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第364話 番外編~和樹ver.~

「おはようございます」 「おはようございます」 柏原君と神谷君の挨拶する声が聞こえた。 昨日の事もあり、俺はドキドキ…しながら2人に挨拶した。 俺の方は昨夜に柏原君や海と話して、もう蟠(わだかま)りは無くなったけど……。 「おはよう」 「明石さん、おはようございます」 柏原君の声の後に、シュンとした神谷君が小さく挨拶した。 「おはようございます」 「おはよう、神谷君」 取り敢えず挨拶された事にホッとしてた時に、柏原君が「すみません。仕事の前に、ちょっと良いですか?」と言われ、打合せブースの一角で神谷君と3人で対峙した。 何を言われるか?ドキドキ…してた。 「ほら、響」 柏原君に促され、神谷君が俯いていた顔を上げ 「明石さん……すみませんでした。僕、僕……自分勝手な考えで……明石さんに酷い事をしました社長にも。昨日、岳に色々言われて……本当に反省してます。すみませんでした」 俺の目の前で深々と頭を下げた。 泣きそうな顔と声の震えから、神谷君が本当に反省してると感じた。 俺は甘いのかもしれないけど……そんな神谷君が不憫に思った。 「うん。もう良いよ。俺も昨日、柏原君や海と話して、もう何とも思ってないから。でも、1つだけ良いかな?」 「はい」 下げてた頭を上げ俺を見た神谷君に微笑んだ。 「就職の件とか、この先の事で不安になる神谷君の気持ちは俺にも解るよ。……信頼してる人や仲良くしてる人達と離れてしまうんじゃないかって気持ちは……。俺も一応就活とか経験してるからね。離れる不安ばかり考えるより離れてもずっと付き合っていける事を考えた方が良いと思う。今はLineだって何だって繋がっていける方法はたくさんあるんだから。そればかりに固執すると神谷君が疲れちゃうよ。もう少し相手を信じてあげて」 柏原君から色々聞いた事には触れずに、曖昧な感じで話すのは難しいけど……俺の気持ち伝わったかな? もう少し力を抜いて周りを見て、そして柏原君を信じて欲しいって言いたかったけど…。 「はい…昨日、岳にも言われました。不安な気持ちばかりで……どんどんマイナス思考になってた就活とかも勝手に考えて……これからは不安な気持ちも就活も素直に岳に話していきます。最初から、そうすれば良かった……。素直になるのが…怖かった。ごめんなさい」 また頭を下げて謝る神谷君の頭を撫でた。 「それが解ってるなら、大丈夫だよ。柏原君はあまり話す方じゃないけど……しっかりしてるしちゃんと話しを聞いてくれる人だよ。それは神谷君が1番知ってるよね」 「はい」 顔を上げた神谷君は柏原君の事に関しては、自分が1番解ってると自信のある顔をしてた。 そしてチラッと柏原君を見た……本当に、柏原君が好きで仕方ないって感じだな。 「じゃあ、今日も頑張って仕事しよう」 「「はい」」 3人で自席に戻り仕事を始めた。 俺は神谷君から謝られた事で、この件はこれで終わりだと思った……これで本当に蟠りがなくなりすっきりした。 商品掲載も最終チェックに入った事で仕事量も楽になり、昼休みには神谷君も誘ってランチ出来た その時には、神谷君本来の明るさで話してくれた 俺も柏原君も昨日の件には触れずに、たわいのない話しをし楽しく過ごした。 午後の仕事前に隣の席から、柏原君が「響も反省して、気を使って明るく振る舞ってるんです。明石さんも合わせてくれて、ありがとうございます」と言われ、俺はそんな事ないよと言う意味で笑顔で応えた。 柏原君はしっかりしてるし、気遣いが出来る人だその証拠に、ちゃんと響のフォローを欠かさない 昨日も俺が海に会いたいけど会う事に気が重いと感じとって、それなら柏原君の所に泊まっても良いと気を使ってくれた。 もしかして神谷君がした事への罪滅ぼしだったのかもしれないけど……確かに、家に帰って海と気まずい思いをする事が気が重かったけど……やはり、どんな事があっても俺が帰る場所は海の居る場所だと思い、その事を話すと柏原君は「良いですね。そう思える関係って。お互いが凄く大切で掛け替えのない相手だと解ってるのが、ちょっと羨ましいです」と言われたら、今度は凄く海に会いたくなった。 「俺もこれから響に会ってフォローして来ます。たぶん、あいつ反省して泣いてると思うから。慰める事もしますけど説教もしてきます」 そう言って笑ってた顔はやはり神谷君を放っておけない.好きだと物語ってるけど……神谷君もだけど柏原君も少しは気持ちを話せば、神谷君も不安な気持ちがなくなるんじゃないのかな~と思ったけど……柏原君なら、そこら辺も上手くやるんだろう。 これから話し合って、少しずつお互いが素直になっていければ良いなぁ~と思いながら、柏原君とは駅で分かれた。 どう言う事になったか?は、2人しか解らないけど。 今日の朝の事から、ちゃんと2人で話し合ったんだと解った。 柏原君が言うように、まだこれから色んな人と出会う中で本当に愛する人が出来るはず。 俺が海と出会ったように……神谷君のある意味一途な気持ちがずっとそうであれば柏原君もいずれは………先の事は解らないけど。 そうであって欲しいけど……もし別の人を好きになったとしても2人共幸せならそれが1番。 ……取り敢えずは丸く収まったのかな。 俺達が出来る仕事は殆ど終わり、あとはチェックだけで気持ちにも余裕ができ、俺も神谷君や柏原君と和やかに過ごし最後の1日は平穏に終わった 最後に皆んなにきちんと挨拶していく2人を見て神谷君の気持ちに振り回され.巻き込まれた1カ月だったなぁ~と、今思えば大した事でも無かったのかもしれないと笑顔を見せて皆んなと話す2人を見てそう思った。 終わり良ければ全て良し!……か。 これまで海と同棲して会社でもプライベートでも平穏無事で幸せな日々を暮らしてた俺はずっと海に守られてだなぁ~と感じた。 今回の件で改めて、自分が今幸せである事と自分の弱さが解った。  いつまで経っても向き合えない.逃げる自分はだめな人間だけど……そんな俺を待ってくれる人.帰れる場所がある幸せを離さない.離してはいけない!これからも海を信じていこうと心に誓った。 柏原君達が帰った後に、社長室で俺と並木さんと海とで「これで、また平穏な日々が戻るな」と言って笑ってた時だった。 「あっ! そうだ」 何か思いついたらしく、並木さんがいきなり俺の頬にチュッ!とキスして離れた。 俺は驚き、キスされた頬を手で触った。 海も驚き「並木‼︎」と声を荒げた。 並木さんはシラ~とした顔をし 「これでおあいこだね。社長にも、あの時の和樹君の気持ちが良く解ったでしょ?」 海は渋い顔をし並木さんを軽く睨むが、並木さんにはそんな睨みも効果無い。 「良~く解ったが……その為だけに、和樹にキスする事はないだろ!」 「やはり、体験するのが手取り早いですからね。 社長はおモテになるんですから、隙を見せずに今後気を付けて下さいね。ね?和樹君もそう思うよね?」 俺に同調しろとウインクするが……返事に困る。 愛する海と尊敬する並木さんの間で……板挟みだ ……でも俺の頬にキスしたのも ‘おあいこ’ って言葉で、わざと俺と海の為にした事だと解った。 これで、おあいこなんだから早く忘れろ!って事だろう。 そんな並木さんの事が海とは違った意味で大好きだ。 「確かに、海はモテますからね~」 俺が並木さん側に着いたと解るとニコっと笑った 「今回は頬にしましたけど……次は解りませんからね~。くれぐれも気を付けて下さいね」 「おい‼︎ 並木!……和樹は俺を信じてくれるよな?こっちに来い! 並木がキスした頬拭いてやる‼︎」 海が俺の腕を引っ張り、強引に抱きしめ俺の頬をハンカチでゴシゴシ…拭く。 「海~、そんなに力入れたら痛いよ~」 「あっ! ごめん.ごめん」 「はあ~、社長のそのダラシ無い顔…見てられません。どうぞ、ご勝手にイチャイチャして下さい30分後に戻って来ます。その後は、また仕事して貰いますからね‼︎」 パタンッ! 並木さんは呆れた顔で社長室を出て行った。 でも目は笑ってた。 それから海は頬に何度も「消毒だ!」といってキスしてきた。 これで本当に ‘おあいこ’ だね。

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