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見えない光16

「父さん。樹は何処です。巧叔父さんの所に行っているんですね?」 なるべく感情的にならず、穏やかに尋ねた。 今はまず、樹の顔を見て、本人から直接話を聞きたい。 「おまえには関係ない」 「父さん。お願いです。樹に会わせてください。俺は彼から直接、話を聞きたい」 藤堂は眉をひそめ、吸いかけの煙草を灰皿にねじ込んだ。 「聞いてどうするのだ? おまえが首を突っ込んだ所で、事実は変わらんぞ」 「それでも俺は、樹に会いたい。会って顔を見て、何があったのかを、彼の口から直接聞きたいんです」 藤堂はしばらくの間、無言で薫の視線を受け止めていた。やがて、ふぅ……っと深いため息をつくと 「どうあっても引く気はないか……。相変わらず頑固だやつだな、おまえは。ああ、そうだ。樹は、巧の所に行った。これは樹自身も望んだことだ」 「……叔父さんの家は何処です。前と同じマンションですか?」 藤堂は不機嫌そうに鼻を鳴らして頷いた。 樹の居場所さえ分かれば、もうこの話の通じぬ父に用はない。 薫は踵を返し、喫煙ルームのドアに手を掛けた。 「待て。今から乗り込んで行くのか?」 「ええ。そのつもりです」 薫は振り返り、イライラしながら答えた。 何故か酷く、焦燥感に駆られていた。一刻も早く、樹の顔が見たい。 「こんな時間に、アポも取らずにか?」 鼻で笑うような父の言いざまに、抑え込んでいた怒りがまた込み上げてくる。 「電話番号も以前と変わっていませんよね?」 「そうだな。変わっとらん。まずは電話で相手の都合を確認してから行けよ。礼儀知らずな真似をして、私に恥をかかすな」 薫はぎゅうっと拳を握り締めた。 「わかりました。失礼します」 父親に背を向け、ドアを開けて外に飛び出す。 「馬鹿者が。すっかりたぶらかされおって」そう呟く父親の声が、微かに聴こえた。 ……馬鹿はどっちだ。クソ親父が。 心の中で悪態をつきながら、エレベーターのボタンに手のひらを叩きつける。 ……樹。待ってろ。兄さん、今からおまえに会いに行くからな。 脳裏に浮かぶ樹は、力なく目を伏せていて、何故だかとても哀しげに見えた。嫌な胸騒ぎがどんどん膨らんでいく。なかなか変わらない階数表示に苛立ちが増していく。 「樹……」 ようやくきたエレベーターに、薫は急いで飛び込んだ。

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