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第2話

浜辺に降りる階段を目指すために歩行者用信号機が青に変わるのを並んで待つ。走る車も無いから渡って仕舞えばいいのに、引いては寄せる潮の音が僅かな時間を消費する会話を隠すように被さる。広報の湯本がどうとか後輩の長田がどうとか。たわいもない日常会話。 横断歩道を渡り、信号機の青い光がほんのり届く場所から一段下がると、すべてを吸収するように砂浜がてらりと光っているのが見える。階段を下ると今まで触れなかった肩があたる。 酒のせい?でも酔いつぶれるにはまだ程遠い酒量だ。 こんなにも近い距離だったか。 藍と黒を混ざり合わせた景色の中に船の光がぽつぽつと見える。水平線なのだろうか、遠い光。まだ遠い。 一段降りるたびにまた肩があたる。 また、あたる。いつもは当たらないのに。 階段が終わり一歩踏み出すと慣れない砂浜に足が沈み込み不安定になる。軽くぐらついた身体を支えるために二の腕を掴まれた部分が仄かに熱を保つ。 「だいじょうぶ。ありがとう」 タカヒロには目線を合わさず少し距離を取る。 ふらついちゃダメだ。何故か強く思う。 波の音が近くなる。 遠くから届く僅かな光を反射して灰色の波が深く呼吸をするように寄せては引いていく。予想した通り浜辺には俺たちふたり以外の人影はない。 靴が濡れそうで濡れない波際をふたり縦に並んで歩く。微かに残る自分の足跡を確かめながら歩く俺の後をアキヒロが同じペースでついてくる。 何も話さなくても心地いい時間。 このまま遠くに見える堤防まで歩いてもいいかもしれないなんて思わせるほど。でも次の電車を逃したらその次は最終電車しかない。そんなことを考えながら。 ふと気付くといつの間にか鞄を掛けていない右側の二の腕から腰にかけて気配を感じる。あたりはしないけれど熱が伝わるほどには近い。ほんの少し歩く速度を崩して仕舞えば簡単にぶつかってしまう。そこを中心としてじわじわと微熱が身体全体に広がりはじめる。 うまく呼吸ができない。 身体の中心まで浸透してしまったらどうなってしまうのだろう。 「あ。昴」 一歩大きく踏み出し微熱を散らすように慌てて発した声にタカヒロも空を見上げる。すぐ返ってくる反応から見ても酔ってはいないようだ。 「え。どれ?昴って24時間テレビのスバル?」 「それはサライ。星が固まってるとこわかる?あれが昴。その下にアルデバラン。カシオペアにペガスス。アンドロメダ」 「星座なんてオリオン座しかわからないよ」 空気を変えようとしただけなのに、久しぶりにゆっくりと見る星空に興奮する。少し雲がかかってきているけれど星の並びがわかるほどには見える。 「オリオン座は多分地平線のまだ下かな」 「じゃあ北極星は?」 あれかな、と雲間に見える1つの星を指す。 「んー、どれ?この方向?」 それぞれ空を見上げていたからそれまでの微熱が散らされたことに安心しきっていた。 背後から両腕を俺の頭を挟んでまっすぐに差し出され一瞬呼吸が止まる。触れて居ないのに両耳に体温を感じる。触れない様に伸ばされた腕が熱を発してる。強引ではない包み込むような優しい熱に囚われる。 背中にも。後頭部にも。熱が。 髪の一本一本に感覚があるように息を感じる。 波の音も聞こえない。

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