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見えない光17

「樹。どこだ?」 (……兄さん。僕は、ここにいるよ) 「おい、樹! どこに行ってしまったんだ?」 (……僕は、ここだよ。見えないの? すぐ目の前に、いるよ) 「樹。頼むから出てきてくれ! 兄さんに顔、見せてくれよ!」 自分の声が、薫には聴こえないらしい。 樹は哀しくなって、すぐ目の前にある薫の顔を、そっと両手で包み込んだ……はずだった。 でも、その手は薫の顔をすり抜けてしまう。 慌ててもう1度、今度は薫の腕を掴もうとしたが、また……すり抜けてしまった。 樹は呆然と自分の手を見つめた。 実体がないのは、自分の方だ。 この手では、薫に触れられない。 この姿では、薫に見つけて貰えない。 (……にいさん……) この声も、薫には届かないのか。 目の奥がじわっと熱くなった。 「おまえが悪い子だからだよ」 不意に後ろから巧の声がして、樹はびくんっと飛び上がった。 急に、首にズシリと重みを感じる。 これは、巧につけられた首枷だ。 (……っやだ! にいさん、助けてっ) 視線を彷徨わせていた薫が、こちらを見た。 哀しげに顔を歪め、腕を伸ばしてくる。 樹はその腕に必死に縋ろうとした。 だが、首枷から伸びた細い鎖を、巧が後ろからすごい力で引っ張ってくる。 あとちょっとで届く、という所で、薫の指先が逆に遠ざかっていった。 (……やめてっ離してっ。にいさんっ助けてっ) 叫ぶ声も虚しく、薫からどんどん引き離されていった。遠ざかる薫の姿が、闇に溶けていく。 (……にいさんっっっ) 唐突に目が覚めた。 自分の叫び声が、まだ耳にこびりついている。 心臓が嫌な感じにドキドキして、全身に冷や汗をかいていた。 樹はカッと見開いた目で、白い天井を見つめた。 ……ここは……どこ? 夢だったのだ。さっきのは。 でも、夢の中の光景の方が、生々しくてリアルだった。目が覚めたはずなのに、頭がぼんやりと重たい。 「うなされていたね。大丈夫かい?」 穏やかな声が落ちてきて、頭をそっと撫でられた。樹は声のした方に目を向ける。 そこにいるのは、月城だった。 気遣わしげに眉をひそめ、自分を見下ろしている。 「つきしろ、さん……」 しゃがれた自分の声に、びっくりする。 月城は眉をさげ、頭を優しく撫でてくれた。 「のど、乾いたかな。酷い熱だったから。ちょっと待ってて」 優しい手が頭から離れ、月城の姿が視界から消える。それを目で追おうとしたが、首が動かない。いや、首だけじゃない。全身が、鉛のように重たくて動けなかった。 ……熱……。そっか……僕、病気だったんだ。

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