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第359話 番外編~和樹ver.~

和樹君が社長室から逃げるように戻って来た。 さっきまでにこにこ笑顔の顔が消え顔面蒼白で慌て帰り支度してた事で何かあった事が解り、和樹君の名前を呼んでも振り返りもせず逃げるように会社を出て行った。 柏原君が「俺、追いかけます!」と言って、自分の鞄を持ち和樹君を追って行った。 何も知らない山中君と高橋君が皆んな分のコーヒーを持ち給湯室から戻って来た。 私は平静を装って2人に話した。 「ごめん、社長に呼ばれて。2人が食べた後は冷蔵庫に仕舞ってくれる。それ食べたら帰っても良いからね。じゃあ、お疲れ様」 「すみません。いただきます」 「お疲れ様でした」 何も知らない2人はプリンを食べ始め、私は直ぐに社長室に向かった。 そして社長と神谷君の間に何があったか?大体の予想がついていた。 和樹を追いかけて行こうにも神谷君が抱き着き離れない。 そうこうしてるうちに並木が開け放たれたドアから入って来て静かにドアを閉めた。 並木は表情には出さず、いつもより声が低く冷たく言い話す。 「何、してるんですか⁉︎」 表情はいつもの並木だが、かなり怒ってるのは長い付き合いの俺には解る。 「並木‼︎ ともかく神谷君、離れてくれ‼︎」 俺自身が何が何だか解らない今の現状に焦り参ってた。 「……社長…もう一度、僕のお願い聞いて下さい」 俺に縋るような目で頼まれても何の事かさっぱり解らない。 「神谷君! 話しがしたいなら社長から離れなさい! それから聞くから」 並木のキツい言い方に、神谷君は俺から離れ目の前のソファに崩れるように座った。 横になってた俺は改めてソファに座り、ドア付近で腕組みしキツい目で見てた並木も俺の隣に座り目の前に座ってる神谷君と対峙した。 「並木! 和樹は?」 「会社を飛び出して行きましたよ。あの様子だと何があるか解りませんから、柏原君が追いかけて行きました」 「そうか」 「岳が……」 柏原君の名前を出ると神谷君は肩をピクっとし顔が強張った。 それに何だか違和感を持った。 和樹の事は気になるが、並木が柏原君に任せたなら大丈夫なんだろう。 取り敢えず俺は今の状況が解らない、1つ1つ整理していかないと……。 「神谷君、私に社長の帰社時間を聞いたのは、こんな事をする為?」 並木の質問に神谷君は頭を横に振り「違う」と俯き答えた。 「どう言う事か説明して貰えるかな?私はちょっと横になり眠ってしまった。唇に触れた感触から和樹がキスして来たんだと思った。そんな事をするのは和樹だけだからな。てっきりそうだと思い疑わなかった。そしたら和樹の声がして目を開けたら、当の本人の和樹はドア付近に居て私の側には神谷君が居た。和樹は出て行って……今に至るんだが。それが私が解る範囲の事だが、なぜ私にキスなんかしたんだ?並木に私の帰社時間を確認してまで話したい事があったのか?」 「神谷君、どう言う事か説明しなさい!」 「もう一度、社長に……僕と岳の就職の事を考えて欲しくって……それで並木さんに社長の帰社時間聞いて、もう一度戻って来たんです」 「就職⁉︎ 就職の件はこの間話した通りだ。私は他の学生にも平等にチャンスを与えたい。うちの会社をそんなに良く思ってくれるのは嬉しいが、裏で画策したりしないで神谷君も柏原君も他の学生と同じように試験や面接を受ければ良いだろう。私は依怙贔屓(えこひいき)はしない! それに話すだけならキスなんてしなくても…。なぜ、そんな事を?私を好きだと言う事なのか?私にはそうは思えないんだが……」 「社長が好きだから?和樹君に対しての当て付け?自分のした事を良く考えなさい! 和樹君は傷ついてるんだよ。どうしてそんな事をしたの?」 俯いてた顔を上げ、俺と並木をキッと睨んだ。 「何で⁉︎ 明石さん.明石さんって社長も並木さんも依怙贔屓してるじゃないですか?それに他の人も可愛がってるし…岳だって懐いちゃって! 明石さんにどんな魅力があるんですか?明石さんが良いなら似てる僕でも良いじゃないですか?」 和樹に対して並々ならぬ対抗心を燃やしてる。 似てると言われるからか? でも、誰も2人を比べたりしてない! 逆に、和樹も神谷君もそれぞれを皆んな可愛いがってるように見えた。 自意識過剰なのか?それとも嫉妬なのか? 確かに俺は恋人でもある和樹は可愛い。 並木も色々事情を知って可愛がってる。 でも、俺も並木も会社とプライベートは別に考え接してる。 並木に関しては、逆に会社では和樹に厳しいくらいだ。 「依怙贔屓に見えたかな?私も並木もプライベートとは別に考えて会社では接して来たつもりだし他の社員からはクレームになった事は1度も無かったが……。なぜ、和樹に対抗意識を持ってるんだ?和樹が君に何かしたのか?」 「和樹君は神谷君に自分では気付かないうちに何かしたんじゃないかって、凄く気にしてたよ」 和樹が気にしてた? 初めて聞いた話しだった。 並木に相談してたのか?俺じゃなく⁉︎ 睨んでた顔から今度は泣きそうな顔になった。 「明石さんは何もしてない……本当は解ってるんです。僕の言い掛かりだって。岳が……人見知りで無口な岳が…明石さんには直ぐに打ち解けて…懐いていくのが悔しかった。社長に僕と岳の就職をお願いしたのも……就職で岳と離れたく無かったから……だから…。岳もここを気に入ってたし僕も良いと思ってたから。でも……もし上手く就職しても……明石さんが居ると思うと……。それに社長には断られて…もう一度お願いしに来て…社長がそこで寝てたから……明石さんが良いなら僕でも良いんじゃないか?って…社長が僕を気に入ってくれたら、就職の件も考えてくれるんじゃないか?って……キスして…僕を意識してくれるかな?って…。僕は岳と離れたくない!……から。その為に、その為だったら何でもしようと…」 柏原君と一緒に居たい為⁉︎ 何て浅はかな考えなんだ! その為に人を傷付けて良いと言う考えが……まだ大人になり切れてないんだろうが、俺は無性に腹が立った。 「和樹と君は背丈は確かに似てるが、顔も性格も全然違う! 和樹には和樹の良さがあり君には君の良さがある。和樹は相手の気持ちを考える優しさと素直さがあるし、話し掛け易い雰囲気がある。だから柏原君も皆んなも和樹には打ち解け易いんだと思う。それは天性のもんで和樹がわざとしてるわけじゃない。柏原君が和樹に打ち解けて懐くからって和樹を恨むのはお門違いだと思うがね。和樹に嫉妬してるとしか聞こえない! 自分の思い通りにならないからって他の人を傷つけて画策して、柏原君と居たいだけの為にする事なのか⁉︎」 「社長の言う通りだよ。柏原君と神谷君の仲がどう言う仲なのかは知らないけど、人を傷つけて柏原君が喜ぶのかな?」 「岳は何も知らない。岳は……僕が何とか離れないようにしないと……岳は僕の事なんか気にしないで離れていく……僕が何とかしないと…」 泣きそうだった目から涙が溢れた。 「神谷君、素直にならないと…このままだと本当に柏原君は離れていくよ。不安なのは解るけど、周りを巻き込んで柏原君の知らない所でこそこそしないで、ちゃんと神谷君の不安な気持ちや離れたくない気持ちとか正直に話し合った方が良い。離れたくないって言っても柏原君だって考えや気持ちはあるんだよ?自分の気持ちだけ押し付けないで柏原君の気持ちも聞いてちゃんと2人で考えた方が良い」 並木は説得するように話す。 「本当は解ってるんです。岳が明石さんに打ち解けて懐く気持ちも、僕が明石さんに嫉妬してる事も……明石さんが悪いんじゃない事も。社長を何とか誘惑して……そんなバカな事を考えた事も。全て僕の独り善がりだって事も。学生の時は僕が追いかければ何とか一緒に居られたけど……就職だけは僕の努力だけではどうにもならない…だから…」 神谷君の気持ちも解らないでもないが……やり方が許せない! このまま話しても平行線だと思った。 私と並木が何を言っても肝心な柏原君の気持ちが解らないし、神谷君も柏原君に素直に話し合うかどうかだ。 結局は2人の問題だ。 俺達はただ巻き込まれた被害者だ。 はっきり言っていい迷惑だ‼︎ こんな所で話してる場合じゃない、俺が和樹とちゃんと話さないと‼︎ 「並木、悪いが神谷君を家まで送ってくれ」 「良いですけど。社長、帰りは?」 「もう仕事する気分じゃないし少し冷静になる! タクシーで帰るから大丈夫だ」 「解りました。神谷君、送るよ」 「……すいません」 頭を下げ並木の後を追い部屋を出て行こうとする神谷君に声を掛けた。 「神谷君、素直になった方が良い。柏原君だって君から離れようと思えば、いつだって離れられたはずだ。そうしなかったのはなぜか?良く考えてみる事だ。素直になる!それが大切な事だよ」 神谷君の心に届いたかどうか解らないが俺が思った事を話した。 後は2人で話し合うしかない。 話し合いをするかどうかは本人達次第だ。 しないなら……そこで終わりだろう。 神谷君の話しから、ここまで神谷君の努力で離れずに居たらしいから……それなら最後まで努力して欲しいが……今度は穏便な形で。 神谷君は何も答えずに頭を縦に振り部屋を出た。 並木と神谷君が居なくなった静かな部屋でこれからの事を……ショックを受けてるだろう和樹と、どう話し合うか考え始めた。 和樹が声を掛けなければ……危なかった! てっきり和樹だと思ってた俺はいつもの戯れだと思い触れるだけのキスをいつまでもする和樹(その時には思い込んでた)に焦れ、深いキスを仕掛けようと口を開き後頭部に手を回す寸前だった。 本当に…危なかった。 和樹は驚き顔面蒼白になっていき……今にも泣き出しそうな目で俺を見た顔が忘れられない。

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