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第358話 番外編~和樹ver.~

「良いんですか?こんなに買っちゃって」 「良いの.良いの。ちゃんとお釣りもあるし、もっと高いの買っても良かったのに。遠慮しなくて良かったんだよ」 並木さんと柏原君の会話を俺はウキウキ…とした気持ちで聞いて居た。 「クスクスクス……和樹君はスイーツだけで機嫌良くなるんだね?」 「え~~! 解ります?俺、ずっとここの店のプリンとシュークリーム食べたいって思ってたんで。凄く楽しみ~♪」 「まあ、人気があるからね。でも…可愛い~ね」 そんな俺を子供を見るような目で笑って見て話す並木さんと黙って笑ってる柏原君。 最近、オフィスの近くに出来たスイーツのお店は有名なパティシエがプロデュースしてるとTVで放送されて人気がありいつも並んでる。 今日はまだ運が良かった。 ピークは過ぎたのか?ほんの少しだけ並んで買えた。 実際店の中に入って見たら、綺麗に可愛くデコレーションされた華やかなケーキ類とロールケーキ、色濃いプリンと2種類のシュークリームがショーケースに綺麗に並べられて見てるだけでも、ウキウキ…楽しくなった。 俺はケーキも良かったけど……結構値段もしてたから、いつか海と一緒に買いに来ようとケーキは止めた。 以前から、ここのクッキー生地を乗せたシュークリームが気になってた。 並木さんが「和樹君と柏原君に任せるよ!」と言ったけど、結局、俺が決めた。 プリンは今日居る人達の分を買い、明日のおやつにシュークリームを社員人数分買う事にした。 そして会社に戻り、並木さんはまだ残ってた2人に労うように声を掛けた。 「山中君、高橋君。デザート買って来たから食べない?」 「ラッキー♪」 「やったー♪」 2人は席を立ち箱を見て喜んで向かって来る。 「山中君、高橋君。悪いんだけど、6人分のコーヒー入れてくれる?和樹君は社長を呼んで来て、寝てるかも知れないけど起こしてね」 柏原君と一緒に箱を開けプリンを出しながらもテキパキと指示を出す並木さんに従う。 俺が社長室に向かうと背後で、山中さんが並木さんに聞いてた声は俺の耳には届かなかった。 「6人?7人じゃなく?今さっき、神谷君が社長室に入って行きましたけど?」 「神谷君?」 「響が?」 「はい。1度帰ったのか?それともどこかで時間潰してたのか?解りませんけど、ずっと会社には居なかったのに、ひょっこり姿を見せて」 「そうなんだ、知らなかった。それなら私の分を渡せば良いから。コーヒー頼むね」 「はい。じゃあ、7人分ですね」 山中君と高橋君は給湯室に向かった。 何で?神谷君が……。 そう言えば、社長の戻る時間を私に聞いてた! マズい‼︎ そう思って和樹君を呼び止めようとした時には、和樹君が社長室のドアを開けてる所だった。 何でも無ければ良い……けど。 私と柏原君は和樹君の動向をその場から見守った 神谷君が会社に戻った事を知らない俺は皆んなで美味しいデザートを食べれるとウキウキ…気分で社長室に向かってた。 寝てるかも知れないって、並木さん言ってたなぁ~。 疲れてるんだろうな。 でも、甘いもの食べれば疲れも吹っ飛ぶよね~。 皆んなでワイワイ…言って食べれば楽しい~し。 そんな事を思って社長室のドアを開けた。 ガチャッ! 「海~、デザート買って……」 ソファで横になってうたた寝してる海の側で、神谷君は跪き覆い被さる形で……キスをして…た。 その現場を目撃し……俺は途中で何も言えずに…驚き過ぎて声が出なかった。 目を瞑り寝てた海が俺の声にハッとした顔を見せ神谷君の体を離し、ドアに居る俺と側で微笑む神谷君とを交互に驚いた顔で見てた。 神谷君が振り向き俺を見て勝ち誇るように笑って海に抱き着いた。 「和樹!…これには……」 海は神谷君を振り解こうとし俺に何か言おうとしてたけど……その光景を見る事もここに居る事も耐えられず、俺は社長室のドアを開け放ったまま立ち去った。 そのまま自席に行き鞄を持ち足早に並木さんと柏原君の側を通り「すみません。お先に帰ります」と投げ付けるように言い放ち、俺は逃げるように会社を出た。 背後から「和樹君!」「明石さん!」と並木さんと柏原君の声が遠くで聞こえたけど……足は止めずに殆ど走るようにし、上の階で止まってるエレベーターのボタンをカチカチ……と何度も押し、直ぐに来たエレベーターに飛び乗った時に「明石さん、待って‼︎」と柏原君の声が聞こえ姿が見えた時には扉は閉まった。 誰も居ないエレベーターの中で自分の目で見た事が、まだ信じられなかった……けど、ショックを受けて逃げてるって事は……現実なんだ。 海が……あの海が……神谷君とキス⁉︎ だって…今日の朝だって……起こしに行った時に何度も俺にキスして……何度も愛してるって…… 俺は寄り掛かってた壁からズルズル…背中から落ち蹲(うずくま)り顔を覆った。

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