ。 良かった~。 どんな顔ですれ違えば良いかと思ってただけに、一言二言だけで直ぐに2人から離れられた。 柏原君のお陰だな。 ん?もしかして…柏原君は俺の事を考えて……意図的にしたのかも……いつも柏原君には助けられてばかりだ。 他の人も居るエレベーターの中で2人で端に並んで階表示を見てると、何も言わずに背中をぽんぽんっと叩く。 それが ‘気にしない、気にしない’と言われてるようで……何度も聞いた柏原君の台詞は俺の呪文みたいになってた。

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