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第368話 番外編~和樹ver.~
それから海の手土産のお菓子をお茶請けにし、和やかに過ごした。
殆ど、母さんの質問攻めに合ったけど。
「料理はちゃんとしてるの?」「ちゃんと、ご飯は食べてるの?」「洗濯は溜めないで豆にするのよ」「仕事はどう?」「あまり我儘言って、朝倉さんを困らせないようにね」etc……。
ずっと連絡もせずに居た事もあり、母さんは凄く心配して煩いくらいで、俺と海は苦笑してた。
夕方近くになり、海からはなかなか言い出せないと思い俺から切り出した。
「海、そろそろ帰ろうか?」
海は父さんや母さんに気を使いながらも「そうだな」と話すと、母さんは「夕飯、食べて行きなさいよ」と、言われたけど「また、来るから。その時には姉さん達にも会いたいし」と、また来る約束をすると母さんも父さんも笑顔を見せて「そうね。また、来れば良いわ」「いつでも来なさい」と言ってくれた。
家を出る前に、もう一度家の中を見回した。
また、海と来よう!
父さん達に会う前は困惑と恐怖で複雑だったけど……帰る時には気持ちも軽くなり何だか清々しい気持ちだった。
母さん達も今日まで色々悩み複雑な気持ちで迎えてくれたと思うけど……ありがとう。
そして誰よりも海に感謝の気持ちでいっぱいだった。
見送りに外まで出てくれた母さん達は何度も「また来るのよ」「体には、気をつけない」と、最後の最後まで俺の事を心配をしてくれた。
ずっとこうやって心配してたんだろうなと思うと心が痛かった。
父さんは「和樹の事、頼みます」と海に言ってた
「任せて下さい‼︎ これからも宜しくお願いします‼︎
また、和樹と寄らせて貰います」
海の言葉に安心した顔を見せた2人に、俺も「仕事もあるけど、また海と一緒に来るね」と言って別れ難いけど、車に乗り込み手を振り、車が走り出しても後ろを向き車の中から母さん達の姿が見えなくなるまで手を振った。
母さん達も車が見えなくなるまで手を振ってた。
「見えなくなっちゃった」
母さん達の姿が見えなくなると俺は前を向き……俯いた。
海の優しい手が俺の頭を撫でてくれた。
「また、来れば良いさ。これからは遠慮なく来れるんだからな」
「……う…ん」
俺は感極まって……涙が出た。
「海……ありがと」
声が震えて色々感謝の気持ちを言いたいけど……涙で、今はそれを言うだけで精一杯だった。
「どう致しまして」
そう言って、俺の気持ちが落ち着くまで音楽を掛けて黙って運転してた。
1時間もすると俺もだいぶ落ち着き涙ももう止まった。
「和樹、ちょっと寄り道して良いか?」
「うん」
海は大通りから道を逸れ脇道を暫く走り、今度は山道を登って行く。
広めの駐車場に車を置き降りて外に出て少しあるくと、開けた景色が見下ろす展望広場だった。
広めの駐車場には数台の車と数組の人達がやはり展望広場から景色を見てたりベンチに腰掛け休憩して居た。
俺達も展望広場の柵の側まで行き、目の前に広がる景色を見下ろした。
「凄~い! あっ! 丁度、夕日が。凄~く綺麗だね」
今日は天気も良かったから、夕日も赤く凄く綺麗だった。
その夕日が街並みを赤くオレンジに染め緑の山々も染めてた。
「良い時間帯だったな」
「うん!」
俺はスマホを取り、その景色を写メに収めた。
そして今日の記念に、海と一緒に夕日をバックに写メも撮った。
この写真見る度に、今日の事を思い出そう。
そして感謝の気持ちを忘れないようにしよう。
暫く夕日に染まった街並みの景色を眺めて居た。
「もう少し歩こうか?」
海に誘われて後を着いて行く。
展望広場からの小道の狭い階段とも言えないような道を上がり進んで行く。
この道を知ってる地元の人だけが通るような狭い道で、俺と海だけが歩いて居た。
スーツを着て歩くような所じゃないけど?
革靴で歩き辛くないのかな?
丸太を使った狭い階段を10 段程上ると、今度は砂利と土のやはり狭い道を歩いて行く。
海は何度か来た事があるらしく、迷いも躊躇いもせずにどんどん歩いて行く。
鬱蒼と育った草や木々の中を暫く歩く。
そこには小高く小さな広場が広がり、前方にはポッカリと空いた木々の間から景色が良く見え、ポツンっと背もたれもない木のベンチが1つだけあった。
何だか、別の世界に来たみたい。
静かでサワサワ…と心地良い風に木々が揺れ、小さな広場には前方からベンチに夕日が差し込んで何とも暖かみがあり癒される空間だ。
「うわぁ~、凄~い‼︎」
景色を見ようと柵に小走りで近寄る。
「柵には寄り掛かったりするなよ。結構、古いからな」
「は~い」
海に注意され、返事しながらも柵に近寄り景色を眺めた。
「ここからの景色も良いね」
「さっきより少し高いからな。ここは人も滅多に来ないから、静かで良い」
「穴場だね」
「和樹に、ここからの景色を見せてやりたいと思ってた」
「木々の緑とオレンジ色の夕日で凄く綺麗だね」
「俺も夕日は初めてだ。ベンチからも見れるから、こっちに来て座って見よう」
「うん」
海はベンチに座って俺を待ってた。
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