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第362話 番外編~和樹ver.~
「ただいま」
玄関からいつものように声を掛けたが返ってくる返事は無かった。
物音1つしないリビングのドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。
やはりまだ帰ってないのか?
部屋の明かりを点け見回しても和樹の姿はない。
ソファにドサッと座ると一気に疲れが出た。
「はあ~~」
部屋の中が寒々と感じ溜息が漏れた。
いつもなら玄関から声を掛けるとリビングから「お帰り~~」と元気な声がし、リビングに入ると部屋の中は明るく良い匂いが漂ってる。
大概ソファに座って何かしてる和樹が俺の姿を見て「お疲れ様~、海~」と言って抱き着いてくる。
その小さな体を抱きしめ今日1日の仕事の疲れが吹っ飛び、家に帰って来た~と安らぐ。
今はその温もりがない。
何で、こんな事になったのか?
俺も和樹も悪いわけじゃない……神谷君に振り回されただけだ。
ショックを受けてる和樹にきちんと話し、キスの誤解を解きたい!
それと神谷君から聞いた話も和樹に伝えたい……和樹が神谷君を許すかどうかは和樹に任せるしかない。
和樹を追い掛けて行った柏原君とまだ一緒に居るのだろうか?
それとも1人でどこかに……。
そうだ! 携帯に電話してみよう。
♪♪♪♪~♪♪♪♪~……
「ただいま電波の繋がらない所に……」
無機質の機械のアナウンスが流れ、電話を切った
早く帰って来るようにLineを入れ……暫く待っても既読も返信もない。
和樹……。
ん?並木の所か⁉︎
もし…ここ以外に行くとしたら並木の所しかない……はずだ。
そう思うとそうだとしか思えなくなり、俺は並木に電話を掛けた。
♪♪♪♪~♪♪♪♪~……
数回コールした後に並木は電話に出た。
「お疲れ様です、社長。わざわざ電話掛けて来なくても無事に神谷君は送り届けましたよ。和樹君とちゃんと話し合いました?」
この口振りだと並木の所には行ってないって事か。
「そうか、手間掛けた。神谷君の様子はどうだった」
「家に着く間に私からも話しましたよ。少しは自分が悪いと思ったと思いますよ。反省の言葉も出てましたからね。神谷君の事より和樹君は?」
「……まだ帰って来ないんだ。てっきり並木の所かと……」
「なる程ね。神谷君の心配じゃなく和樹君の行方の為の電話だったんですね?変だと思いましたよ神谷君の事なら明日にお会いした時に聞けば良いと思ってましたからね。私の所には来てませんよ柏原君が追い掛けて行きましたからね~、神谷君の事でも話してるんじゃないのかな?一緒だと思いますけど……一緒じゃないと困りますよ。変な嫉妬は止めて下さいね。1人でどこに居るか解らないより柏原君と一緒の方がまだ安心ですからね」
並木の話す事も解るが……並木の所に居ないと解った事で益々不安になった。
「柏原君じゃなく、俺が追い掛けるべきだった」
「何も解らない状況で追い掛けてどうするんです?無理矢理に和樹君を会社に連れ戻して神谷君と対峙させるんですか?それも酷だと思いますよあの時は神谷君からきちんと話を聞くのが先決だったんですよ。話しを聞いた上で、今後の事を考えて和樹君と話し合うべきです」
確かに並木の言う通りだ。
あの状況で冷静な並木が言ってるんだから間違いないとは思う。
頭では解ってるが気持ち的には複雑だった。
「和樹……帰って来るだろうか?」
信頼出来る並木だからこそ…弱音が出た。
「さあ?不可抗力だとしても社長は神谷君にキスされてた現場を見てたんですからね~。ショックは大きいと思いますよ。私としてはあの時に逃げずに自分から神谷君に対峙するぐらいの気持ちがあれば…とは思いますけど。まあ、和樹君の性格や昔のトラウマとかで無理だったんでしょうね」
並木の辛辣な話しと俺の気持ちを煽る言葉に余計に不安になった。
昔のトラウマか。
嫌な事を思い出させたか。
それなら…帰って来ないかも知れない……。
「………和樹」
ここに居ない和樹の名前が自然に口から出た。
「社長! しっかりして下さいね。和樹君が帰って来る場所は社長の所しかないじゃないですか!
大丈夫ですよ! 和樹君は社長の所に帰って来ます! 不安より自信を持って、和樹君を信じて待ってれば良いんです‼︎」
不安を煽ったり励ましたりとする並木だが……確かに並木の言う通りだ!
和樹が戻る場所は、ここしか無い‼︎
俺の元しか無い‼︎
ここまで俺がどんなに和樹を愛してるか言葉にも行動でも表してきた。
和樹にも伝わってるはずだ‼︎
この何年かで俺達の絆は強く深くなってる‼︎
そう思うと不安な気持ちが少し無くなった。
「そうだな、俺達の帰る場所はここしかない‼︎ありがと、並木」
「そうですよ。社長の気持ちは和樹君には充分に伝わってます。社長の所じゃなく私を頼って来た場合は泊まらせますから、安心して下さいね」
良い事を話したと思ったら、最後には俺を揶揄う並木はやはりいつもの並木だ。
「確かに並木を頼る可能性は大だ!が、直ぐに連絡くれ! 迎えに行く‼︎」
並木を頼る可能性は大きい。
それは俺には寂しい事だが……和樹の辛かった時に俺と一緒にずっと見守ってきた並木の事は信頼し尊敬もしてる和樹だからな。
それを解ってるから、たまに俺は並木に嫉妬する時がある……並木は嫉妬してる俺を面白ろがり揶揄ってくるが…。
「はい.はい。解りました。大丈夫ですよ、社長の所に帰って来ますから。じゃあ、明日の朝に迎えに行きますからね。寝坊とか止めて下さいよ。朝から先方にアポ取ってるんですからね」
急に秘書の口振りになり、明日のスケジュールまで話す並木に呆れると共に何だか救われた。
明日も同じ毎日だと言われてるような気がした。
「解った‼︎ 大丈夫だ、和樹が起こす!」
ふふふふ……と並木が電話口で笑った。
「じゃあ、大丈夫ですね。おやすみなさい」
「ああ、今日は色々済まなかった。明日も頼む! おやすみ」
並木との電話を切り
「ふう~~」
息を吐き、ソファに背中をつけゆったりと座り直した。
大丈夫.大丈夫‼︎
和樹は帰って来る!
戻る場所はここしか無い、俺の元に戻って来る‼︎
並木に言われたように、和樹を信じて待つ事にした。
和樹とのこれまでの生活や恋人としての繋がりと絆を信じて…。
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