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見えない光11

「父さん。それは自分でもよくわかってます。でも俺は」 「わかっているなら、余計なことに口出しはするな。おまえは自分のやるべき事をやれ」 藤堂の切り捨てるような言葉に、薫は尚も食い下がった。ここで引き下がるわけにはいかないのだ。 「父さん。俺はきちんと卒業出来る以上の単位は取っているし、将来を見据えた上で就職先にもコネクションを作っている。学費を出してもらってる身なのは、充分わかってます。父さんの期待を裏切るようなことはしていない」 藤堂はギロっと横目で薫を睨んだ。 「だったら話は終わりだ。薫。樹のことは、私とあれの実の母親がよく考えた上で決めたことだ。おまえが首を突っ込む問題じゃない」 「だったら父さん。せめて俺の納得いくように質問に答えてください。俺のアパートに樹が初めて訪ねて来た時、あの子は数日何も食べていないみたいに腹を空かせていた。まだ中学生のあの子が、家出して帰って来なくても、あんたたちは探そうともしてなかった。どうしてです? 何故あの子をそんなに放ったらかしにしてたんですか?」 薫のまくしたてに、それまで無表情だった藤堂は、初めて反応を見せた。怪訝そうに眉を寄せ、じっと薫を見つめて 「おまえは、どうしてあの子にそこまで肩入れするのだ?何故ムキになる。私の再婚相手の連れ子だぞ、アレは。本当の兄弟でもあるまいに」 「それは」 藤堂は眉をひそめて 「やはり、巧の言っていたことは本当だったのか」 まるで独り言のように呟いた。 ……巧……? 叔父のことか。どうして今その名前が……? 「巧……叔父さんが何て言ってたんですか?」 藤堂は少し嫌そうに顔を歪めて 「あの子には……樹には、少し特殊な心の病が潜んでいるらしい」 「心の……病い?」 藤堂は再び煙草に火をつけると 「巧はその方面の専門家だからな。まだ幼いからそれほど顕著には表に出ていないが、人並みの罪悪感が欠けている病いだ」 薫は唖然として、父親の顔を見つめた。 何を言っているのだ、この男は。 それが欠けているのは、心に情緒的な欠陥があるのは、目の前のこの男自身だろうが。 「そんなっ。いったい何を根拠にそんな」 「私も前から気になっていてな。巧に相談していろいろ調べてもらっていたのだ。勉強を教えるという名目で、心理テストやら面談を受けさせていたのだがな」 「樹は、病気なんかじゃない」 「いや。明らかにそういう兆候が現れているそうだぞ。あの子が自分の妹にしたことも、それが原因だそうだ」 藤堂の意外な言葉に、薫は目を見開いた。 「樹が……妹にしたこと?」 「まだ産まれて間もない頃にな。……ああ。おまえは詳しく知らんのか」 「どういう……ことですか?」 「怪我をさせたのだ。自分の妹に故意にな。妹が乗っているベビーカーを坂の上から勢いよく追い落としたんだ。華はその時の事故が原因で、片目の視力がほとんどないのだ」

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