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第360話 番外編~和樹ver.~

エレベーターのドアが開きフロアが見えた。 俺は蹲ってた体を起こし、エレベーターを降りた ビルのフロアを足早に歩く俺の腕を力強く掴む人が居た。 振り向くと柏原君が息を切らし俺の腕を掴みながら、片手を膝につき荒い息をしながら話す。 階段を駆け下りて来たんだ。 俺を追いかけて……なぜ、海は追いかけて来ないの⁉︎ 「待って下さい! ぜぇぜぇぜぇ…はぁはぁ……会社に戻りましょう! ぜぇぜぇぜぇ…はぁはぁ…」 「ごめん。今は無理だから……放っておいて‼︎」 掴まれた腕を引き離そうとすると柏原君は更に強く腕を掴んだ。 「ぜぇぜぇぜぇ…会社戻らないなら……はぁはぁ…俺の話しを聞いて貰って良いですか?…はぁはぁはぁ」 俺の返事も聞かずに、柏原君は腕を掴んだままビルを出た。 辺りは暗くなり家路を急ぐ人や飲みに行く人達.食事に行く人達と行き交う中をズンズン…柏原君は俺を引き連れ歩いて行く。 そのまま何も言わずに電車に乗り、掴まれてた手はもう逃げないだろうと離れていた。 無言のまま2駅先で降り、駅近くの雑貨ビルの中のエレベーターに乗り込み5Fで降りた。 BAR? 「ここ、友達がバイトしてるんです。こじんまりとしてるけど、料理も美味いし酒類も充実してますよ。ここはちょっとした隠れ家的な所で、たまに俺もフラっと飲みに来ます。響は知らない場所だから安心して下さい。入りますよ」 柏原君がドアを開くと友達なのか?それとも知合いなのか?カウンター席から柏原君と同じ年頃の男の子が笑顔を見せた。 「よう! 久し振り~!」 整った顔と無造作に跳ねさせた髪型が凄く良く似合う今風の子だった。 「先月も来てると思うけど?ちょっと込み入った話したいから、奥のテーブル席借りるな」 「どうぞ.どうぞ。で、飲み物は?」 「俺は…そうだなぁ~。取り敢えずビールと2~3品料理出して。明石さんもビールで良い?」 俺は頭を縦に振った。 「じゃあ、宜しくな」 「了解‼︎」 薄暗いけど、間接照明を上手く使いお洒落で店の中に流れるjazzの音楽が更に店の雰囲気を良くしてる。 カウンター席と小さなテーブル席が3席の柏原君が話すようにこじんまりしてるけど……凄く居心地が良さそうだ。 柏原君の後を着いて行き、奥のテーブル席に座った。 俺達が座るタイミングでさっきの店の人がグラスビールとナッツとチーズを持ってテーブルに置き俺と柏原君を交互に見て和かに話す。 「珍しいな。岳斗が人を連れて来るなんて。こいつ友達居ないのか?いつも1人で来るんですよ」 営業用とは解るが笑顔で気さくに話す。 「明石さん、こいつ小.中の時の友達で幼なじみって感じですかね?土田渉(つちだわたる)で、ツッチーって呼んでます。ツッチー、こちらバイト先の先輩の明石和樹さん」 「先輩?年上なんだ。見えないね。宜しくね、明石さん」 「こちらこそ…宜しくお願いします」 「じゃあ、ごゆっくり」 「ツッチー、ピザ頼む」 「了解‼︎」 幼なじみって言うだけあって人見知りの柏原君も土田君とは仲が良いみたいだ。 グラスビールを持ち、乾杯と言う気分では無かったから黙ってグラスを合わせた。 ゴクゴク…ビールを飲む柏原君に対して、俺はチビチビ…口をつけた。 「ここのBARはツッチーの叔父さんが経営してるんです。クラフトビールの種類が多いしカクテルも美味いですよ。後で、カクテルも飲みませんか?」 聞いて欲しい話って? 柏原君は俺と飲みに来たかったの? いつまでも本題に入らない柏原君に焦れて俺から話し始めた。 「柏原君……ただ飲みに来たわけじゃないよね?何か話しがあったんでしょ?」 「込み入った話しだからツッチーが来る度に中断するのも。料理が揃ったら、食べながら話しましょう」 確かに、柏原君の話す事も一理ある。 それから数分でピザ.生ハムのサラダ.フライドポテトが並べられた。 「揃ったし、食べましょう」 俺の皿にピザを取り分けてくれ、自分も口に頬張る。 「やっぱ美味い‼︎ ここのピザはチーズが3種類乗せてあるんです。ほら、明石さんも食べて」 食欲は無かったけど、柏原君に進められ一口食べると本当に美味しかった。 「……美味しい」 「でしょ、でしょ。大きさも丁度良いんですよ。この生ハムのサラダも美味いですよ」 「……柏原君……ご飯食べに来たわけじゃないんだよ……話しがないなら、帰るよ」 こんな状況や気持ちじゃなかったら、柏原君の言うように美味しく楽しく食べたい所だけど…今はそんな気持ちになれない。 「すみません。じゃあ、食べながら話しましょう……明石さん……響の事、すみませんでした!」 軽く頭を下げ謝る柏原君。 「何で、柏原君が謝るの? 柏原君は関係ないじゃない」 「俺が悪いんです……響があ~言う事するのは、俺のせいなんです。だから、すみません!」 「……全然、話しが見えないんだけど……」 「響は本当は良い子なんです。響とは高校2年の時に同じクラスになって……でも、接点はそんなにありませんでした。響は高校入学当初から先輩達に ‘可愛い~’ と噂される程で、性格も明るく人懐っこく誰とでも仲良く話すから友達も多く可愛がられてました。俺は顔とかは知ってたけど、俺とは関わり合う事がないだろうと思ってたし、同じクラスになっても殆ど話しはしなかった。響の周りにはいつも人が居て楽しそうだった。本当の響はそう言う子なんです」 「……神谷君が本当はそう言う子だとしても……じゃあ、何で?……柏原君は見てないから知らないだろうけど……社長室でソファに寝てる海にキスしてた……どうしてそんな事をするの?海の事…好きなの?」 柏原君は頭を横に振った。 「それは俺のせいなんです! 響は社長を好きなわけじゃなく……。話しを戻しますね。俺、高校の時にバスケ部に入ってて、そのバスケ部の先輩と響は密かに付き合うようになって、正確には付き合うって言うより遊ぶようになったって言う方が正しいかな。その先輩は顔も良く頭も良くバスケもだけどスポーツも万能で、何でもできて皆んな憧れてました。俺も最初は憧れてましたけど、部活が一緒だから徐々に先輩達の裏の顔が解り幻滅していきましたけどね。その先輩は女癖が悪い事でバスケ部の中では有名だった。絶対にバレないように色んな女の子と遊んで2股も掛けたり、飽きると違う子と遊んだりして最悪なのはその子達とのセックスの話しを自慢気に話すんですよ。それも面白おかしくね。その先輩が2年の夏休みぐらいから響と遊び始めたようで、夏休み明けに響が俺に話し掛けて来るようになった。それはバスケ部の先輩の事を知りたかったらしく、俺に聞きに来て接点を持つようになった。響からは夏休みに突然誘われて遊びに行った話しやプールにも行ったとか嬉しそうに話すのを俺は黙って聞いてた嬉しそうな響に先輩の裏の顔は言えなかった」 なぜ、俺にそんな話しをするんだろうと聞いてた……でも、何かあるんだろう。 「それで?」 「響はそれまでにも女の子と付き合ってた事はあったはずだったけど……響が先輩に惹かれていくのが話と表情で俺には解った。その日、部活が終わって俺は先に帰り先輩達数人が部室に残ってた俺は校門を出ようとした時に、部室に忘れ物をしたのを思い出し部室に戻った。部室のドア付近に響が隠れるようにして居た。俺が声を掛けようとした時に、俺に気が付いた響に人差し指を出され声は出さなかった。響は先輩と一緒に帰ろうと思って部室に来たようだった。響は部室の中の先輩達の話しを聞いてた。先輩達は楽しそうに騒いでて響の話しをしてた。‘男に目覚めたのか?’ ‘あの女の子とも上手くやってマメだな’ ‘男とセックスできんのかよ~。やっぱ胸ね~じゃん’ ‘もう、ヤッタのか~’ って、他の先輩に揶揄われて ‘女の子も良いけど、最近マンネリで~。俺、1度、ケツに挿れてみたかったんだ~。女より締まりが良いって聞くぜ。神谷なら男.男してないじゃん。胸ねーけど、挿れれば男も女も関係ねーし’って、酷い事言ってた。聞いてた響の顔が青白くなって血の気が引いてたのが解った。‘もう、やっちゃったの~’ ‘まだ~、案外ガード固くってさぁ~。キスまで~。でも、時間の問題じゃねー。俺の事好きなんだから’ ‘飽きたら、俺達にも回して~’ ‘良いぜ’ 余りにも酷い話の内容に、俺は先輩達の話しを聞いてて我慢出来ずにドアを開けて、その先輩に殴り掛かった。ま、反撃に遭って俺も殴られたけどね。響が止めに入った時に、先輩達はギョッとして逃げて行った。俺はその事が原因でバスケ部を辞める事になって……それから響が変わっていった」 神谷君にそんな事が……辛かった事は解るけど、それと今日の事と何の関係があるのか?柏原君の話す意図が解らなかった。 ただ、その当時の神谷君の気持ちは痛い程俺には解った。

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