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見えない光10※
電話を終えて、巧が寝室に戻ってくるまで、樹は薬の効果に朦朧としながら、玩具によって引き出される残酷な悦楽に狂い乱れていた。
もう、意識はとうの昔に半ばなくしているのだろう。巧が予め仕掛けていたカメラの無機質なレンズの前で、恍惚の表情を浮かべて鳴き呻く樹の姿は、寒気がするほど艶めいていて……美しいのに哀れだった。
「樹くん?」
時折、月城が心配になってそっと声をかけると、樹はどろりとした大きな目をこちらに向けて、甘えた鳴き声を撒き散らす。焦点の定まらない黒目がちのその瞳に、愛しい男の姿を映す日は来ないのだ、恐らくは永遠に。
巧にこの先ずっと囲われ飼われて、飽きたら……下げ渡される。好事家どものペットとして。これまでの少年たちがそうだったように。
汚れきったこの手で、また黒い罪を重ねるのだろうか。あの男の片棒を担いで、無垢な魂を穢し堕とすのか。
不意に込み上げてきたこれまで感じたこともないような激しい怒りを持て余し、月城は腕を伸ばして、樹の小さな頭を抱え込んで抱き締めた。樹はピクンっと震えたが、尻をもじもじと揺らしながら、大人しくされるがままになっている。
「樹くん。許して。俺、俺は」
「どうした? 猫同士がじゃれついて。颯士、その子の色気にあてられたか?」
後から声がして、月城はハっとして振り返った。いつの間にかベッドのすぐ近くに来て、面白そうに自分たちを見下ろす巧と目が合った。
月城は慌てて樹から手を離したが、巧はニヤニヤしながら歩み寄ると
「抱いてみろ、樹を。1度そういうのも見てみたかったんだ」
月城は焦って首を横に振った。
これまでも何度も、巧に言われたその戯れな命令を断ってきたのだ。
「いいから抱け、颯士。これは俺の命令だ」
自分は抱く側じゃないと、これまで同様の拒絶の言葉を口に出すより早く、巧の声が落ちてきた。相変わらず楽しげな揶揄い口調だが、見上げる巧の目は……笑っていない。
「でも、俺は」
「口答えはなしだ。勃たないなら俺が手を貸してやる。いいから、抱け」
巧の口調がキツくなった。月城はぐっと唇を噛み締め、巧から目を逸らした。
こんな心理状態で、樹を抱く為に勃つはずがない。そもそも、自分は決してゲイなわけじゃないのだ。だが、逆らっても無駄なのだと、過去の陰残な記憶が教えてくれる。
この男は、自分の欲望を満たす為ならどんな手段も厭わない。薬や器具を使ってでも、望み通りのシチュエーションを楽しもうとするだろう。以前、他の少年の時にそれをやらされて、その後数日寝込んだこともある。
逆らえば、もっと残酷な要求をしてくるだろう。月城は項垂れたまま、深く息を吐き出した。握り締める自分の拳が震えている。
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