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第367話 番外編~和樹ver.~

父さんと母さんの顔を窺うようにチラッと見た。 海の行動に2人は一瞬驚いた顔を見せたけど、俺と目が合うと笑顔を見せた。 えっ! 何で笑ってるの? おかしいと思わないの? そして俺は海を見た。 海も笑顔を見せてた。 何か、俺が思ってた雰囲気と全然違う。 「やはり、この子は年上に可愛いがられてるのが1番なのね。お姉ちゃんが言ってた通りだわ」 何?何の話? 俺は母さんが話てる意味が全然解らない。 戸惑ってる俺に父さんが説明してくれた。 「朝倉さんが突然居らしたんだ。半年以上前かな。和樹が世話になってる社長さんだと思って、和樹の話を聞いてるうちに…その…何だ…和樹との関係って言うのか…まあ……付き合ってると言い出してな。父さんも母さんも驚いて……悪いがショックもあった」 今度は俺が驚く番だった。 海が? 父さんと母さんに……知らなかった。 海は何も言わずに………。 「朝倉さんは ‘和樹とは本気で付き合ってます。今は一緒に住んでます。社長だから無理矢理とかじゃなく会社とは関係無く、誤解が無いように言いますが知り合ったのはその前からです。男同士で驚かれたとは思いますが、どうぞ付き合う事をお許し下さい。和樹も親御さんに言えずに、会いたくても会えないと思ってるようで心おきなく会いに来れる環境を作ってあげたいんです。どうか、私達が付き合う事と同棲をお許し下さい。私は和樹と居る時が一番幸せです。本気で愛してます’ と言われても寝耳に水でね。父さんも母さんも悪いけど、直ぐには受け入れられなくてね。可愛い和樹が……何で、わざわざ男の人と?とか.いい歳した人が子供の和樹に本気になるわけ無いとか、弄ばれて捨てられるんじゃないか?とか言ったらキリがないけど、悪い事ばかりが浮かんでね。朝倉さんの事が信じられなかった。それどころか和樹をたぶらかした人だと思って、その後何度か居らした時には話も聞かずに、追い返した位だった。あの時は申し訳無かったです」 父さんと母さんが頭を軽く下げると海は手を振り 「ご両親の気持ちは解ります。最初から許して貰おうなんて虫の良い事は思ってませんでしたし、それは覚悟の上で来てましたから。気にしないで下さい」 ‘門前払い食らった’……て、落ち込んでたのは……仕事の事じゃなかったんだ。 ‘最優先事項’って……この事だったんだ。 俺、何も知らずにヘラヘラ笑って過ごしてる間に……半年以上も前から……やっと話の辻褄が合って、俺は泣きそうになった。 「その後も懲りずに何度も居らして、私達だけだと冷静になれないから、お姉ちゃんが居る時に話を聞いて……。お姉ちゃんは和樹が高校の時から男の人と付き合ってた事を何となく知ってたみたいで驚きもしなかった。それどころか ‘あの子は年上に可愛いがられるタイプだから、本人達が真剣なら良いんじゃないの。和樹の孫が見たかったとか.結婚とかさっさと諦めたら?孫なら居るし、また私が産んでも良いわ’って、朝倉さんが帰った後に言われてね。和樹とこのまま疎遠になって縁を切るより……和樹の本当の気持ちがどうなのか?聞きたかった。朝倉さんの気持ちは何度も聞いてたからね。付き合う事と同棲を認めるとか許すとかは和樹の話しを聞いてからと思って、朝倉さんに連れて来て貰うように頼んだ」 姉さん……薄々解ってたのか? 「私の気持ちはこれまでも何度もご両親にはお話した。今日は和樹の気持ちを私に遠慮せずに、正直に言って欲しい」 父さんや母さん…それと海にも促されて、俺は目に溜まってた涙を袖で拭き真剣な面持ちで母さん達に向き合った。 「父さん、母さん! ずっと連絡しなくて…ごめん‼︎ 俺が男の人とも付き合える人間だって事や……海との事……母さん達に言えずに…ううん、言うのが怖かった。どんな反応されるか?反対されたり軽蔑されたりするんじゃないか?って。だから、何も知らない方が良いと連絡もせず会わない事がお互いにとって1番良いと思ってた。海にも、その事は話した事も無かったのに……俺の事を思って、俺には何も言わずに海は1人矢面に立って…俺が母さん達に会いやすいようにしてくれたんだ俺、全然知らなかった。俺、俺…海のそんな優しい所も心の広さも俺を1番に考えて愛してくれる所も大好きなんだ! もちろん仕事の面では尊敬もしてる。俺、海の側にずっと居たい‼︎ 離れたくないんだ‼︎ ごめんね。俺の結婚とか孫とか、母さん達なりに夢見てたと思うけど……ごめん! 叶えてあげられない」 俺は最後まで泣かないで言おうとしたけど、言ってるうちに涙が後から後から頬を伝い、ポタポタ…膝に落ちた。 そんな俺を見て、海は俺の肩を抱きハンカチをくれた。 「……和樹の気持ちを聞いて……認めよう。良いな、母さん」 「和樹が泣く程好きなら、私達がとやかく言ってもどうにもならないでしょ。いつまでも子供だ.子供だと思ってた和樹がよりによって男の人となんて…夢にも思わなかったけど。実際目の前で2人を見てたら認めざる得ないわね。……和樹、これからは、たまに会いに来なさいね。朝倉さんと一緒に」 母さんは俺を凄く可愛いがってくれてたから……複雑な気持ちなのかも知れないけど……海と一緒に会いに来いと言う言葉で、俺達の事を認めてくれたと確信した。 「父さん、母さん、ありがとう。俺、母さん達の夢は叶えてあげられないけど…これからは別の方法で親孝行するよ」 「和樹が幸せな事が親には1番の親孝行なのよ。和樹が笑って元気で居てくれたら、それが一番よ」 「ありがとう」 母さんも涙を溜めていたけど、母さんは明るい声でこの雰囲気を変えてくれた。 「さてと、大事な話しは終わったし。朝倉さんの手土産でも頂きましょうね。いつも凄く美味しいお菓子なのよ。今、持って来ますね」 母さんがキッチンに行く後を俺も着いて行く。 キッチンで母さんは涙を拭いてた。 「母さん、ごめんね。そして俺の気持ちを受け入れてくれて、ありがとう。本当なら、縁を切られても文句言えないのに……俺は母さん達の子供で幸せだ」 母さんは振り向いて泣き跡の残る顔で、笑顔を見せた。 「どんな子供でも自分達の子は可愛いのよ。確かにショックだったし、育てた方を間違えたと思ったりもしたけど……。和樹は和樹だし、私達の可愛い子供には変わらない。これでも散々父さんと相談して悩んだりしたのよ。でもね、朝倉さんが何度も何度も足を運んで来てくれてね。私達も朝倉さんの本気が解って認めざる得ないと思って、今日は和樹の気持ちを確認したかったし、これを機に家にも遠慮無くいつでも帰って来て欲しかったのよ。朝倉さんのお陰ね。朝倉さんを大切にしなさい」 母さんの本音を聞きたかったと思って、キッチンに入って話をしたけど……やはり俺は泣いてしまった。 「……ありが…と」 「本当に泣き虫で困った子ね。これで朝倉さんと一緒にやっていけるのかしら……心配だわ」 「大丈夫……海は優しいから。俺の泣き虫や弱い所も全部知ってる」 「そう。和樹、何か合ったらこれからは遠慮なく連絡して来て。いつでも帰って来て良いからね」 「うん!……ありがと」 ここにも俺の帰る場所があった。 もう帰る事もないと思ってた場所……海が繋いでくれた。 温かく俺を待ってくれた人達が居る場所。 俺は周りの人達に本当に恵まれてる! 自分も、その人達に少しずつでも何か俺にできる事を返していきたいと心の中で思った。

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