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第366話 番外編~和樹ver.~
片手で俺の頭を撫で安心するような顔で笑った。
「解ったか?」
「……うん」
「和樹が居た頃とは、また変わったかも知れないな。あと10分程で着く。和樹を連れて来ると連絡はしてある。もう何年も帰って無いだろ?取り敢えず、心の準備してろよ」
「……うん」
海の運転は来慣れてた……何度か来た事があるのかも知れない。
色々聞きたい事はあったけど……俺はそれより動揺してた。
実家を離れて、大学の時は年に1回か2回は必ず帰省してたけど……海と恋人になって同棲してからは……もう3年ぐらい帰って無い。
「親も心配してると思うから、電話掛けなさい」と、海から言われた事があって、同居(その時は、まだ恋人同士じゃなかった)して半年程経った時に、1度俺から電話を掛けた。
心配症で凄く可愛がってくれた母さんから色々聞かれても困ると思い、無事で居る事や就職が決まった事などを簡単に話しただけだった。
それから何度か電話が合っても聞かれても困る事ばかりで、仕事が忙しいとか元気だから安心してと早く電話を切ったりしてた。
俺からは電話も掛けず、そのうち母さんからも電話は掛かって来なくなった。
たぶん、父さんが何か合ったら言ってくるだろうと母さんに言ってくれたんだと思う。
それからは実家に帰省しても色々聞かれても困るし何も言わないのがお互いの為だと徐々に疎遠になってた。
俺もずっと気になってたけど、どうしたら良いか解らずに……今日まできてしまった。
海はそんな俺の気持ちに気付いてたんだ。
そして俺と親との事を気に掛けてくれてたんだ。
海の優しさに感謝しながらも……親との対面に、この数年間の事を何と説明すれば良いか?考え悩む。
嘘は吐きたく無いけど……。
仕事の事は良いとしても……住んでる場所を聞かれたら……同棲してると言わなきゃいけないかな?
海との事を知ったらショック受けるだろうし……俺も親にカミングアウトする勇気もない。
久し振りに親に会いたい気持ちと会っても困ると言う気持ちで考えが纏まらなかった。
海はどう言うつもりで……俺が何年も帰らないから連れて来たと言う事か⁉︎
それならもっと早くに言って欲しかった……こんな10分程で心の準備は出来て無いよ。
俺が悩んでるうちに……実家に着いた。
「海……」
たぶん、縋る目で海を見てたんだろう。
海はそんな俺の頭を撫で笑顔を見せた。
「大丈夫だ! 和樹は黙って、俺の側に居れば良い‼︎ここにずっと居ても仕方ない、行くぞ! 俺に任せろ‼︎」
海は車から降りて、俺を外で待ってた。
……そして俺も車を降りて、先に歩く海の後を着いて行った。
玄関のチャイムを鳴らす海。
俺は母さんが出て来るまでドキドキ…バクバク…心臓が痛い程だった。
「は~い」
あっ! 母さんの声だ‼︎
懐かしい声に、更にドキドキ…バクバク…した。
ドアを開けた母さんは海を見て、背後で縮こまってる俺を見て開口一番に話す。
「和樹‼︎ 全く、あんたって子は‼︎ 全然音沙汰無いんだからね~。何年振り?さあ、入って.入って。父さんも待ってるわよ」
母さんに何て言われるか?怖かった俺は何だか拍子抜けした。
いつもの母さんと変わらないからだ。
「さあ、朝倉さんもどうぞ.どうぞ」
「それじゃお邪魔します。和樹、行くぞ」
「あっ!うん……」
朝倉さん?母さんは海を朝倉さんと呼んだ。
海を知ってる口振りだった。
家の中に入ると懐かしい~と感じた。
ついつい自分の実家なのに、キョロキョロ…見回した……変わってない事に懐かしさと安堵した。
リビングで父さんがソファに座りTVを見ていた。俺達がリビングに入るとTVを消し、母さんはお茶の用意をしに行った。
「ご無沙汰です。今日は和樹も一緒です」
ご無沙汰?今日は?
海はやはり家に来た事があるんだ。
「……父さん、久し振り。ごめんね、全然連絡しなくって」
「ああ、母さんが心配してたぞ。元気だったか?」
「うん。元気だよ。姉さんは?」
「瞳か?瞳は子供達と出掛けてる。和樹に会いたかったと言ってたが、前から子供達と約束してたからな。残念がってた」
「そう、俺も会いたかったな。まー君と千佳ちゃんも大きくなった?」
「ああ。6歳と4歳だ、元気で家の中が騒がしいくらいだ」
良かった‼︎
姉さん達が同居してくれて、そして孫達に囲まれた生活は寂しくはないようだ。
少しホッとした。
「コーヒーで良いわよね」
母さんがコーヒーを出してくれた時に、海が「これ、つまらない物ですが」と手土産を渡した。
「あら.あら。いつも、すみませんね。孫達も喜んで頂いてますよ。いつも美味しい物をありがとうございます」
いつも?
何度か来てる?
母さんが父さんの隣に座って、やっと4人で対面した。
和やかな雰囲気で始まったけど……これから確信に触れていくんだよな。
色々聞かれるんだろうな。
元気な顔を見せて帰るってわけにはいかない…よね?
俺は段々と気が重くなり、知らず知らずに俯いてた。
そんな俺の頭を海は撫でた。
俺はギョッとし、隣の海を見た。
母さん達の前で……そんな事しないで。
海は俺を愛おしい顔で見て笑顔を見せた。
そんな顔で俺を見ないで……母さん達が側に居るのに。
俺達の関係が……バレてしまう。
まだカミングアウトする勇気の無い俺は……そんな酷い事を思ってた。
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